必死の落とし穴

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第1図は前回の続きの局面で、もう終盤戦。

▲4三とが▲3一銀からの詰めろ。こんなところに急所のと金ができては先手が勝ちとしたものだが、後手はまだまだ粘る。

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第1図からの指し手
△3六桂▲同歩△5五馬▲3七銀△4三金▲同飛成△3二金(第2図)

△3六桂から王手で銀を外し、更に金を犠牲にと金を消す。ギリギリの粘りで、一手空けば、先手玉に利いている龍と馬、そして豊富な持駒で寄せ切ろうという強気の受けだ。

しかし第2図。ここから先手は一気の寄せに出る。

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第2図からの指し手
▲2四桂△同歩▲3一銀△同玉▲2三金(第3図)

気持ちのいい連続捨駒で、第3図で後手玉は典型的な必死。場合によっては投了もある局面だ。実際、先手の矢倉はこれで勝ち、と確信していたらしい。

ところが、この手が敗着というのだから将棋は怖い。

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第2図での正解は▲4四桂(第4図)。

以下、△4四同馬の一手に、▲同龍△4三歩▲4八龍とゆっくり指すのが正しい。つまり、第2図の後手玉は寄りそうで実は寄らない玉だった、と言うのである。

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▲4八龍以下は、△6六角なら▲5七歩△6五桂▲4一銀(第5図)、△5六桂なら▲4六龍△6六角(△6八とは▲6六角△3三銀▲4一銀△4二金▲5二金で一手勝ち)▲3九金打(第6図)といった感じで、なんとなく先手がよさそうだ。

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この将棋は『近代将棋』『週刊将棋』などでも採り上げられていたが、この▲4四桂という手は書いていなかった。一応白砂は自力で発見したので「これでネタができるか?」と思っていたのだが、読売新聞の観戦記を見たらこの順は書いてあった。くそぅ(笑)。

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さて、問題は第3図。
ここから、今度は後手が決めにかかる。

第3図からの指し手
△3九銀▲同玉△同龍▲同玉△3八銀▲同玉△6五馬(第7図)

なんと王手龍取りがかかってしまった。

第7図からは▲4七飛△4三馬▲3二金(▲同飛成は△6五角と再度王手龍取り)△同馬▲4二銀……と攻めていったのだが、これは少し届かない。

△3九銀に▲同玉はこの一手で、普通は▲1七玉とかわして詰まないのだが、この局面に限って△2八角という豪快な手があって詰む。5五馬が強力なのだ。

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読売観戦記によると、先手はこの順を気づかなかったというわけではなく、こう抵抗されても勝てると思っていたらしい。実際にどういう筋で大丈夫なのかは判らないが、まぁ、とにかく単なる見落としとは違うレベルでの見落とし(<同じじゃないのか?(笑))だったらしい。

このあと、なかなか面白いところはあったのだが、残念ながらどの変化もきっちり後手勝ちのようだ。先手の矢倉にとっては、なんとも痛い敗戦である。