「捌きのアーティスト」の本領発揮 ~第24期竜王戦決勝トーナメント 橋本vs久保戦より~

まずはこの絶賛の嵐をご覧いただこう。

176 名前:名無し名人[sage] 投稿日:2011/07/19(火) 21:25:07.71 ID:sBl1abk3
55歩はかっこいい手だな~。
穴熊振り飛車らしい強手だ。

177 名前:名無し名人[sage] 投稿日:2011/07/19(火) 21:25:09.07 ID:zsVJoA2I
これは穴熊が生きる展開だよねえ・・・

179 名前:名無し名人[] 投稿日:2011/07/19(火) 21:25:39.61 ID:7+3vt8DF
角銀交換だけど、なにしろ△3三桂がおいしすぎる
この桂は4五~5七ラインが見えてるし
やっぱ久保の捌きはすごいな

197 名前:名無し名人[] 投稿日:2011/07/19(火) 21:27:53.00 ID:7+3vt8DF
こんだけ捌けりゃ将棋も楽しいだろうなぁ……

198 名前:名無し名人[sage] 投稿日:2011/07/19(火) 21:27:53.25 ID:sBl1abk3
振り穴の理想的な展開だね。
後手がすっきりしちゃったから、まぎれも少なそう。

225 名前:名無し名人[sage] 投稿日:2011/07/19(火) 21:30:25.31 ID:BzjP2isC
久保の将棋みてると、すっきり捌けて振り飛車って楽しそう!

ってなるんだが、自分で指すとボロボロになるだけなんだよな…。

231 名前:名無し名人[sage] 投稿日:2011/07/19(火) 21:31:15.05 ID:wK05IUHZ
なんでいつもこうなるんだ
ちくしょう

243 名前:名無し名人[] 投稿日:2011/07/19(火) 21:32:24.65 ID:7+3vt8DF
いやホントどういう組み立てをすればこんなカッコよく指せるんだろう

すごすぎる

244 名前:名無し名人[sage] 投稿日:2011/07/19(火) 21:32:38.44 ID:li5c3WXs
振り飛車って決まる時はほんとにかっこいいな・・・

246 名前:名無し名人[sage] 投稿日:2011/07/19(火) 21:32:50.54 ID:W1DiIAIH
久保の駒の効率のよさは異常だな

いったいどれほどの捌きを久保が見せてくれたのか。ダイジェスト的に振り返ってみる。

zu 最初は第1図。ゴキゲン中飛車vs超速の出だしから、先手の橋本7段が▲6五歩の趣向を凝らした局面である。従来だったらここはイビアナに囲うところだが、玉頭方面の厚みで勝負したかったのだろうか。

ここから漫然と△8二銀▲7七銀△7一金▲6六銀はさすがに先手が有利だとして(笑)、現実問題としてどうやって▲7七銀~▲6六銀を受けるか。△4二金▲7七銀△5三金▲6六銀△5四金とすれば受かってはいるが、穴熊に組んで金が5四まで上ずって幸せになった人はまずいないだろう。とはいえ、このまま指をくわえて5五の歩を取られるのもイヤなものだ。さてどうするか……。

第1図からの指し手
△5一飛▲7七銀△5二金左▲6六銀△5三金(第2図)

なんと、5五の歩をあえて取らせる手段に出た。

だが、なぜ△5一飛△5二金△5三金という手順なのかがわからない。仮に5五の歩を取らせる構想だとして、それだったら△8二銀△5二金△5三金、という手順でもいいはずだ。これなら一応穴熊のハッチは閉まっているから強く戦える。

一応、Web中継での解説にその答えがあったのだが、個人的にはよくわからない。その局面はもう少し先なので、とりあえず本譜を追ってみよう。

第2図からの指し手
▲5五銀左△同銀▲同角(第3図)

解説では、もしも△5一飛と指さずに5二飛の形のままだと、第3図の▲5五同角で▲5五同銀という手がある、という。

▲5五同銀には△5四金とぶつける手があり、△5四金を▲同銀と取ると△8八角成▲同玉△5五角の王手飛車がある。しかし、5二飛型であれば、のちのち▲6三銀成という手が残るのでそれを避けた、というのだ。しかし、仮想手順で申し訳ないがそのとおり進んで変化1図になったとして、果たしてこれが先手有利だろうか? △1二飛と逃げたこの形は穴熊の思惑通りにしか見えないのだが……。

まぁ、リアルタイム解説なので多少のアラはある、ということにしておこう(もちろん、白砂の考え違いという可能性の方が高いのだが(泣))。

第3図からの指し手
△4四歩▲5六歩△5四金▲8八角△6五金▲5七銀△4五銀(第4図)

いったん△4四歩と角交換は避けたが、そのあとは金を進出させ銀を打って盤上を制圧した。

実は、白砂はこういう△4五銀みたいな手が指せない。自陣や敵陣に駒を打つのはわかるが、中段に駒を打ってゴリゴリ攻めていくのができないのである。だって、なんか駒が渋滞しちゃいそうな気がしない?

▲5六歩で▲3五歩はなかったのかという気はするが、それはさておいて第4図。次は露骨に△5六銀があるが……。

第4図からの指し手
▲5五銀△8二銀▲5八金△3六銀▲1六歩△7一金▲2六飛△3五歩(第5図)

▲5五銀は仕方がない。また、受けだけではなく▲4四銀という攻めも見せている。しかし、この手も白砂には感触が悪く映る。理由は前述と同じである。仮に▲5五銀が受けの手ではなく攻めの手だったとしても、▲5五銀と打って▲4四銀と攻めていくというのが感覚にない。

あ、ちなみにこれはこういう手が指せない白砂の愚痴であって、これらの手が悪い手ということではない。むしろ基本に忠実な数の攻めであり、こういう手をしっかり指せるようになると勝率も安定するだろう。

で、▲5五銀を見て後手は△8二銀。以下、お互いに陣形を整備することになったが、第5図ではなんだかんだと言って後手だけが穴熊の堅陣に収まっている。変態振り飛車党の白砂の目で見ると、先手の8八角の壁角が絶望的なまでに悪形なので振り飛車よしである。なので、第3図から第4図までの手順中、白砂なら▲8八角では▲7七角を真剣に検討すると思う。

もっとも、居飛車党から見るとその8八角はきっと捌ける駒(▲4四銀とすれば8八角は働きそう)なのでそんなに気にならない、ということなのだろうが。

そして第5図。耐えに耐えていたハッシーがついに攻めに出る。

第5図からの指し手
▲2四歩△同歩▲4四銀(第6図)

一本飛車先の歩を突き捨ててから▲4四銀。これが攻めの呼吸というものだ。単に▲4四銀では、例えば△4二角▲4三銀成△6四角▲1一角成△1九角成(変化2図)となったとき、そこでよっこいしょと▲2四歩と突いても絶対に△2四同歩とは取ってくれない。

少し戻って、△2四同歩のところ△同角と取ってしまうのは▲4四銀と出られて、次に▲3五銀を狙われるくらいでも後手がまずいだろう。
そうして迎えた第6図。「これぞ手筋」という手がある。

第6図からの指し手
△5五歩(第7図)

第7図の△5五歩が手筋一閃。

▲同銀と下がるのは、それだけでも悔しいし、△2五歩▲2八飛△5五金▲同歩△同飛(変化3図)くらいでも先手がまずいだろう。▲同角も△同金▲同銀△2五歩で似たようなものだ。どちらも、ついさっき「突き捨てが手筋だ」と言ったばかりの手を逆用されている。こういう組み立てにしてしまっては勝てない。

それにしても、久保はこの△5五歩をどの段階から読んでいたのだろうか。
まさか第6図になってひねり出した手、ということはさすがにないだろうから(笑)、それより前、少なくとも△3六銀と出るくらい辺りからはこの手が見えていたということだろう。というか、△5五歩で大丈夫、という読みがないと△3六銀と出ることはできない。

しかし、第6図で△5五歩という手はまだ見えなくもないが、その9手前から読み始めて、末端の局面で立ち止まって「よし、△5五歩で大丈夫」と読めるというのはさすがプロである。

そしてここから久保が仕上げる。

第7図からの指し手
▲3三銀成△同桂▲6八銀△4五桂(第8図)

第7図となってはもう▲3三銀成と角を取るしかないが、△同桂と取り返した形が次の△4五桂を見て先手になっている。▲2四飛は△4五桂▲6八銀△5六歩くらいで、▲2二飛成くらいしかないのでは先手は勝てないだろう。

こうなってみると、△5一飛という形がとてもいい形に見える。穴熊に対して2段目に飛車を成ってもあまり効果がないのだ。そこまで考えて第1図で△5一飛と引いたわけではないと思うが、こういう形にしておくとこういういいことがある、というのは覚えておいて損はないだろう。

というわけで先手は▲6八銀と引いて受けたが、それでも△4五桂と跳ねて第8図。

自陣に残っているのは香1枚。しかもその香には飛車のヒモがついていて取ることができない。自陣は穴熊、敵陣は壁角の薄い囲い。悪いところが何一つないありえないくらいの捌けっぷりである。

冒頭の賛辞の嵐は、この第8図の局面でのこと。
見て惚れ惚れするほどの、まさに捌きのアーティストだ。

こういう将棋を見てしまうと、無性に将棋が指したくなってくる。
まぁ、一瞬後には「できるわけないかぁ」と思っちゃうんだけどね(笑)