なぜ飯島は勝ち切れなかったのか? ~第76期順位戦B級2組8回戦より~

zu zu
控室では、現局面の形勢は先手が苦しいのでは、といわれている。ここで▲5一角と打ちたいところだが、構わず△7七とがそれを上回る攻めになっているようだ。 いつの間にか金銀4枚の高美濃が構築された。現局面は先手がはっきりよくなっているようだ。

第76期順位戦B級2組8回戦の藤井vs飯島戦。第1図は86手目、第2図は103手目の携帯中継の解説である。
わずか17手の間にどうしてこんなことになったのか。

第1図からの指し手は、▲2七歩△7七と▲5二歩成△8九飛成▲5九歩△5二銀▲5一角△4一銀▲3三金△2二歩▲4二金△5八歩成▲同金△5七歩▲4八金寄△5九龍▲4九金打(第2図)である。

この間、特におかしな指し手があるというわけではないように見える。

  • △7七と~△8九飛成は自然な捌き
  • △5二銀・△4一銀は駒取り
  • △2二歩は詰めろを受けた手
  • △5八歩成▲同金△5七歩▲4八金寄という4手セットは単純な1歩損だが、1分将棋のための時間稼ぎと考えられるため仕方がない
  • △5九龍も、次のと金作りを狙った自然な手

こうやって並べてみても、特におかしなところはない。

zu わからないときはソフト様にお伺いを立ててみよー、ということで、やねうら王で棋譜解析をしてみた。

すると、△5八歩成▲同金△5七歩▲4八金寄の4手セットの中間である▲5八同金(第3図)の局面で、驚愕の手順を披露してくれた。

第3図からの指し手
△6八と▲4八金寄△5九龍▲4九金打△同龍▲同金△5七桂不成▲同金△3七桂▲同銀△2七香成(第4図)

で後手勝勢。

zu 龍を切って、桂を2枚捨てて、金銀の連携を崩して△2七香成。
薄い攻めに見えるが、持駒と△6八とを含めれば5枚の攻めだし、タテヨコから攻めていることと先手の持駒が受けに適さないものであること、後手玉が「ナナメZ」であることなど、好条件が多いので成立しているようだ。

第4図から▲3八金は、△3七成香▲同金に△4八金▲同玉△5九角▲3九玉(それ以外は即詰)△3七角成で後手勝ち。ナナメZが利いている。また、▲4七金とこちらの金を使って受ける手は△5八角が強烈で一手一手の寄りとなる。

zu 第4図で▲3八飛と持駒を使って受ける手には、△2五桂と駒を足して、▲2八銀△3八成香▲同玉のときに△4二銀(第5図)が駒を補充しつつ詰めろ(3七でバラして▲2六角△同玉▲2五飛以下)をかける絶好手。詰めろを受けられたらそこでゆっくり△5一銀と攻め駒を一掃すれば後手勝ちである。
また、第4図で▲2五桂と先にマス目をつぶしておくのは手筋だが、この手はギリギリ詰めろになっていないので△3七成香と銀を取ってやはり後手勝ちである。

以上のように、第4図まで進むと後手勝ちのようだ。

zu とすると第4図までに先手が変化できるかどうかだが、まず考えられるのは第3図から△6八と▲4八金寄△5九龍▲4九金打△同龍▲同金△5七桂不成のときに▲同金ではなく▲4八金上とかわす手である。
しかし、これには△4九金と追撃し、▲2九玉に△3五桂(第6図)が2七の地点を狙った厳しい攻めとなる。以下、▲同歩△3六桂▲3七金上(▲3六同金は△4八金があるのでこの桂は取れない)△2八角以下一手一手の寄りだ。

zu なお、△4九金に▲2九玉ではなく▲同金とした場合は、△同桂成▲同玉(▲同銀は△2七香成)△2八金(第7図)としばってしまえばよい。
この手自体は詰めろではないが、後手玉にも詰めろがかからないため、△5八角▲4八玉△7六角成を見る2手スキでも十分に速度勝ちできるのだ。

もちろん第7図で▲3九金とか▲4八飛とすれば一応は受かるが、ただでさえ少ない先手の攻め駒が更になくなるので、ゆっくりでも確実に削っていけば後手が勝つ。

zu 次に考えられるのが、△6八と▲4八金寄△5九龍▲4九金打△同龍▲同金△5七桂不成▲同金△3七桂(第8図)を▲同銀と取らない手だ。

しかし、▲4八金と逃げても△2九金▲同銀△同桂成▲同玉(▲3八玉は△3九銀くらいで一手一手)とバラして△2七香成で攻め切れるし、▲5八金上とムリヤリと金を消しに行く手も、△同と▲同金に△5七歩が一歩千金でやはり後手がいい。第8図もやはり後手勝ちだ。

zu なお、上記の変化で△2七香成に▲3八金打と受ける手はあるが、これには△5九角(第9図)という手が決め手となる。

なんだか遠いところを攻めているようだが、△1七桂▲同香△1八銀▲3九玉△4八角成からの詰めろになっているので遅い手ではない。この変化も後手勝ちだ。

以上のように、第3図で△6八とを選択すれば後手がよくなったと思われる。
要するに△5七桂▲同金△3七桂▲同銀として金銀の連携を崩すのが急所で、その手を実現させるためにはむしろ5七歩は邪魔駒だった、ということなのだが、この一連の手順を指さないと優勢を維持できない局面を「現局面の形勢は先手が苦しいのでは」と言ってしまう控室の評価がむしろどうだったんだろうと思う。というより、▲2七歩と玉形を維持したのが人間的にはいい辛抱で好手だった、ということなんだろう。

と、いうわけで、結論としては「勝ち切れなかった」のではなく「人間的にはそもそも難しい局面だった」んだと思う。