石田流vs棒金の新展開

zu第1図は石田流vs棒金。

対棒金について書かれた「文献」は少ないが、有名なのは『島ノート』や鈴木大介
の講座(振り飛車ワールド04-1、将棋世界2005年7月など)だろうか。

実を言うと、両棋書からすると第1図は似て非なる局面である。
『島ノート』で石田側最善とされている陣形は第2図、鈴木大介推奨の形は第3図。『島ノート』では端歩の突き合いがあるのだが、鈴木解説では交換がないので、比べやすくするためにここでは省いてある。

zu zu
zuどう違うかをもう少し解説すると、発端は第4図。

ここで▲9六歩と形を決めずに様子をみるのがポイントで、『島ノート』では久保新手として解説されている。結論だけを簡単に言ってしまうと、ここで△8三金と短兵急に出て行くのは▲7八飛と引くのがうまくて石田側が優勢になる。

ところがここで出てきたのが森内新手である。
zu第4図で△9四歩と受け、▲7七桂を待って△5四歩▲5六歩△8三金▲8五桂△3三銀▲7八飛△3一角(第5図)とする。△3三銀とがっちり受けたのち、△7四歩▲同歩△同銀▲7五歩△6三銀から△8四歩として桂を取り切ってしまおうという狙いだ。

この手順があまりにうまいので、第4図の前の▲5八金左に代え、先に▲6八銀から▲6七銀と上部を固めようという第2図や第3図が出てきたのだ。

……と、ここまで解説すれば、第1図が「似て非なる局面」だということは判るだろう。第1図は、第4図や第5図の思想のままの駒組みなのである。
zuでは第1図は棒金有利なのか?
実は、そうでもないのだ。

第1図からの指し手
▲7八飛△3三銀▲6七金△3一角▲6八銀△7四歩▲7六金△7五歩▲同金△7四歩▲7六金(第6図)

▲7八飛と引いてから▲6七金、▲7六金と力強く出たのが、第2図や第3図と同じく「棒金の圧力をいったん受け止めよう」という手。
森内新手の△5四歩△3三銀△3一角は▲7七桂から▲8五桂としてくるからこその陣形だ。しかし、先手はギリギリまで▲7七桂跳ねを保留することで、後手の構えをムダなものに変えている。

そういう観点に立って、もう一度第1図を見てほしい。

通常、浮き飛車にしたのであれば、飛車のヨコ利きはできるだけ広く取っておきたいところだろう。しかし第1図では▲4六歩▲5六歩▲6六歩と飛車のヨコ利きはないに等しい。飛車のヨコ利きを得ることより、▲7八飛と下がれる余地を残しておく方が大切なのだ。

第6図をみると、後手の棒金がただの遊び駒になっているのがよく判る。といってこれを玉側に寄せたくても、6三銀がいるために金の移動はままならない。△5二銀と引ければいいのだが、それは▲6五歩の権利がいつでも残るので後手としては戦い切れないだろう。

以上の理由から、第6図は先手有利である。

○       ○       ○
zu第6図は先手有利……とはいっても、まだ「指しやすい」程度の有利でしかない。少しの実利を確実に優勢に導くのにはテクニックが必要だ。
実戦の進行を見て、ここからの振り飛車らしい指し回しを堪能してほしい。

第6図からの指し手
△7三金▲7九角△2二玉▲6七銀△3二金▲6八角△1二香▲5八銀△1一玉▲4五歩△2二銀▲4七銀左(第7図)

まずは左銀を玉の側に寄せる。
この間、後手の左の金銀は全く動けない。動いた瞬間に▲7五歩から駒を交換され、▲7六飛から▲7七桂と好形に構えられてしまうからだ。

では、相手が動けない場合、こちらはどうすればいいか?
こちらも動かずにじっくりプラスになる手を重ねて、相手を自滅に追いこむのだ。

zu第7図からの指し手
△4二角▲9七桂△3三角▲8五桂△8四金▲8六歩△7二飛▲4六角△7一飛▲3六銀△7五歩▲7七金△2四歩▲2六歩△2三銀▲9七香△7四金▲6七金△5一飛▲5七金(第8図)

長くなったが、個々の指し手ではなく、第6図から第7図、そして第8図への陣形の変化を見てほしい。

左の桂香は角の利きから逃げ出しているし、金も玉に近寄っている。個々の指し手というより、一連の流れそのものが振り飛車の手筋といった感じだろうか。こういったじっくりとした手を指せると、勝率もグンと上がるのだろう。

zuちなみに、第8図から後手は△5三飛。

じっくりと手を積み上げた先手はここで▲9五歩と開戦し、△9五同歩▲9八飛(この攻め方も振り飛車の手筋として覚えておくといい)△5五歩▲同歩△同角▲同角△同飛▲5六歩△5一飛▲4四歩△8七角▲4八飛△4四歩▲6二角(第9図)まで。

棒金を左金で受け止め、そのあとで自分だけ金銀を玉側に寄せる。居飛車は陣形の都合上(6三銀が邪魔になるので)棒金を働かせにくい。その差を活かして体勢勝ちする。
もちろん第2図や第3図も結構だが、▲6五歩という捌きの切り札を残したまま▲5八金左と美濃に組んでもいいという安心感は大きい。

地味な戦略ではあるが、石田流の組み方としてはなかなかに有力だと思う。