3二金戦法とは

 私の場合、先手番の時には7七桂戦法という「伝家の宝刀」があるのですが(笑)、後手番の時に何を指せばいいかが問題でした。
 メリケン向かい飛車や升田式石田流などを指していた時期もありましたが今一つ「これだ!」といった感じではなく、先手勝率7割後手勝率3割、といった状態が長く続いていました。昔NSNで指していた頃、先輩の熊倉さんに「(棋譜を調べたけど)先手番の勝率物凄いねぇ」などと言われたこともありました(笑)

 そんな時、ぼーっと見ていたNHK杯の将棋をヒントに編み出したのが、この3二金戦法です。

 2手目に△3二金と上がる。
 そんな棋理を無視した指し手から入る、超がつくほどの変態戦法です。私も随分長いこと将棋を指していますが、流石にこの戦法を指している人を見たことはありません。

 基本コンセプトは千日手(爆)。
 とにかく先手を取って7七桂戦法が指したいので、千日手を狙ってひたすら待ちます。風車に近いかもしれません。
 風車と違うのは居飛車で指すことと、相手に振り飛車を指させて攻め駒を攻めにいくこと。とにかく千日手&入玉狙いで行きます。

 というわけですので後手番専用。先手でも指せないことはないんでしょうが、「伝家の宝刀」を抜く権利を放棄する愚は犯したくありません。なので、白砂は先手番で指したことはありません。


 その昔、2手目△3二金というのが流行った(?)時期がありました。
 あれは、居飛車党に対して慣れない振り飛車を指させるという作戦でした。極論するなら、相手を不得手な土俵に引きずり込んで、相手に実力を出させないようにする将棋です。

 この3二金戦法はもっと過激な発想です。

図面 左図を見て下さい。
 よくある振り飛車の陣形です。私は基本的には振り飛車党なので、美濃囲いの美しさはよく判ります。じつにいい布陣だと思います。
 また、左翼に美濃囲い、右翼に飛角銀桂の攻め駒と、攻守の切り分けがしっかりできているのもポイントです。このため、右翼で捌いてそこから左翼に攻め込むという攻撃の単純化が図れます。有体に言えば「右翼で飛車交換して打ち込んで、駒を持って攻めればいいのさっ」という考え方でもなんとかなってしまう(笑)という実に優れた布陣になっているわけです。

 しかし、です。
 一つだけ、致命的とも言える欠点があります。

 攻めの陣形と守りの陣形がはっきりと分かれているために、攻めの陣形部分には攻め駒しかいないということです。
 なんだかはっきりしない言葉ですのですっばりと言っちゃいましょう。
 振り飛車の駒組みでは、5筋より左側には、飛角銀桂香しかいません。しかも、接近戦に強い小駒である金銀に至っては、銀が1枚いるきりです。

 この状態で、左側だけで戦いになった場合、振り飛車は接近戦を制することができるでしょうか?

 普通であれば、振り飛車は飛車角を華麗に乱舞させて駒台に乗せます。しかし、相手が飛車角ではなく金銀だった場合、華麗な捌きを披露する筈の飛車角はどうなってしまうんでしょうか?

 左図は仮想図です。何で仮想図かというと手数が合っていないからなんですが(笑)、この局面で、後手は飛車角をどうやって捌けばいいんでしょう? 角を換えようにも先手は角道を開けていませんし、普通の居飛車対振り飛車であれば玉を睨んでいる筈ですがそこに相手玉はいません。
 つまり、後手は角頭の弱点だけを抱えることになります。

 また、飛車を捌こうにも先手の飛車は遥か敵陣の奥です。この飛車を引っ張り出して交換することはできません。かといって角と刺し違えようにも、角もやっぱり隠居状態です。飛角交換すらままなりません。

 かといって、このまま手をこまねいていては、2六の金が角頭を襲ってきます。もっと言ってしまえば、敵陣にスクラムトライ(入玉)となるかもしれません。そうなった場合、接近戦に不得手な飛車角を抱えた振り飛車側は対処できるでしょうか?

 もうお気づきでしょう。
 上図の先手陣が3二金戦法の基本的な構えです。

 3二金戦法とは、本来捌きの主役となる筈の飛車角を、逆に接近戦に引き込むことによって無力化・お荷物化させる戦法なのです。


 もう1つ、3二金戦法には恐るべき狙いが隠されています。

 先の話は、振り飛車側が美濃囲い(高美濃)だった場合を例にとっています。
 では、振り飛車が銀冠まで組んでしまったらどうでしょうか。また、穴熊に囲ってしまったら、事態はどう変わるでしょう。

 3二金戦法にとって、より好都合であることは言うまでもありません。

 なにしろ、ただでさえ「陣形の偏りを突く」戦法であるのに、銀冠や穴熊といったよりいっそう偏った陣形を組んでしまうわけですから。

 いやいや、そんなバカなことする筈がない。

 そうでしょうか?
 序盤早々から、3二金戦法は攻め気を一切見せません。陣形を低く構えて、角道すら開けません。
 そんな相手に対して、どう考えるでしょうか?
 理由はどうあれ、相手のあの陣形から急戦を仕掛けるのはほぼ不可能だ。かといってこちらから行っても潰せそうにはない。そんな状態の時、「いや、それでも敢えて攻め潰すっ!」という人がどれだけいるでしょうか? むしろ、「相手が手を出してこないんだったら、こっちは玉を固めておけ」とは考えないでしょうか。

 そうなんです。

 3二金戦法は、2手目に△3二金と上がった時から、既に自分の土俵に相手を引きずり出しているのです。

 △3二と指して振り飛車を(もちろん相手が振り飛車党であっても)指させる
 わざと攻めの陣形を作らず、相手に玉を固めさせる

 相手は自分の意志で指しているように見えて、実は全部こちらの手の中の出来事なんです。


 なんとなく面白そうな戦法だぞ……。

 そう感じた方は、躊躇なく定跡講座へと進んで下さい。きっと本戦法に満足いただけると思います。これで後手必勝だ! なんてことは言いません。でも、後手を引いて好きな戦法が指せなくても、もう困ることはないでしょう。いや、むしろ今までより楽しくなるかもしれません。

 言いたいことは判るけど、ホントかなぁ……。

 そう思った方は、とりあえず実戦譜をご覧下さい。
 何の証拠にもなりませんが一応どんな場所で指したのかが書いてある、ホントにホントの実戦集です。負け将棋も数多くありますが、勝率は5割を若干上回っています。こんな戦法でもちゃんと勝てるんですよ!(笑)

 コイツの言うことなんか嘘に決まってんじゃん。

 そう思った方。
 出てけ(笑)

 冗談は置いといて、ま、ちょっとだけでも見ていって下さい。