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「第45回東急東横店将棋まつり」があったので、夏休みを取って行って来た。
 お目当ては藤井先生のサイン会と独演会と佐々木キュンの勇姿を見ることだったのだが、すべて叶って嬉しい限りである。郷田クンのサイン会も魅力だったんだけどなぁ……。
 で、佐々木勇気新4段の席上対局だが、対戦相手の門倉NHK杯記録4段(違う)の意表を突く研究に翻弄される結果となった。

zu 第1図がその発端。
 角交換四間飛車のよくある形で、ここから▲3八銀△8五歩▲2二角成△同玉▲8八飛……とでもなればよくある展開だ。しかしこうはならなかった。

第1図からの指し手
▲1八香△8五歩▲1九玉(第2図)


受けない


 なんと、角頭を放置して穴熊である。これには驚いた。
 もちろん「角頭を受けない指し方」というのがないわけではない。例えば、第2図から、△8六歩▲同歩△同飛に▲2二角成△同銀▲8八飛という指し方がある。升田式石田流などで出てくる手筋だ。しかし、それは△8七歩▲9八飛に△4五角(変化1図)と打たれて先手が不利になる。▲1八香▲1九玉が▲3八銀▲1六歩になっていればこの手はない。だからこそ、第2図までの先手の指し方は「挑発的」なのである。
 ここで日和って△5二金右などでは、▲2八銀とされて△4五角を消されてしまうので後手がうまくない。行くならここしかないのだ。

 そして後手の佐々木は果敢に仕掛けた。

第2図からの指し手
△8六歩▲同歩△同飛▲2八銀(第3図)


また受けない


 またまた驚かされた。
 第3図では△8七飛成という手がある。無条件で龍が作れるように見えるが、実はこれが成立しないのだ。先程と同じように▲2二角成△同銀▲8八飛とぶつけられて、以下△8六歩▲8七飛△同歩成とと金までできるのに、▲8二歩(変化2図)となった局面は先手がむしろ指せる局面だというのである。先手は穴熊に囲えていること、大駒の打ち込みもないこと、逆に後手は8二や8三に傷を抱えていることなど、序盤で突っ張って穴熊にした効果がモロに出ているのだそうだ。

 ということは、△8七飛成は「権利」として持っておいたまま、いったんは辛抱するよりなさそうだ。

第3図からの指し手
△4四歩▲6六角(第4図)


またまた受けない


 先手に角交換されてしまうから捌きを許してしまう。それなら……ということで△4四歩と辛抱したのだが、第4図の▲6六角がそれを許さない強情な一手だった。
 しかし、気持ちは判るが、今度は何も取らない△8七飛成ではなく、ダイレクトに桂馬が取れる△8九飛成である。いくらなんでもこれは無理だろう……と思われそうな手だが、しかし、やってみると意外とそうではない、のだそうだ。

 というのも、第4図で△8九飛成とすると▲8八飛とぶつけられてしまうので「龍を作るメリット」というのはあまりなさそうである。また、最初に桂を取られるものの、先手はあとで8一桂・9一香を拾うことができればその分の駒損は回復できるので「一時的な駒損」も特に問題はない。となると、「先手は穴熊の堅陣」「後手は舟囲い+2二の壁角がひどい」という玉形の大差だけが残る。よって先手よし、と。

 言われてみればそうなのかもしれないが、しかし、いくらなんでもねぇ……。
 オジサンはもうついて行けないよぅ(泣)。

第4図からの指し手
△8九飛成▲8八銀(第5図)


 誘われてもなんでもここは後手も8九飛成しかないだろう。解説で兄弟子も勝又も「ここは行かないとあとで石田先生(対局者及び解説の勝又プロの師匠)に怒られるよ(大意)」とかなんとか言っていたし(笑)。
 そしてここで▲8八飛とぶつけて、さてどうするのか……という解説を聞いていると、先手は▲8八銀。
 飛車をぶつけて行くのではなく、飛車を取りに行ったのである。

 しかし、これはプロの勝又でなくとも白砂でも判る3枚替えの手がある。第5図から△8七歩と打ち、▲7九金△8八歩成▲8九金△同とという手順だ。
 これで駒割りは飛と金銀桂の3枚替え。後手が有利と思いきや、これでもやっぱり▲8二歩(変化3図)とすると後手が勝てないらしい。何度も言っている通り、桂香の駒損の分は取り返せるので、実際の駒割りは飛と金銀。それくらいの損であれば「穴熊にしてる方」が有利だ、というわけである。

 とにかく穴熊、というか玉が固いことというのは、とてつもないメリットになるのである。また、逆に玉が薄いというのは、とてつもないデメリットになる。第5図の後手がまさにそうで、角は邪魔だわコビンは開いているわでいいところがまるでない。
 これは先手の圧勝か。
 そう思っていると、後手は勝負手を繰り出してきた。

第5図からの指し手
△4五歩▲7九金△6六角▲同歩△7七角(第6図)


 △4五歩が後手の勝負手第一弾。
 開いたコビンがさらに開いてとんでもないことになっているが、形勢が思わしくないのでは仕方がない。とにかく2二の角を捌いて、玉のフトコロを広げて勝負である。

 先手は予定通り▲7九金だが、角交換して△7七角とぶち込んだのが後手の勝負手第二弾だった。
  • ▲7七同銀は△7九龍で龍が生還+金銀両取り
  • ▲8九金は△6八角成で次に△6七馬が両金取り

 一瞬「逆転か」と思わせる派手な手だが、しかし、先手は冷静だった。

第6図からの指し手
▲4八飛△8八角成▲8九金△同馬▲8二飛△9九馬▲8一飛成(第7図)


 ▲4八飛が4九金を守りつつ逃げる冷静な手。もうこの飛車は金と同じ扱いをするつもりだ。
 後手は仕方なく△8八角成以下例の3枚替えの手順にしたが、今度は8九にいる駒がと金ではなく馬なので、▲8二歩ではなく▲8二飛。以下、第7図となって、駒をきれいに捌いて金銀3枚(ホントは飛金銀)の穴熊が残った先手が優勢である。

 さて第7図。ここで白砂は△5一金を予想していた。後手を引くが、金銀を固めてとにかく耐える指し方だ。以下▲9一龍△6六馬として馬も自陣に引きつければ相当粘れる。実際の自分の将棋だったら絶対にそうは指せないのだが(笑)、勝負に辛い若手プロならそう指すのではないかと思ったのだ。

第7図からの指し手
△7一金▲9一龍△6六馬▲6九香(第8図)


 第7図のところで自信満々で隣の妻に薀蓄を垂れていたら、実戦の指し手は△7一金だった(笑)。
 以下、第8図までとなって技が決まっている。第7図で△5一金と指していたら、▲6九香には△3三馬でなんでもないのだが……(金が7一ではなく5一なので、▲6三香成に△同銀と取れる)。
 第8図からは△3三馬▲6三香成△8二銀▲同龍△同金▲6二成香△6九飛▲6三角……といった手順で先手の快勝となった。

 局後、席上対局ということで対局者を呼んでの感想戦となったが、最も驚かされたのは先手門倉プロの言葉。

第8図まで研究してたそうです

 一本道の変化とはいえ、ここまで深く研究しているものなんだなぁ……と、プロの凄さを思い知った。

 また、別の意味で驚かされたのは後手の佐々木キュン(←ごめんなさいこの表記はキモいからもうやめます)の言葉。というか声。

……さ、さかなク(略

作成日 2011-08-03 | [序盤研究]
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