第55回NHK杯佐藤康vs青野戦より ~光るベテラン~

zu第1図は前コラムの最終図で、先手が▲3一飛と打ち込んだところ。

先手は居玉ながらとりあえず玉形は安定しているので、攻め続ければ勝てる、という局面。逆に言うと、後手は先手の攻めを余すか攻め合いに持ち込むかという選択を迫られている局面でもある。
頼り金銀は遠く離れた裸の王様状態で、後手の青野2ch名人が選んだ一手とは!?

第1図からの指し手
△4六歩▲同歩△3六角▲2一飛成△3二銀▲1一龍△2一金(第2図)

zu 前コラムで書いたとおり、解説の田中(寅)は△5四角から龍を封じ込める手を中心に解説していた。言ってみれば「攻めを余して勝つ」指し方だ。

しかし、青野は違った。

△4六歩の利かしがなんとも絶妙のタイミング。
この瞬間に入れたというのがとにかく凄い。なにしろ後手玉はすっ裸である。

zuしかし、▲2一龍の攻め合いでは、△4七歩成▲4五桂△4四金▲2四飛△3六角▲2二飛成△6三玉(第3図)くらいで後手が勝ちそうだ。
後手玉は危なそうだが、先手は金駒がないため上部に逃げ出されるとつかまらない形なのである。
結局、この利かしが入って、後手は△3六角とド急所に打つことができた。
それでも▲2一飛成△3二銀に▲3一龍しておいた方が難しい、というか先手有望な局面で、△3二銀に▲3一龍としておけば先手がそのまま勝ったはずである。

zuでは最初から先手が指しやすかったのかというとそういうことはなくて、△3二銀のところで△5六歩(第4図)としておけば後手が明快に勝ちだった。
第4図で先手に早い攻めはない。

zuとすると受けに回るしかないが、▲5六同歩は△5七銀くらいで後手がいいだろうし、▲4八桂と受けても△6九角成▲同玉△5七歩成▲5一角△7二玉▲3三角成に△6七と(第5図)と強く指して後手が勝ちそうだ。

第5図で▲5六桂は△4七角▲5八歩△5七金で受けになっていない。

zu▲7八金も△5七金▲6八歩△4七角▲5八歩△同金▲同金△同馬▲7九玉△7八と▲同玉△6九銀▲7八玉△7九銀▲9八玉△7八金(第6図)で後手勝ち。以下▲8八金と受けても△同銀成▲同銀△同金▲同馬△7八金で後手勝ちだ。

zu ちなみに、▲5八歩と受ける手で▲7九玉と普通にかわすのは、△6九銀▲6七歩△同金▲8八玉△7八銀不成(第7図)が、△7九銀打と△8七銀成▲同玉△6九角成の2つの詰みをみて必死となる。
この辺りの変化は感想戦でも触れられていなかったが、おそらくそんなに的は外していないと思う。こう進めば後手の快勝だった。

一つフォローを入れておくと、「龍が殺せたからね」という青野の感想があった。安全勝ちが狙えたからそちらを指したのであって、攻め合いしかない局面であれば──例えば△3二銀は▲3一龍で後手がまずいと気づいていたら──△5六歩は指せる手だ、ということだろう。

zuとはいえ、実際には以上の変化に気づかず、△3二銀▲1一龍と双方が勝ちを逃した形で進んで勝負は混沌としていった。

▲3四歩△1一金▲3三歩成△5六歩▲3七歩△6九角成▲同玉△5七歩成(第8図)

龍を見捨てて▲3四歩が鋭い反撃だった。
△同金では▲1三龍や▲3九香といった手があるので△1一金と龍を取ったが、▲3三歩成と取り返してこの瞬間は駒得。プラス場合によっては2八の飛車が活躍しそうな気配である。
後手も負けじと△5六歩の切り札を出し、玉形を乱して第8図。

zu先手の手番。

攻めか受けか、はたまた攻防の一手があるのか。

秒読みの中、佐藤が選んだ一着とは。

▲3二と△4七角▲5八歩△8八銀(第11図)

攻め合いを選んだ▲3二とが敗着となった。
ここは▲3六角(第9図)と攻防に角を打っておけば先手が勝ちだったようだ。
△4七角のような攻めを消し、玉頭も睨んでいる名角である。

zu感想戦では△5四歩の中合いが検討されていたが、構わず▲5四同角と取り、△6三銀▲同角成△同玉▲7五桂(第10図)で勝てそうだ。△6三銀で△6三金なら▲6一金△5二玉▲4四桂△5三玉▲3二角成でこれも寄りである。
これを逃したために、△8八銀(第11図)というまさに「本に書いてある手」の寄せが炸裂することになった。

zu ▲7九銀と受けても△8九銀不成(第12図)がある。
この手は△5八と▲同飛△5七桂▲6八玉△6九飛以下の詰めろになっている。

zu▲4五角と攻防には打てるのだが、△5四歩の中合いが小粋な手で先手が勝てない。▲同角と取ると詰めろが復活してしまうし、かといって▲6八銀引と受けても△8八銀▲5七銀△7九銀成▲5九玉に△7四角成(第13図)がピッタリの詰めろとなる。

zu 第11図以下先手は▲5四桂と詰ましにいったが、結局後手玉は詰まず青野の勝ちとなった。

片上、佐藤(康)と苦しいところを連覇というのはなかなかに凄いことだし、なにより勝ち方が若々しい。
佐藤も決して「あなどった」というわけではないのだろうが、ベテランの強さを見せつけてくれた一局であった。