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 本筋の話はもう少し先のことになるのだが、話のマクラとしてはやっぱりこの局面から始めたい。
 ということで、まずは第1図を見ていただきたい。

『最新戦法の話』の「ゴキゲン中飛車の話」で取り上げられた図である(あとから比較する都合上、先後逆にしている)。1994年の名人戦第一局、羽生vs米長戦だそうだ。現在は4筋に飛車がいるが元々は中飛車だった。とても美しい陣形で、この後も羽生は快調に攻めてこの対局に勝利した。

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 それを踏まえて、こちらの第2図を見ていただきたい。
 第73期B級1組順位戦、村山vs藤井戦の局面である。第1図とほとんど同じ形。まさに振り飛車理想の形だ。
 もっとも、先手は低い陣形のまま金銀4枚でガッチリ囲っている。20年前の名人戦とは違い、玉の固さはむしろ先手の方が上かもしれない。まだまだ形勢を云々する局面ではなさそうだ。振り飛車党としては、振り飛車が指しやすいとは思いたいが(笑)。

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 第2図から20手ほど進んで第3図となった。
 お互い玉形は金銀4枚が残ったまま。後手は桂得+持歩がたくさん、先手は飛車の働きで後手より優っている。後手の桂が捌けていないことを考えると、駒の損得は桂1枚分くらいか(純粋な駒得だと、1枚得は2枚分の得になる(こちらが1枚増えて向こうが1枚減ったから))。総合的に考えて、ここまで来てもまだまだ熱戦と言えそうだ。
 さて、先手はここでどう指したか。
 ヒントは名人戦実況から。「先手としてはすぐ攻めかかるのは難しい。桂香歩など、駒台にもう少し駒を補充してから攻めたい。」

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第3図からの指し手
▲8五歩△同歩▲同桂△同桂▲8六歩△8四歩▲8五歩△同歩(第4図)


 先手は▲8五歩から強引に桂交換を果たした。

 一応、桂香は1筋にも落ちているので、例えば▲1五歩△同歩▲同香という手はないわけではないと思う。ただ、あまり先手の攻めが遅いと、後手から△5七歩▲同金△4五桂▲5八金△5七歩▲6八金△4八馬という手がある。これもかなり遅くてヤボったい攻めなのだが、次に△4七歩成から△5八歩成となれば絶対に切れない攻めとなる。なので、▲1五歩と指しても後手は取ってくれないかもしれない。また、後手がクリンチをしたければ、△5七歩▲同金に△4五桂と攻めるのではなく、△4八馬とする手もないわけではない。▲4六金は△5四桂があるから▲5八金とするが、そこで△3七馬とすれば△4七歩成の先手となる。それを防いで▲4八歩とすれば……千日手だ(笑)。
 ただ、先手が▲1五歩としなかったのは、ヤボったい攻めや千日手を心配したわけではなくて、次の手が指したかったからだろう。

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第4図からの指し手
▲5五馬(第5図)


「5五の位は天王山」などという格言があるが、位ではなくてもこの位置は急所だ。

 第4図と第5図を見比べてみてほしい。
 馬がたった2マス近づいただけなのだが、先手陣がグッと引き締まり、また、先手の龍の働きも増したように思えないだろうか。更に言えば、6五の位も光っているように感じないだろうか。

 第5図で△7三桂と受ける手には▲4五桂△6二銀のあとの▲6四歩に金が逃げられない。かといって▲4五桂に△4二銀と逃げたり△5二歩と受けるのでは辛いだろう。そこで、第5図で後手は△9二玉とかわし、▲4五桂△6二銀▲6四歩に△7三金を用意したが、平凡に▲5三桂成△同銀▲同龍で先手の攻めに勢いがつき始めてしまった。

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 なお、後手がこの変化を避けたいのであれば、第4図の△8五同歩で△4七歩成(第6図)としてしまう手もあったかもしれない。

 歩切れの相手に歩を渡す、せっかくの垂れ歩をただ成り捨ててしまう、と、もったいないことこの上ない手ではあるのだが、5五の地点、そこを中心としたナナメのラインが急所だと思えば、そこを先取するという考え方に立てば緊急避難的ではあるがありだと思う。理想を言えば、このあと△7三馬、あるいは△6四歩▲同歩△同馬ともなれば盤石の体制だ。


 この後も熱戦は続くのだが、リアルタイムでの観戦中は、この▲5五馬でちょっと藤井ヤバいな……と思い始めてしまった。少しずつだが厚くて確実な攻めに、なんとなく藤井は弱い気がするのだ。

 そして10数手後、別の形ではあるがその予感は的中してしまうのだった(泣)。
作成日 2015-01-11 | [中盤研究]
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