将棋コラム


  三間飛車超急戦の成否 Date: 2005-06-04 (Sat) 
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 第1図はなんの変哲もない序盤戦。
 しかしここからとんでもない展開を迎える。

▲4五歩△同歩▲3三角成△同銀▲6五角(第2図)

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 なんといきなりの開戦である。
 前例はあるらしいのだが、白砂は見たことがないし、どの定跡書にも載っていない仕掛けだと思う。『東大将棋定跡道場完結編』でも調べたが載っていなかった。『激指4』では定跡登録されていたが、それはきっと「前例」の棋譜をそのまま載せただけなのだろう(笑)。

 それはさておき問題なのは第2図。飛車取り+角成が防げず、こんなんで決まってしまっては三間飛車戦法そのものが滅びてしまう。
 しかし、パッと見た感じうまい切り返しも思い浮かばない。
 △7二玉▲3二角成△同金▲4一飛(第3図)という展開はさすがに後手が辛いし、かといって▲4一飛を防ぎつつ8三を受ける手なんていなし……。

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 しかしそこはプロ、こういう一本道の突撃は難なくかわしてくれる。
 実戦の進行を追ってみよう。

 △4六歩(!)▲8三角成(!?)△4二飛▲6五馬△3二金▲5八金右△7四角▲同馬△同歩(第4図)

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 △4六歩と受けないのが正解。

 ちょっと待て飛車取って▲4一飛はどーすんだよ! という話になるが、さっきは4五にいた後手の歩は4六まで伸びている。そのため、▲3二角成△同金▲4一飛には△2二金▲4六飛成△4四角▲7七桂△5五角打(第5図)という切り返しがあるのだ。
 もっとも、第5図以下▲5五同龍△同角▲7八銀と進んで局面を冷静に眺めてみると、必ずしも後手が一本取り返したというわけではない。ただ、▲7七桂と跳ねた手の味が相当悪いので、後手も十分にやれるように思う。

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 また、▲4一飛に△2二金ではなく△2二銀(第6図)という手もある。
 ▲2一飛成には△3一金として龍を殺す狙いで、立石流で似たような手筋が出てくる。
 仮に第5図と同じように進むと、金銀の形が2二金・3三銀ではなく3二金・2二銀と自然な形になるので、少し後手が得をしているという理屈だ。
 しかしこの変化も、△3三角に▲6六歩△5五角打▲同龍△同角▲2六飛(第7図)として7七桂という悪形を作らない展開や、第6図で▲2四歩△同歩▲同飛△3三角▲3四飛△3一金▲3三飛成△同桂▲4六飛成△2七飛▲3八角(第8図)と頑張る展開などがあり簡単ではない。

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 ただ、なんにしても、森・杉本の両名ともにこの変化は先手がまずいと判断したのだろう。先手の森は▲8三角成と変化し、以下第4図へと進んだ。
 これなら後手の振り飛車側もそんなに悪くはないと思う。
 玉側の歩がないのは確かに気持ち悪いのだが、陣形によっては△4七角の打ち込みもあるし、4六歩が生きてさえいれば互角以上の戦いにはなりそうだ。

 ここから先の戦いは▲7八玉△7二銀▲6八銀△6四歩……という一転して地味なものになったので本稿では触れないが、問題はやはり▲4一飛の成否である。
 これが成立する、少なくとも互角の戦いになる、というのであれば、力自慢の居飛車党はこぞってこの形に持ち込むだろう。「美濃囲いの玉が固い」という振り飛車最大の長所がなくなってしまうのだから。
 白砂自身が振り飛車系変態戦法党なのでよく判るのだが、振り飛車党は美濃に囲えているだけで心理的な安心感を持つ(笑)。仮に相手がイビアナであっても、自玉の距離感が判っているというのは強いものだ。
 この超急戦は、振り飛車党に固い美濃囲いを作らせない、というだけで十分な効果が期待できる。

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