定跡

対矢倉 左美濃作戦

マイナビ将棋BOOKS 対矢倉 左美濃作戦
著者 :中田 宏樹
出版社:マイナビ
出版日:2012-01-25
価格 :¥691(2024/02/05 23:41時点)
r1(評価:級位者)
r2(評価:初段~三段)
r3(評価:四段以上)

相矢倉の後手番の作戦として、先手が飛車先不突き矢倉で来るのだから△3三銀と受ける必要はなく、だったら△3三銀と上がらずに△3二銀のまんまにしておけばいんじゃない? という考えから、左美濃の形にする、というのがある。何年か前、佐藤康光が「ボクは優秀だと思うんですが誰もマネしてくれなくて」とグチっていた作戦である(笑)。
リクツから言えば間違っていないし、実際、矢倉であれば△4二銀△3三銀△5二金△4三金△3二金と5手必要なところを△3二銀△5二金△4三金の3手で済ませて(玉移動は同じ2二までということでカウントせず)、場合によっては後手にもかかわらず先攻しよう、という意欲的な作戦だとは思う。

大まかに言うと、早めに△6四角と出た手に対して▲3七銀と受けるか▲3七桂と受けるかで、それによって先手側の陣形が▲4六銀▲3七桂になったりスズメ刺し(っぽい形)になったり森下システム風になったりする。これらに対してそれぞれの対策が解説されている。また、左美濃を咎める意味で逆に先手から早めに▲2五歩と突いてくる形も解説してある。
しかし、それぞれの内容は相当にボリュームがある。本当に戦法として成立させるためにはこれくらいの対策は立てておかなければいけないのだろうが、それにしても変化が多い。

また、そもそも章立てがあまり多くないので、それも読みづらい元になっていると思う。なにしろ「左美濃編」と「▲2五歩早突き編」だけなのだ。もっと細かく章立てをして、それぞれの基本図から始めた方が、より体系的に理解できるはずだ。編集も止めろよ……。

内容はとても高度だし、定跡形の矢倉に疲れた後手番の秘策として勉強しておくのは悪くない。なので、有段者は一度見ておくといいだろう。上記の通り盤駒がほぼ必須なので、2段くらいではとても読みこなせないと思う。
せっかくの内容なのにもったいないなぁ……と思った一冊。

作成日:2012.02.04 
矢倉

よくわかる石田流

マイナビ将棋BOOKS よくわかる石田流
著者 :高崎 一生
出版社:マイナビ
出版日:2012-01-25
価格 :¥1,540(2024/02/07 08:28時点)
r1(評価:級位者)
r2(評価:初段~三段)
r3(評価:四段以上)

「よくわかる」シリーズ。今回は石田流。久保2冠や戸辺、菅井といった「使い手」も多く、タイトル戦などでもたびたび登場しているホットな戦形なだけに、なかなかにタイムリーだと言えるだろう。

内容は、

vs棒金・二枚銀
棒金の基本的な形から、▲7八飛▲6七金とする対策、それに対する△5四歩からの森内流を解説し、▲7七桂と跳ねない石田流の形まで解説。金の動きを保留し、▲7八金とすることも。
vs持久戦
△5四歩△5三銀から左美濃にする手と、△6四歩△6三銀から居飛車穴熊や銀冠などにする展開の解説。最新の▲7七角型にして▲4五銀から▲6五歩、という手順の解説もある。
vs右四間飛車
超、といってもいい急戦から、居飛車穴熊にする右四間まで。特に超急戦は手順解説が多い。
升田式石田流
基本的な升田式の狙いから、▲7四歩の鈴木新手、▲7五飛の久保新手、▲7四歩△同歩▲5八玉や▲7四歩△同歩▲4八玉など。
vs4手目角交換
▲7六歩△3四歩▲7五歩△8八角成のあとの解説。▲同飛と▲同銀と両方の解説がある。△2八角▲1八飛の形、というとわかる人が多いのかな?(少ないだろ(笑))
補足
落穂拾い、といった感じで、今までの仮説の中の変化手順や、取り上げなかったけどこんな感じで指せばいいよ、といった解説。

敢えて詳しく説明させていただいたが、いろんな形についてかなり突っ込んだ解説をしているので、いい意味でも悪い意味でもいままでの「よくわかる」シリーズっぽくない。想定棋力が上なのか、最近流行の戦形だから盛りだくさんにしたのか、ちょっとビックリするくらいのボリュームだった。
また、細かい話だが、補足で細かい(?)展開の解説をしてくれていたのもよかった。多分本編に組み込んでたら煩雑だっただろうし、巻末に持ってきたことでちょっとした「お得感」も出ている(笑)。

なんだかビビらせるかのような煽り方だが、逆に言うとこの1冊で石田流がだいたい指せると見ていいと思う(できれば鈴木本あたりで「うまくいった形」も勉強してほしいが)。その点ではお勧めの一冊。
有段者であっても、最近のタイトル戦のまとめだと思って手にとってみるのをお勧めする。かなり詰め込まれている感じはするが、知っている変化が多いだろうからそんなに苦にならずに読めるだろう。知識がすっとまとまる感じがしていいと思う。

作成日:2012.02.04 
三間飛車

【決定版】駒落ち定跡

【決定版】駒落ち定跡
著者 :所司 和晴
出版社:マイナビ出版
出版日:2010-09-28
価格 :¥2,244(2024/02/06 06:10時点)
r1(評価:級位者)
r2(評価:初段~三段)
r3(評価:四段以上)

8枚落ちから香落ちまで、駒落ち定跡を網羅したような本。
定跡手順をちゃんと解説していること、前書きに「3枚落ちと5枚落ちを外し、8枚落ちを加えた」とあることなどから、おそらく『将棋大観』を意識して書かれたものと想像する。

なので、いい点は『将棋大観』と同じで、基礎的な駒落ち定跡が覚えられること。本書を読めば、「なんで駒落ちを指すか」がよく判ると思う。定跡手順だけではなく、「ここではこう考えて攻めましょう」「こういう方針で玉を寄せましょう」といった言葉がそこかしこに出てきて、「なるほど、こういうことを勉強するために駒落ちを指すのか」というのがよく判る。
ただし、逆に言うと、そういう「駒落ち定跡」の解説しかしていないので、白砂のように『定跡なんかフッとばせ』から駒落ち定跡を勉強したような人間だと、本書は「定跡のウソ」だらけの本に見える。いや、そこまで言うのは言い過ぎではあるのだが、『定跡なんかフッとばせ』や、本書よりあとの出版だが『最強の駒落ち』のような本と比べると、かなり作り物くさく感じる。

なので、勉強をするのに本書を手に取るのは悪くないと思うのだが、本書をうのみにするのはよくないと思う。
できれば、前述の2冊を同時に読み、「実戦力」を身に着けてほしい。

作成日:2011.09.12 
駒落ち

よくわかる振り飛車穴熊

マイコミ将棋BOOKS よくわかる振り飛車穴熊
著者 :佐藤 和俊
出版社:毎日コミュニケーションズ
出版日:2011-05-25
価格 :¥558(2024/02/06 23:08時点)
r1(評価:級位者)
r2(評価:初段~三段)
r3(評価:四段以上)

「よくわかる」シリーズ第2弾とのことで、アマチュアには嬉しい振り飛車穴熊。広瀬が王位を取った原動力にもなった戦法で、最近急にプロでもクローズアップされている。

内容は四間飛車穴熊と三間飛車穴熊。それとちょっとだけだが、穴熊の終盤講座として穴熊の優秀性を説き、布教活動をしている(笑)。
詳しく言うと、

  • 四間飛車は「居玉棒銀」「△3一銀型棒銀」「棒銀」「ナナメ棒銀」「玉頭位取り」「銀冠」「相穴熊」「対矢倉」。
  • 三間飛車は「対△6五歩早仕掛け」「対左美濃」「相穴熊」に加え、矢倉流のような四間飛車への組み換えと、石田流。
  • 終盤講座は美濃囲いとの比較によりゼット(絶対に詰めろがかからない形)に持ち込みやすいということ、ゼットの状態から攻めること、ゼットを作ってから攻めに行くこと、ゼットを作って受けること、など。その他、穴熊で目を配るべきマス目や実戦解説など。

となっている。

これだけのことを盛り込んでいるので、もちろん内容そのものは本筋だけをカタログ的に紹介するに留めている。ただし、頻出する形をうまく取り上げている(例えば、四間飛車に△6五歩急戦の形は載っていない)ので、振り飛車穴熊を指すには困らないはずだ。
また、居玉で棒銀、△5三銀と備えない単純棒銀(△3二玉まで囲ってあとは一目散に棒銀に来る形)、矢倉など、級位者が「猪突猛進してくる」攻め筋についても紹介し、さらに受け方を教えている。これはいいと思った。対居玉棒銀などは実は穴熊に囲ってすらいないのだが(笑)、やられて困ると思っている人には嬉しい解説だろう。
一方、三間飛車穴熊については「定跡化が進んでいないので……」と素直に述べている通り、形を解説するだけに留められている。類書もあまりないので、できれば別の形でもいいから一冊本を出してほしいところだ。

有段者であれば『四間飛車穴熊の急所』などでもっと深く勉強すべきかもしれないが、4段くらいまでなら本書で形を覚え、あとは実戦で殴り合って吸収して行くことで自分のものにできるはずだ。
近年振り飛車穴熊は不遇の時代を過ごしていた(と思う。白砂は穴熊は指さないので)。
かつての『史上最強の穴熊』のように、「穴熊の反撃」となればいいと思う。

作成日:2011.09.05 
穴熊

超急戦横歩取り

超急戦横歩取り (将棋最強ブックス)
著者 :高橋 道雄
出版社:創元社
出版日:2011-08-19
価格 :¥830(2024/02/06 02:47時点)
r1(評価:級位者)
r2(評価:初段~三段)
r3(評価:四段以上)

横歩取りというか横歩取らせというか……後手番から見た横歩取りの本。すべて先後が逆になっている。なので、▲6五角戦法は△4五角戦法だし▲7七桂戦法は△3三桂戦法のことである。目次を見て「なんでここで7七桂戦法が?」と思ってしまったのはナイショだ(笑)。

内容は、横歩取りの基本を押さえる、というより、メインストリームではないハメ手定跡っぽいものを抜き出して解説している感じである。内容も『定跡外伝2』とかぶっている部分も多い。
ただ、創元社らしい「図面大きくいっぱい」なので、横歩取り初心者でも面白く読めると思う。相横歩△2七角戦法などもあるので、3段くらいまででも十分に楽しめるだろう。

一方、△3三桂戦法などについては、奇襲一発でハイおしまい、みたいになっている。△3三桂戦法は相振りっぽくなる地味ーな戦法でもあるので、本書だけで指しこなすのは難しいかもしれない。

個人的には、相横歩の▲4六角の変化を懐かしく読んだ。
白砂が大学生の頃だったと思うが、この手は青野が指した新手で、この頃『近代将棋』誌の観戦記は盛り上がっていたものだ。普通▲8二歩△同銀▲5五角と打つところを、▲4六角△8二角▲同角成△同銀▲5五角とすれば1歩省略できる。メカニズムを一言で説明するとそういうことなのだが、この論理的な構造はすごいと思った。で、じゃあ後手は△8二角以外に応手がないのか、誌上ではいろんな変化が飛び交っていた。確か「横歩取りは生きている」の連載もあったように記憶してるんだけどどうだったかなぁ……。白砂が定跡ヲタになったのはこの体験もあったのかもしれない。

横歩取りの「面白さ」をうまく抜き出した、創元社の仕事らしい良書と思う。

作成日:2011.09.03 
横歩取り
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