▲7八金省略相掛かり戦法

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『将棋世界』2002年1月号を見ていたら、面白い序盤戦術があった。
 相掛かりの出だしで▲2六歩△8四歩▲2五歩△8五歩。ここで▲7八金ではなく、▲9六歩(1図)とするのである。
 △8六歩は▲同歩△同飛のあと▲2四歩△同歩▲2三歩があるので成立しないから、後手は△3二金か△3四歩とするくらいしかない。

 まず△3二金だが、これには▲2四歩△同歩▲同飛とする手がある。ここでも△8六歩▲同歩△同飛には▲2三歩があるので、後手は△3四歩(2図)とするか△2三歩とするしかない。どちらにしても▲2六飛と引いておいて、先手だけ飛車先の歩を交換できたことになる。

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「そんなこと言ったって、普通の(▲7八金△3二金の交換がある)形だって先手だけしか飛車先の交換はできないわけだし、別にたいした事じゃないだろう」
 という意見もあるかもしれないが、実は構想はここで終わりではない。
 例えば、2図から▲2六飛△2三歩となったとする。ここから▲1六歩△1四歩▲3八銀△6二銀▲3六飛△6四歩▲9七角△6三銀▲2七銀△5二金▲2六金△5四銀▲1五歩(3図)と、縦歩棒銀に出るのだ。3図では7八金を省略してあるおかげで、玉も固いし広い。先手が戦機をつかんだといっていいだろう。

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 なんだかうますぎる話のようだが、これは仮想図ではなく、プロの実戦で生じたものだ。手順の方は白砂が想像したものなのでなんとも言えないが……(笑)。

 始めに戻って、1図で△3二金ではなく△3四歩についても少し触れておく。
 △3四歩には当然▲2四歩△同歩▲同飛。局面はさすがに△3二金の一手だろうが、しかしこれなら▲2六飛△2三歩で同じ局面に戻ることになる。要するに△3二金でも△3四歩でもさして違いはないということだ。
 どうしても変化するなら、上の手順中△3四歩▲2四歩△同歩▲同飛の瞬間に△8六歩▲同歩△同飛だが、▲3四飛や▲2三飛成△8七飛成▲7八金△8四龍▲7六歩などがあってどれも難しい。こんな変化を真剣に研究するのもどうかと思うが(笑)、これはこれで面白い指し方だと思う。
 うまくいけば、▲2六歩△3四歩に▲9六歩とし、△8四歩なら▲2五歩△8五歩▲2四歩、なんていう手が可能になるかもしれない。

 ちなみに、上記手順を指したのは桐山9段。コピー将棋マンセーを唱えた後に言うのもなんだが、こういう将棋も面白いと思う。