筋と形に頼る危険

 せっかくわざわざビデオに撮って見返したんだし……ということで、もう少しだけ中座-櫛田戦を。
 感想戦でもっとも時間を割いたのは▲2五角の変化だったのだが、それ以外で、いくつか検討された変化を紹介する。

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 第1図は後手が△5三銀と引いた局面。
 ここから実戦では▲4八飛と指したのだが、以前に研究将棋で別の将棋を指したことがあるらしい。それが第2図で、第1図と比べると端を突き合っている代わりに△8四歩と△1二香の2手が入っている。
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 その将棋は第2図から▲7五歩と仕掛け、△同歩▲2四歩△同歩▲3五歩△同歩▲同角△4四角▲同角△同飛▲2二角△3四飛(第3図)と進んだらしい。
 本譜の形でもし▲7五歩と仕掛けると、第4図の形になる。
 第4図では2二角が1一の香取りになっているが、この角は△3三角と合わされると消えてしまう運命にある。△3三角に▲3一角成は△6六角という手があるためだ。そのため香取りはあまり気にする必要がない。
 とすると、第4図は第3図に比べると端に手をかけている分だけ得である……と櫛田は判断したらしい。同時に中座も同じように判断し、▲7五歩の仕掛けを見送り、本譜の▲4八飛を選んだのである。
 非常に細かい部分であるが、それこそが重要なのだ。
 こういう細かい損得を積み重ねて、定跡というものができあがっていくんだなぁと、このやりとりを聞いていて思った。
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 ちなみに、第1図の△5三銀で△5五歩という攻めも目につく。
 聞き手の矢内が質問した手だが、▲5五同歩△同銀に▲7五歩(第5図)の返し技があって簡単ではない。
 △7五同歩なら▲7四歩△8五桂▲7八飛という具合である。2六角の利きがあって△7四金と指せない。△7五同歩のところでいろいろと考えられるから簡単に断じることはできないが、この進行は先手が有利だと思う。

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 続いて第6図。△8一玉と引いた局面である。
 △8一玉は本局一番の長考で指された手で、その読みのほとんどは△9一同玉との比較に費やされたものと思われていた。まぁそれは当たってはいたのだが、読みの内容は想像と全然違っていた。
 △8一玉に▲9三香(第7図)はないか? と言うのである。

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「いや、それは△6一桂打で……」
 ▲9二香成△同玉▲7一龍を防がれると先手がまずいでしょう、というニュアンスのことを先手の中座、解説の山﨑が同時に口にしたのだが、△6一桂打に▲4一龍と飛銀両取りに寄る手があり、以下△6二飛▲4四龍△8二金(▲9二銀の防ぎ)▲同角成△同玉▲9二金△7三玉▲8六銀(第8図)となると後手も容易ではない、と言うのだ。

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 確かに第8図まで進むと、△6五桂と跳ねた手がボケているし、後手の玉は窮屈だし、先手の穴熊は相変わらず固いしで後手が容易ではない。後手の櫛田は、この第8図に進むことを想定し、第6図の△8一玉を躊躇していたらしい。
 これが長考の内容だった。

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 いろいろ駒を動かしているうち、解説の山崎が▲9三香に△6一銀(第9図)という手を発見した。
 ▲9二香成を防ぐと同時に、一応▲4一龍を消してもいる(飛車にヒモがついた)。
 局後の検討ではこれでも後手がはっきり有利というわけではないという結論に達したのだが、それにしても第7図の▲9三香という手には驚いた。
 形や筋に囚われると危険だ、という好例だと思う。