第18回世界コンピュータ将棋選手権出場記

■1回戦 白砂将棋 vs 禿鼠

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 1回戦の相手は禿鼠。初出場ではないが知らないなぁ……と思っていたら、TSPの後継だそうで、前回も当たっていた。
 前回は時間のバグがあったせいでなんもしないでこちらが勝つという結果だったが、今回は果たしてどうか。
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 先手をもらったので7七桂戦法を志向したが、▲7六歩△8四歩▲7八金△8五歩▲7七角という7七桂戦法にならないコースの手順で進んだ。

 以下、淡々と進んで第1図。白砂の目から見ると6五の歩は位なので交換に行くという発想がそもそもダメなのだが、飛車先交換はポイントと教えているのだから仕方がない。また、駒得至上主義ていどの将棋脳しか持たない白砂将棋のこと、▲3四飛か▲7四飛か、どちらの歩をパクるか……と思ってみていると、とんでもない手順が展開された。
zu ▲6三歩△同銀▲3四飛△4二玉▲6四歩(第2図)

 ▲6三歩がムダな歩の叩き。
 なんでこんな手を……。

 今回は詳細ログを取らずに選手権に挑んだため完全にこうだと言い切れるわけではないのだが、後日詳細ログを出しながら調べてみたところによると、知識ベースが邪魔をしていたらしい。
 飛車先の歩対策と銀冠攻略のために、「飛車先に銀がいる場合、その銀の頭に歩を叩く手」をポイントにしていたのだ。

 ところが、今度はここから禿鼠が暴発する。
zu △6四同銀▲同飛△3六歩▲6一飛成△3七歩成▲9一龍△3八と(第3図)

 なんとも豪快な手順だ。
 中の人(開発者さんたち)の会話を漏れ聞いた感じだと、どうも「相手に指し手を強制させる手」を「先手を取る手」のような認識で評価していたらしい。その際、たとえば歩は1枚100点だが先手を取ったことによるボーナスを200点とか、先手を取る手の価値を、実際の駒の価値以上に評価していたため、ポンポン駒を捨てる指し手を連発したらしい(あくまでも聞こえてきた断片的な会話を基にした白砂の推測です)。
 第3図で白砂将棋はおいしく▲8二龍と駒得をして優勢を確定させた。その後も暴れる禿鼠の指し手をすべて受け、全駒のような状態のまま最後は禿鼠玉を即詰に討ち取った。

 相手のエラーに助けられたとはいえ、まずは1勝。幸先のいい滑り出しである。



■2回戦 まったりゆうちゃん vs 白砂将棋

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 2回戦の相手はまったりゆうちゃん。出場以来ほとんどが1次予選突破となかなかに強いソフトである。
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 白砂将棋の後手で、まったりゆうちゃんが四間飛車だったので3二金戦法へと進む。居飛車だったら3二金戦法にはならないし、ゴキゲン中飛車や石田流といった「攻める振り飛車」相手でも3二金戦法は指しづらい。四間飛車で来てくれたのはありがたいと感じた。
 しかし、どういう定跡の選択か、まったりゆうちゃんは▲3六歩から▲3七桂とどうみても藤井システムな指し方をしてくる。これで定跡から外れてしまった。
 そして第4図。白砂将棋が軽いフットワークを見せる。
zu △7四飛▲6七金△8四飛▲5六金△7四飛▲7八銀△7六飛(第5図)

 そもそもまったりゆうちゃんの▲5六金が問題だったとは思うのだが、飛車を左右に振って1歩得を果たした第5図では、公平に見て白砂将棋がいいと思う。
 しかし、それくらいの有利不利はあっという間に吹っ飛んでしまうのが1次予選レベルである。第5図から▲6七銀に△7五飛とし、▲6五金△同飛▲同歩△7七角不成▲同桂△2八金(第6図)まで、これはもう暴発としか言いようがない。
 簡易ログを見た限りでは、そもそも△7五飛に▲8八角が最善、と読んでいる。これではどうしようもない。
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 それでも、第6図で▲5五角を打ってくれたときはまだまだだと思っていた。
 △2二銀としておけばとりあえず自陣にスキはないし、100歩譲って△2二角▲同角成△同銀と角交換するくらいでもまだ戦えないことはない。
 実際、白砂将棋が△2二角と指したときは、まだまだこれからだと自分に言い聞かせていた。もちろんそれでも後手がまずいことに変わりはないのだが。

 ところが。
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△2二角▲同角成△同金(第7図)

なぜ金で取るorz

 まぁ、すぐに悪くなる、というわけではないのだが。

 しかしこれがまったりゆうちゃんを惑わすのだから面白い。
 第7図から▲8四飛△7一金▲3四飛△3三金▲1五角(第8図)とされた局面では、だいぶヨリが戻っている。

zu  この局面自体は、一見すると角の利きが玉を貫いていて厳しいようにも見える。確かに△3四金と飛車を取ることはできない。しかし、△2四角と打てば先手の角の利きは消え、その瞬間に飛角両取りがかかることになる。
 先手は▲同角△同歩▲3五飛(▲8四飛は△7五角)とするくらいしかないだろうが、△4四角(7七の桂に当たっている)▲7八飛△3五角▲同歩△8九飛とすればもう勝負はわからない。後手玉は角2枚では捕まえようがないし、こう進めば△2八金は「玉の逃げ道をふさぐ駒」として立派に機能している。

 ところが、本譜は△4二銀▲3五飛△2四金

なぜ金を上がるorz

zu  まったりゆうちゃんは当然のごとく▲2四同角△同金▲3二飛成。
 これはさすがに勝負あった。

 そして数手後の第9図。まったりゆうちゃんはカッコよく決める。

 ▲6四歩△7二玉▲6三歩成△同玉▲7八銀△7四玉▲6二龍△同金▲同飛成。

 ▲6四歩が「これぞ筋」という手。△6四同歩は▲6三歩が痛すぎる。
 こんな手を指されるようではそもそも手合い違いだったとしか言いようがない。スッパリと諦めがついた。

 勝てなかった将棋ではなかったとは思うが、実力が違うようなので仕方がない。
 これで1勝1敗。昨年は2連勝だったので、昨年より状況は悪くなっている。



■3回戦 山田将棋 vs 白砂将棋

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 3回戦の相手は山田将棋。これまたまったりゆうちゃんと同じく2次予選常連組。おまけに今年も2連勝中と、白砂将棋にとっては辛い相手である。
zu  白砂将棋が後手で先手が四間飛車、ということで、3二金戦法へと進む。よくある形だと思うのだが、手順の関係で定跡から外れてしまったのだろう。いつものように△8四飛から△7四飛(第10図)と指して白砂将棋はゴキゲンである。なんでなんだくそぅ……。

 そのあともなんだか金銀を逆に組み上げてしまい、機敏に▲6五歩と突かれたところではこちらが悪くなっている。

 もっとも、2回戦のときもそうだったが、1次予選ではこのくらいの損得では勝負がついてしまうというほどでもない。事実、ここからじっと辛抱し(とはいえ金を前線にのこのこ繰り出したりはしているのだが)、△7五歩▲6六角(第11図)となった局面ではかなりまぎれている。
zu  ここで△7四飛という手が指せればいいのだが、そして、実は▲7五歩△同金▲5五角△7三銀という手を途中まで読んではいたのだが、そこからなんと△8六歩▲同歩△8七歩▲同飛△4四歩という手が最善と判断してしまった。
 なんでそんなバカな手を……と思って、後日詳細ログを取ってみた。
 その結果わかったのだが、白砂将棋では角を打たれて馬を作られる手を防ぐために、「自陣に利きがない場所があればマイナス、そこに角を打ってみて、浮き駒に対して採りになっていればさらにマイナス」という風にしていた。そうすることで不用意に角を打たれることを抑制していたのだが、逆に言うと駒当たりに角が打てる(一応タダ取られる駒ではないが、死ぬ可能性も十分にある)手を非常に高く評価してしまっているわけで、そのために前述のような手順を「飛車を浮き駒にしておくことで(角を打てるから)有利な局面」と判断してしまっていた。
zu  実戦では△4四歩はさすがにぬるいということで△7四飛と指したものの、玉形を生かして強気にさばいてくる山田将棋の豪腕に一方的な展開となってしまった。
 ハイライトは第12図。
 この形で飛車交換という時点ですでに終わっているのだが、ここから山田将棋は綺麗に決めた。

▲7一飛△6一歩▲5三桂成△同銀▲3三角成△同桂▲7八飛成

 単純に▲3三角成△同桂▲5三桂成△同金▲4一飛くらいでも勝ちだと思うが、桂を捨て角を切って飛車を素抜いて明確な勝ちである。白砂将棋はそもそも▲5三桂成を「損な手」として見切っているので発見できない。これではどうしようもない。

 読みの深さ、精度、ともに違いすぎた。これでは勝てないのも道理である。
 1勝2敗と負けが先行し、辛い昼食となった。


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 朝コンビニで買っておいたおにぎりをほおばりながら、白砂は第7図のことを考えていた。
 明らかにおかしい手である。

 ここの局面だけの思考ログを採ってみたところ、△2二同金と△2二同銀では、△2二同金が4点だけ得である、と出ていた。たった4点かよ……とも思ったが、1点でもいい方を指すのがコンピュータである。これは仕方がない。しかし、その4点の差はどこから出たのか。

 白砂将棋の、というかれさぴょんの形勢判断はほとんどないも同然で、ちょっと考えたところで、金と銀の違い、というところに気づいてピンときた。
 YSSでも採用していた、自玉と金銀の位置による駒評価である。
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 左の図は、その位置による相対評価値を示している。3一と3二にある数値は、5一に玉がいる場合にその地点に金銀がいた場合に与えられるボーナスポイントだ。金と銀のボーナスポイントが同じ、というのがこの問題を起こした理由のひとつである。
 3一銀3二金の形から△2二同銀と取った場合、駒は2二と3二にいる。△2二同金と取った場合は2二と3一だ。つまり、この二つの手の違いは、指し終わった後の金銀の位置が、3一か3二かの違い、ということになる。
 そして、左図で示しているとおり、3二にいるより3一にいたほうがポイントが高い、つまり、3二金2二銀の形より3一銀2二金の形の方が得点が高い(=形がいい)、という判断になってしまっているのである。
 これが、第7図の△2二同金という指し手の理由だった。

 原因がわかればなんとか対処できなくはない。
 正確に言うなら金と銀それぞれの相対評価表を作る、というのが筋なのかもしれないが、時間もないことだし、アドホックな(しかしごく当たり前な)方法だが、金銀の絶対位置を見て「○○と××の形はプラス○点」というボーナスを与えることにした。
 2二銀と3二金なら+25、3二金と3三銀なら+55、といった具合に、いい形に対してプラス評価を与える。逆に、2二金と3一銀は−25、2二銀と3三金は−55、と、マイナス評価にする。
 この結果、第7図の局面で△2二同金と指すことはなくなった。

 というか早くやっとけよこれくらい……orz。

  


初版公開:2008年5月26日
2版公開:2008年6月6日
3版公開:2008年6月17日
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