将棋コラム


  駒落ちのはなし Date: 2003-08-18 (Mon) 
『将棋世界』で連載されている「駒落ちのはなし」が、ついに2枚落ち編に入った。
 白砂は定跡ヲタなんで2枚落ち定跡を見るのとか大好きで(笑)、下手だったらこう指そうとか、上手だったらこういう陣形にしようとかいろいろ考えたりしてる。

 先崎8段の言う通り、2枚落ち定跡は偉大な定跡だと思う。
 そんな2枚落ち定跡の話を、「駒落ちのはなし」とリンクさせつついくつか。

△6二銀▲7六歩△5四歩▲4六歩△5三銀▲4五歩(1図)

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 この定跡を知らない人はほとんどいないと思う。それほど、よく知られている定跡だと思う。
 その理論性については、講座で余すところなく語られているのでここでは端的に述べるが、要するに△4四歩と突かせてしまうと上手の駒組みが非常に楽になるのだ。
 つまり、この手は本当に定跡を知っていないと指せない。
 駒組みを知り尽くし、研究し尽くした結果が、この手なのである。

 さて。
 そういう知識経験の粋を尽くした定跡なのだが、上手もいろいろと策を凝らしてくる。有名なのが△5五歩止めと言われるもので、1図の瞬間やそのあとの指し手の途中で、△5五歩とタダで歩を捨てる定跡である。▲5五同角と取ると△5四銀▲8八角△4五銀で大事な4五の歩を取られてしまい、覚えた定跡が水泡と化す(笑)。

 これについての対策もやはりいろいろあって、簡単に分けると、その場で角で歩を取ってしまう定跡と、そこでは歩を取らずに金銀を盛り上げて位ごと奪還する定跡とに分けられる。よく棋書に載っているのは後者の方で、なんだか腰掛銀の駅馬車定跡みたいな感じの指し方をする。
 しかし、これが判りにくいんだ意外と(笑)。
 なにより大事なことは、それによって今まで覚えた定跡が役に立たなくなるということ。2歩突っ切り定跡の方であれば致命傷にはならないのだが、銀多伝はもうダメ。絶対に組めない(▲5六歩と突けないと左銀を4六まで持っていけないので)。要するに、5五歩止めは銀多伝が厭な上手が編み出した定跡なわけで、それにハマってしまうのはちょっと悔しいのだ。

 この辺の話は長くなるので(<をい)簡単に対抗策を言っちゃうと、△5五歩には▲5五同角と取ってしまって、△5四銀▲8八角△4五銀に▲4八飛△5四銀(△3四銀でも同じ)▲4五歩と歩を打ってしまうのがいい。損なようでも、これなら今まで通りの展開となる。『定跡なんてふっとばせ』に載っていた秘手である。

 さてさて。
 1図から、もう少し手を進めてみる。

△3二金▲4八銀△6二玉▲4七銀(2図)

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 この手順、白砂の世代からすると少しおかしい。
 白砂が子供の頃の入門書には、ここでは▲3六歩▲3五歩とすると書いてあった(と思う。ちなみに「将棋は歩から」もそうなっている)。
 これは講座の解説にもある通り、

▲3六歩▲3五歩を先に突かれる方も多い。それはそれで悪いわけではなく、同じような形に結局のところなるのであるが、5手連続歩だけ動かすというのは少々腰が据わっていない感がある。具体的に言えば、△3二金▲3六歩△6二金▲3五歩△5五歩と突かれた時(白砂注:5五歩止め定跡へと変化された時に、という意味である)に、3筋の2手が少し甘くなっている。

 という観方が正しいと思う。
 昔は、とんでもない定跡を教えていたもんだ(笑)。

 しかし。
 じゃあ先崎説の▲4八銀▲4七銀が正しいかというと、そんなことはない、と白砂は思うのである。
 というか、申し訳ないんで言っちゃうと、プロの受け売りだが(笑)。
 しかも、そんじょこそらのプロじゃない。「下手殺しの名人」花村9段の説である。

 今は絶版となって手に入らないが、花村9段の著作に『ひっかけ将棋入門』というのがあった。白砂は中学校の時に市立図書館で見つけてむさぼり読んだ記憶があるが、その中に、この2枚落ち定跡についての話が書いてある。
 現物を持っていないので抜き書きができない。なので、理論的な部分だけ、白砂が代わりに説明する。

 2図を見て欲しい。
 ここで△5五歩と突かれたらどうなるか?
 5五歩止め定跡に入ってしまう。じゃあ、▲4七銀と上がる前、4八銀の形の時にはどうか? やはり△5五歩で5五歩止め定跡に入る。
 つまり、1図から2図にいたる手順で、下手は(下手の難敵である)5五歩止めに対する対策を何ら取っていないということになる。自分が覚えた、理解した定跡を試す場であるはずなのに、それを妨害する相手に対してなんの対応もしない。これが将棋を指す上での正しい態度だろうか?

 では、どうするか?
 △3二金に対して、▲5六歩(第3図)と突くのが絶対の一手である。
 こうすれば、5五歩止め定跡には絶対にならない

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 花村9段は、稽古将棋の時には、この手だけは口をすっぱくして教えるのだそうだ。
 上手の怖さを知っているからこそ、花村9段は「紛れを起こさない手順」を教えるのだろう。そしてそれは、「相手の指し手、狙いに対応する」という、実戦ではごく当たり前の考え方を教えるということでもある。

 平手全盛の昨今ではあるが、駒落ちには、平手にも役立ついろんなエッセンスが詰まっている。それに、指してみるとなかなか面白い(ホントに)。
 終盤の力強さはあると思うんだけど中盤が弱いとか、序盤はよく知ってるけどその後がダメという人は、2枚落ちの上手持ってみるのもいいと思う。少ない駒でやりくりする感触は絶品で、病みつきになること請け合いである。人間相手だと勝っても負けてもケンカになりそうなんで(笑)、できるならコンピュータ将棋を相手にどうぞ。

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