続・角換わり腰掛け銀渡辺流について

zu第1図は前回の白砂ノートで取り上げた局面。渡辺が▲4五歩から強引に攻める指し手を連採している、ということで、いくつかの変化を紹介した。
その中で、「試みに、手元にある角換わり腰掛け銀の定跡書を調べてみたのだが……(中略)……記述が全くと言っていいほどなかった。」と書いたのだが、本当にそうなのか、他の本もいくつか当たってみた。棋書ヲタの愉しみということで生温かい目で見ながら読んでいただきたい(笑)。

まずは『角換わりガイド』。
P.140に、第1図の△4二金が△4三金になっている形が載っている。

この違いについては、先だって紹介した『中村太一の角換わり』に説明がある。△4三金型だと先手の攻めに対し△4二金と引いて受けなければいけないが、最初から△4二金型にしておけばその一手が省略でき、前回の記事で解説したように△6五歩と先攻できるのだ。少しずつだが進歩しているのだなぁと思わされる話である(笑)。
なお、解説については、「△4二金引~△4三金直~△4二金引と最善形で待たれていると、先手も攻めるのが容易ではない」としているだけで、▲4八飛や▲6八金右などの指し手しか載っていなかった。

zu次に紹介するのは『角換わり腰掛け銀研究』。
これを外すわけにはいかなかった。

ただしこの本の主眼は先後同型や▲2六歩型の腰掛け銀なので、そんなに記述は多くなかった。P.20で第1図(△4三金型)を紹介し、そのあと、その改良形である△4二金型についてP.388で触れている。

手順としては第1図で▲2六角と打ち、△4三金左に▲1五歩△同歩▲同香△1三歩▲2四歩△同歩▲2五歩(第2図)でどうか、というもの(実戦は▲1五同香で▲4五桂と攻めたが、無理攻めだった)。

zuもっと古いものを、ということで、なんか書いてあったような気が……と取り出したのが『将棋は歩から(改訂新版)』。上巻P.223で、山田道美vs加藤一二三の実戦例が紹介されている。さすがに古いなぁ(笑)。

こちらは△4二金型で、▲2六角△4三金左▲1五歩△同歩▲4五桂△4四銀▲2四歩△同歩▲2五歩△3二玉▲2四歩△2二歩▲3七角(第3図)で先手よし、というもの。手の組み合わせが現代と若干違っている。

zu最後に紹介するのは、『山田道美将棋著作集 近代戦法の実戦研究3』。
実は、『角換わり腰掛け銀研究』のまえがきに本書が「今まで最も影響を受けた棋書」として紹介されており、それなら調べてみよう、と、今回古本を購入した。今はネットで簡単に買えるんですね……。

それはさておき、内容の方を。

とはいっても、P.154ページに△4三金型の図面が載っており、▲4五歩△同歩▲3五歩と木村定跡のように仕掛けるのは、△4四銀▲3四歩△3六歩で先手不利、と書かれているだけで、そのため▲4八飛や▲6八金右など……という定番の解説があるだけだった。

zu渡辺流の新手筋は、▲4五歩△同歩▲3五歩△4四銀に▲2四歩△同歩▲3四歩(第4図)というもので、この局面だと△3六歩で先手不利、とは簡単に言えないのだ。
2筋を突き捨てただけで何が違うのだと疑問に思うが、実はこの変化は第1号局の感想戦で調べられており、第4図から△3六歩には▲4五桂△3七歩成に▲2四飛△2三歩▲3三歩成(第5図)が利くので先手の満足では、とされていた。

第5図で普通に△3三同桂では▲4四飛で銀がタダである。なので△3三同銀▲同桂成△同金寄となるが、それなら、と金はできているものの一応銀桂交換の戦果は挙げられている、という理屈である。とても細かいところなのだが、山田本の手順の上を行っている。

以上のように、棋書ヲタ精神を発揮していろいろ調べてみたのだが、今回取り上げた渡辺流については、手元の資料を見る限りでは今まで一顧だにされていなかった新手筋であると思われる。やっぱり珍しい手順だったようだ。

zuなお、2015.10.9に行われたC2順位戦の瀬川-永瀬戦において、渡辺流がまた出現した。後手の永瀬が渡辺流に挑戦する形となったのが面白い。

その永瀬が新手を出したのが第6図。前局同様△4六歩の変化を選び、ずーっと進んで△4四歩▲同飛に△8六歩と突き捨てを入れたところである。

zu△8六同歩では、のちのち飛車交換になった際の△8七歩が痛すぎるので▲8六同銀としたが、△2六角▲7一角△7二飛▲5四飛△7一飛▲6四飛△5二金(第7図)と進んだ(前局ではここで△7三角としていた)。

zuここまで進むと控室でも△8六歩の狙いに気付いたようで、突き捨てがない形では、以下▲4七金△6三歩▲3四飛△同金▲3六金△4四角▲4五銀と捌いて先手有利となったが、突き捨てがある形では、▲4七金△6三歩▲3四飛△同金▲3六金△4四角▲4五銀(第8図)には△4五同金▲同金△6六角と出ることができる。

zu以下、▲7七銀△5七角成(第9図)となった局面では、先手の持駒は金銀銀に歩が6枚。3七の桂も攻めに働くし、▲2三歩や▲3四金などいろいろ手はあるところだが、後手も5七の馬が手厚いので意外と耐久力がある。

結局、先手はこの変化を避け、第7図で▲3八歩と謝ったが、これでは3筋に歩が立たなくなるので後手玉への攻めが難しくなる。これ以降、後手有利の戦いが続いた(対局は後手の永瀬が寄せを誤ったか、先手が勝った)。

第9図の局面をどう見るかがポイントとなるが、この突き捨てが利くかどうかもこれからの注目ポイントだ。