ゴキゲン中飛車の1変化

谷川が公式戦1000勝を達成した。
しかも王位戦というタイトル戦、相手は羽生である。舞台は最高といっていい。しかし、なんでその1000勝の記念碑的勝利を「ゴキゲン中飛車」で飾らんといかんのか(笑)。後手番だったしまぁいいかという気分はあったのだろうが、それにしても1000勝目がゴキゲン……。
ま、将棋の内容は面白いものだったからいいんだけどね。というわけで、今回はその将棋を紹介しようと思う。完全に『将棋世界』の後追いだけど、まぁいいよね(笑)。
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第1図は後手が△9九馬と取ったところ。
この△9九馬で△8九馬と取ったのが平成11年の竜王戦で、この時は以下▲4三桂成△5六飛▲5七歩△5四飛▲2二角△5一飛以下先手が勝っている。確か△5四飛と引いたのが悪い手で、単に△5一飛と引いておけば相当だったらしい。すぐあとに△5一飛と引いているので、完全に一手損をしている。

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本譜は、△9九馬に対して▲6六香△5四銀(第2図)と進んでいる。
この▲6六香で▲3三角と指した将棋もあるらしい。▲6三桂成△同玉▲9九馬の素抜きを見せつつ、ゆっくりと攻める狙いだ。その将棋は以下△8九馬▲4三桂成△7二玉▲5二成桂△同金右(変化1図)となった。
駒割りは飛車と銀桂の二枚換えだがどちらがいいんだろうか? 後手玉に迫る早い攻めがあればいいのだが、▲1二飛は△4二歩くらいで止まってしまうので難しいと思う。もっとも、先手玉に対しての攻めもそんなにないので、いい勝負なのだろう。

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ここで▲2二歩と打った将棋がある。
その将棋は以下△5五銀▲同歩△同飛▲4六銀と進んだが、これは先手有利だ。飛車を2五や8五に逃げると、▲6三香成から王手飛車がある。
しかし、▲2二歩には無視して△5三香とする手があるらしい。△5五銀▲同歩△同香とすればこの攻めは止まらない。羽生もこの変化が厭で別の手を指した。

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この変化は、このあと▲3六角△7二銀と利かせてから▲2一歩成とするのがいいらしく、しかしそれでも△5五銀▲同歩△同香として後手が優勢だという。以下▲3一と△5八香成▲同金△5七歩▲5四歩△5八歩成▲同玉△7四桂(変化2図)。
狙いは△6六桂で、6六香が消せれば後手有利という大局観である。
先手に思わしい攻めも見当たらない。▲5三銀は△7一玉で、▲5二銀成と取った瞬間に△6六桂の先手が来る。先に▲6三香成を利かすなどいろいろ考えられなくもないが、香がいなくなると△1一馬と素抜く手もあるので動きが難しいのだ。

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本譜は、第2図から▲2三角△5一金右▲3四角成△4二銀と先手先手で攻め、一転▲2三歩とと金攻めをする展開となった。

しかし、▲2三歩のあと△7二玉▲2二歩成△6一香(第3図)と進む。この△6一香がおそらく谷川の考えていた秘手で、これで先手の6六香を取りきろうという狙いである。
とにかく先手の攻めの主軸は6六香で、ヨコからだけだったらたいした攻めではない。金銀4枚と飛車で守っているからだ。しかし、上部を支えているのは5四銀ただ一枚。後手の陣形は、上からの攻めには極端に弱いのである。

第3図が後手有利なのかどうか、本当のところは判らない。しかし、実戦は後手が△6四歩△6五歩△6六歩と香を取り切り、最後は華麗に寄せ切った。谷川の秘手は成功したのである。
そうやって考えると、1000勝記念に本局がなったのもそんなに悪くないのかな、なんていう気もする(笑)。