鬼手▲8二銀の周辺

zu第1図は第68期名人戦A級順位戦8回戦藤井vs佐藤戦。
1勝6敗の佐藤と2勝5敗の藤井の直接対決。佐藤が負ければ即A級陥落、藤井も負ければほとんど絶望という、ある意味名人挑戦争い以上の大一番である。

鰻屋藤井が久しぶりの四間飛車を選択し、以下順位戦らしい神経を使う駒組みが続く。局面を打開すべく先に持角を手放した佐藤がなんとか局面をリードし、藤井にも角を打たせてこれで条件互角、さてこれから……というところで放たれたのが第1図の▲8二銀である。

狙いは単純明快、△8二同飛なら▲6四角、それ以外なら▲7三銀成から捌いていこうという手だ。ここで駒が捌ければ、玉形に勝る先手が勝てると見越してのことだ。
意表を衝かれた佐藤は、結局△5四金▲7三角成△4二飛と左翼を放棄する指し方を選択したが、そのあと久々の藤井ガジガジ流が炸裂して先手藤井の快勝となった。

zu解説でも、受けるなら△7二銀しかないが、それだと攻め込まれる、佐藤は▲8二銀をウッカリしていて、これ以降は感想戦でほとんど触れていない……と言われていた。
しかし……。

第1図から、△7七歩成▲同桂△6三飛(第2図)と辛抱する手はなかったのだろうか?

zu指し手の意味は単純で、先手が▲7三銀成△同飛▲6四角と捌いてくれば△7七飛成(第3図)としよう、ということだ。これはさすがに後手有利だろう。
せっかくの垂れ歩を放棄し受け一方の指し手で後手を引くという「プロ的には味の悪い手」であることは確かだが、それにしても、△5四金として左翼を放棄するよりはよっぽと活路を見出せるような気がする。

zu実際、第2図での先手の指し方も難しいように思える。

たとえば▲7四歩△同金▲7五歩(△同金は▲7三銀成)と攻めるのは△6五桂▲同桂△同金▲5五桂△同金▲同角△6五飛(第4図)で後手の駒が捌けた感じだ。次に△2四桂とか△1四桂と直接穴熊を攻める手や、△7五飛と軽く攻める手、△5五飛▲同府△7九角から△2四角成と馬を作る手などいろいろ攻め筋がある。

また、▲6五同桂のところで▲7四歩と金を取る手は、△7七桂成▲7三歩成△6五飛で8二銀・7三とが重い形になっていてこれも先手が不満だろう。

zu戻って、▲7四歩△同金に▲7三銀成△同飛(△同金は▲5五桂)▲同角成△同金(第5図)も、この後の一手が悩ましい。▲7一飛と下ろすのは△8二角から飛車が死にそう+のちのちその角が玉を狙ってきそうだし、▲8一飛は△5四角がありそうだ。▲5一飛も△4二銀打と手を入れられると後手陣の攻略は難しくなる。先手が悪い、とまでは言えないと思うが、これなら後手も十分戦えそうだ。

zuまた、第2図から▲9一銀成として▲6六香を狙う手も一応はあるが、△7六歩と桂頭を狙われると困る。以下▲6六香△7七歩成▲6四香△同飛▲同角△8八と▲9二飛に△4二銀打といったん固めておくのがうまい手で、▲7三角成△7九飛▲4六角成△9九飛成(第6図)という展開になれば後手がだいぶよさそうに見える。

そもそも、こうやって攻めていくというのは、△6三飛の悪形をほぐすだけになっているのがイヤである。

zuかといって、第2図で▲4八金左と受けに回るのも、△4五歩▲3七角△3五歩と角をいじめられそうだ。以下▲7三銀成(一手待って△3六歩に▲7三銀成としても先に△3七歩成とされてしまうので、ここで行くしかない)△同飛▲6四角△7七飛成▲5八飛△7九龍(第7図)の展開は、いくら穴熊でも先手が苦しいだろう。

すべての変化で後手がよくなる、とまで言うつもりはないが、この変化に進んでいれば後手も相当「やれる」と思う。

実際にはこれらの変化やここに出てこない深い広い変化まで読み切って断念したのだろうが、それでも△5四金~△4二飛と逃げ出すよりは十分に戦えたのではないだろうか。