将棋コラム


  羽生新手の成否 〜第63期名人戦第3局より〜 Date: 2005-05-15 (Sun) 
 5/12・13に行われた森内−羽生戦は、角換わり腰掛け銀から羽生が新手を放った。

 第1図から△2四銀▲6五歩△同歩▲同銀△6四歩▲同銀△同馬に▲4三歩成(第2図)としたのがその局面。

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 新手の意味は単純で、これは譜を追っていけば判る。
 第2図から△4三同歩▲6四飛△同金▲5三角△2一玉▲6四角成△1一玉(第3図)がその進行。飛車を切って▲5三角と王手金取りをかけ▲6四角成。成否はさておき、第2図から第3図までは変化のしようがない一本道だ。

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 第3図での形勢判断は、

 ということで、これだけ見ればまだまだ形勢は不明、もしくはどちらかが微差で有利、くらいに思える。
 しかし、控室では既に先手勝勢、とまで言われていたらしい。

 第3図で▲4一銀(第4図)という厳しい手があるからだ。

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 控室の見解は、▲4一銀には△3九飛▲6九歩△3四飛成▲3二銀成△同飛▲4二金△3三飛と進んで、そこで▲3二歩(第5図)がピッタリのため優勢、というもの。後手は駒がダンゴになっていて上部脱出が難しく、▲3一歩成が間に合うという判断なのだろう。

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 しかし。
 どうもこの手は胡散臭い(笑)、と白砂には思える。

 駒がダンゴで上部脱出が難しい、というならほぐせばいいじゃないか、ということで、△1四香という手がある。
 以下、▲3一歩成△1二玉と脱出を図り、▲3二となら△同飛▲同金△同龍▲3一飛△2一金(第6図)で磐石。

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 ▲3二とで▲3二金打(第7図)という手はあるが、△3八龍▲3三金△同銀▲3二とに△4五角(第8図)が後述するが本譜でも出てきた名角。これが△7八角成以下の詰めろを見て、実に厳しいのだ。

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 実を言うと、これらの手順は全て2chの名人戦スレで披露したもので、第7図の△2一金など他者のツッコミによる修正手順も入っている。ただ、全体的な流れとして、どうも後手がいいのではないか? という気がしていた。控室の「▲4一銀以下先手優勢」という評価は少し気が早いぞと(笑)。

 ところが。
 強い人というのはいるもので、「第8図は▲4八飛があるから先手優勢では?」という指摘があった。
 この手自体は△4五角の時に読んでいて、それは△6七銀▲同金左△同馬▲7八銀に△5七馬(第9図)とできるから簡単、と思っていた。以下▲同金△4八龍で飛車が取れるのでいいだろう、と簡単に考えていたのである。
 しかし、△5七馬▲同金△4八龍に▲3三と△3八飛▲2三と△同玉▲5六角△2四玉▲3八角△同龍(第10図)と進むと、これはこれで後手がいいとも言えなくなっている。

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 ▲2三とと捨てて▲5六角とムリヤリ飛車を取りに行くのが、自玉を安全にしつつ攻め駒を増やす好手である。また、▲5六角に△3四歩としっかり受けられないのも誤算だった。△3四歩では、▲3八角△同龍に▲3二銀(第11図)で後手玉が詰んでしまう(▲4六馬と引ける)のだ。

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 また、『激指4』は、▲4八飛で▲2八飛(第12図)という手を推奨していた。
 意味合いは▲4八飛と同じだが、今度は△6七銀という強襲はない。受けに徹するという意味ではこの手もあるのかもしれない。

 ただ、第10図も先手優勢というほど簡単ではないし、第12図にしても、冷静に△3四龍(第13図)と引いておけば、これも後手が悪いわけではないと思う。

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 まぁ、長々と変化手順を述べたが、「<▲4一銀で先手優勢>とは簡単に論じられない」という点について同意していただけるだろう。

 本譜では、この変化を避けたのか、先手の羽生が変化した。
 第4図から第5図にいたるまでの手順▲3二銀成と直接行くのではなく、▲7三馬△4二飛▲5一馬と緩めたのだ。そこから以下△4五角▲3二銀成△同飛▲4二金△3三飛▲3二歩△1四香▲3一歩成△3八龍▲5六桂△1二玉(第14図)と進んだ。

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 これは第8図あたりと比べるといいだろう。
 第8図に比べると、桂馬を取っているために▲5六桂と受けることができている。
 しかし、▲7三馬と桂馬を取った一手を、後手も△3八龍という大きな一手に使っている。そのため、第8図で指せた▲3二金打という「絶対切れない攻め」を、ここでは指すことができない。喜んで△3七飛成(△1三玉も有力かも)とされてしまうからだ。

 要するに、桂馬を取って▲5六桂という手を作るか、桂馬を取らずに▲3二金打という手を指すかという選択だった……と考えればいい。
 もちろん、馬の位置は6四と5一でどちらがいいのか? ▲5六桂で他の受けはなかったか? など、付随的な要素はいろいろある。ただ、おもいっきり図式を単純化するとそういうことになる、という話だ。

 そして、これはあくまで白砂の大局観なのだが、第14図よりは第8図を、つまり▲3二金打を、そして第10図を目指した方がまだアヤがあったのではないだろうか?
 もっと言うと、そうやって第10図を目指してもこれで先手がいいとは言いがたいと思うので、そもそも第2図の羽生新手▲4三歩成は成立しないのではないか、と思うのだがどうだろう。

 ちなみに本譜は、第14図から▲3二金△3七飛成▲4八金打△3二龍▲同と△同龍▲4二飛△3四龍(第15図)と進んだ。
 これは先手の攻めが完全に切れている。白砂程度のアマチュアならともかく、プロレベルならもう後手必勝だろう。

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 第10図などの詳しい形勢判断やその後の指し手などは、死んでもこういう将棋を指すことはないだろうと思うので(笑)とりあえずしない。興味のある方は突き詰めてみるのも面白いと思う。
 また、白砂が考えたのは第5図以降の指し手についてだけなので、第4図から第5図に至るまでの指し手には、羽生が変化したようにまだまだ鉱脈が眠っているかもしれない。その辺もまた、こういう将棋は指さないのでこれ以上の検討はしない。

 名人戦はこれで森内の2-1。NHKアナウンサーに失礼なことを言われて奮起したのか(笑)、これでだいぶ面白くなってきた。
 できればもう居飛車系の将棋は勘弁して欲しいのだが、それは冗談としても、将棋界最高峰の二人として、面白い将棋素晴らしい棋譜を残して欲しい。

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