手を抜かない押さえ込み

将棋で一番危ないのは少し有利なとき、という話をどこかで読んだことがある。至言だと思う。白砂の場合も、少しの有利のときは意外と逆転負けしている気がする。逆に少し不利だったりすると、気がつくと勝ってたりするんだけど(笑)。
少し有利なときというのは、なんとなく自分でも自覚があるものだ。「あ、少し指しやすいんじゃない」とか。相手の方が時間を使ってたりするとものすごい自信になったり(笑)。

問題はそういうとき、どんな方針で行くかだ。

アマチュアの場合、少し有利なときはむしろ積極的に行った方がいいように思う。ヘタに有利を守ろうとしても、受けの苦手なアマチュアには荷が重い。少し不利だと自覚して暴れてくる相手を押さえ込めずに逆転負けしてしまうのだ。
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今回はそんな押さえ込みの話。

第1図は島-谷川戦。なんでも将棋まつりの席上対局だそうだ。
駒の損得はないが馬ができているし、龍もできそうだから先手が少し指しやすいと思う。振り飛車党ならば互角か後手有利と言うかもしれないが、次の一手を見るとそうも言えなくなるのではないだろうか。

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第1図からの指し手
▲4七桂(第2図)

確かにダイレクトに△5五銀と出られると後手が有利になるだろうが、それにしてもここで▲4七桂とは。団体戦でこんな手を指して、それで攻め潰されて負けたら何を言われるか判ったもんじゃない(笑)。
しかし、冷静に見てみると後手が困っている。次の攻め手がないのだ。単純に▲5六馬と取られるとホントに手も足も出なくなる。こう考えると、▲4七桂は好手だと判るだろう。

「少し有利なとき」に押さえ込みに行く場合は、この例のように「そりゃやりすぎじゃねーのかい?」と思うくらい過剰でも構わない。友達をなくすくらいの指し方でちょうどいいということなのだろう。

これができないから、アマチュアならば攻めていった方がいい……と白砂は思う。もちろん、こうやって押さえ込めた方が勝率も上がるのだろうが、それができるくらいならその人は最初っから勝率は低くないはずだ。

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ちなみに、第2図から実戦はどう進んだか。

第2図からの指し手
△1二香(!)▲1一飛成△2三歩(!)▲2一龍△8二玉▲2三龍△7二銀▲5六馬△9四歩(第3図)

 じっと我慢。
△1二香から△2三歩と、じっと香を取られるのを防ぐ。受けられるとつい攻める手を考えがちになるが、ここで香一本損しないのは大きい。プロらしい芸だ。白砂には絶対に指せない(笑)。
そのあとも、△8二玉△7二銀△9四歩と玉をじっと整備。手が出せない状況とはいえ、ここで耐えられるのは凄いと思う。

もっとも、それは先手についても同様で、▲5六馬と万全ではあるが、かといって具体的な攻めとなると難しい。ヘタに動いて△2二飛が決め手になる……なんていう展開では目も当てられない。

実戦はこの後も先手の押さえ込みが続き、そして無事押さえ込んで勝ったらしいが、こんな芸当はなかなかできることではない。これもプロの強さだろう。