切れない攻め ~穴熊の極意~

よく言われることだが、穴熊は実は序盤が一番大事である。穴熊は捌いてなんぼの将棋ではあるのだが、現代将棋では理論の伴わない指し手は通用しない。「なんとかなる」ではダメなのだ。そのためには、序盤から神経を使い、少しでも有利になるよう不利にならないよう努めるわけである。
もちろん、他の将棋でもそれは同じことなのだが(笑)、穴熊はそのイメージのために誤解されていることが多いので、特にそういう風に言われるのだろう。

とはいえ、穴熊の本質が「豪快な捌きと切れない攻め」にあることは間違いない。「固い・攻めてる・切れない」が穴熊党の合言葉である。大駒をぶった切って豪快に食いつき、食いついた一ヶ所から細々と攻めていく。自玉の固さを頼りに攻め倒すのではなく、自玉の遠さを頼りににじり寄っていく感覚に近い。その理不尽とも言えるにじり寄りが厭で、「穴熊はズル」なんていうお馬鹿さんもいるくらいである。

さて。
かように穴熊は「切れたらおしまい」なわけだが、逆の表現をすると切れないようにするために実に神経を使う。これで穴熊は苦しい将棋なのだろう。「だろう」と言うのは、白砂が穴熊をほとんど指さないからで、まぁ、7七桂戦法と3二金戦法しか指さないんじゃ穴熊にはならんわな(笑)

今回のはそんな「クソ細い攻めを見事につなげた将棋」を。
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第1図は銀冠対穴熊。典型的な将棋だ。

先手の持駒は溢れんばかりで、だから飛車取が逃げていては▲8三歩成であっという間に寄ってしまう。受けている場合ではないのだ。

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第1図からの指し手
△8六角▲9八玉△7七角成▲8八銀△2二飛▲7七銀△2一飛▲7六銀△2九飛成(第2図)

△8六角に対して▲9八玉は必然。▲8八玉では△7七角成以下7四の桂まで働いてくる。しかし、▲9八玉に対して△7七角成(詰めろ)から△2二飛とぶつけたのがうまい攻めだった。▲同龍は△同馬が△8六桂▲9七玉△8八馬(銀を取った)以下の詰めろになる。

というわけで馬と金を取ったのだが、飛車と桂を取って飛車が成れてはもう攻めは止まらない。また、龍を消したことによって、▲8三歩成が先程よりもぬるくなっているという点も見逃せないところだ。これが、最初に言った「遠さを頼りに……」という形なのである。

こういう将棋を指してしまうと、「穴熊っていいよね」てなことになるのだろう。
まぁ、そういう人がいてくれた方が、7七桂戦法や3二金戦法が指しやすくなるってもんなんだけど……(笑)