相振り飛車のすすめ

■相振り飛車の心得

 最後に、基本的な相振り飛車の心得を解説する。
 囲いを覚え序盤を理解し手筋を身につけても、それを使いこなすためには大局観・構想力が必要になる。
 その際の、大局観・構想力の背骨になるような心得をここでは述べたい。



□歩を持て

 相振り飛車は、対抗形と違い上から攻める形になることが多い。
 そのため、大駒をぶん回して交換、敵陣に打ち込んで駒を拾って勝負、という対抗形の考え方は通用しない。歩を使って敵陣を乱し、あるいは圧迫して、上から攻めつぶす将棋になる。
 この時、持ち歩があるのとないのと、あるいは1歩と2歩とでは、攻めのバリエーションが全然違ってくる。歩を持てばそれだけ攻めの幅が広がり、相手玉を攻めやすくなる。
 相振り飛車の中盤は、どれだけ歩を得る――歩得というのは難しいだろうから、現実的には歩を交換する、ということになるのだが――かの争いでもある。多くの歩を手に持った方が攻め、そして大体そのまま攻め切って終わる(笑)。
 相振り飛車は歩を交換するもの。
 これはまず覚えてほしい。

□歩を交換させるな

 前記を逆に考えると、こういうことになる。
 自分は歩を交換したい。しかし、相手も歩を交換したいのだ。だから、相手が歩を交換するのは全力で邪魔をしに行かないといけない。
 例えば第88図。相手が▲6五歩と角交換を挑んできたところだ。



 この局面での最善手はとりあえずどうでもいい。しかし、ここで△4四歩だけは絶対に指してはいけない。
 飛車の横利きが消えるからだ。
 横利きが消えると、先手に歩交換を許してしまう。
 たかが1歩と思ってはいけない。1歩が2歩になり、手筋の攻めを呼び、そして寄せられてしまうのである。
 相振り飛車では歩の手筋が多い。相手に歩を持たせないことが、間接的に受けの手になる。

□一方的に攻められるな

 相振り飛車では、一方的に攻められることは敗北を意味する。
 どんなに一方的に攻められる展開になろうとも、絶対に手を出すこと。これが重要だ。
 金無双なら▲6四歩。矢倉なら▲6五歩や▲7五歩。穴熊なら▲9四歩。▲8五桂と単騎で跳ねておいてもいい。とにかくどこかで相手の攻めを手抜いて、一手でもいいから何か入れておく。
 囲いの強さというのは相対的なもので、どんなに弱い囲いでも相手がそれ以上に弱ければそれは堅陣なのだ。相手の玉が安泰であればあるほど、2手スキや3手スキといった遅い攻めを間に合わされてしまう。
 たいした攻めでなくてもいい、とにかく一度はちょっかいを出しておくこと。
 それが相手を安心させないことにもなり、逆転にもつながる。

□入玉を目指せ

 もう一つ受ける側の心得を。
 相振り飛車の場合、上から重厚に攻めてくるためになかなか受け切ることはできない。受け駒を足したりしても効果がないことが多い。
 しかし、相振り飛車の攻めの陣形は浮き飛車・端角であることもまた多い。よくよく考えれば、これは飛角が接近してしかも受け駒にも近いという、飛角を攻めるのに都合のいい形でもあるのだ。
 そこで最後の手段が入玉である。
 玉は下に逃げても未来はない。一縷の望みをかけて、飛角に向かって突進することが活路を見出す。
 もちろんそのまま散ってしまうことも多いのだが(笑)、特に自玉が矢倉の場合、是非とも狙ってみてほしい。意外な逆転劇が生まれることもある。

□端歩は必ず受けろ

 何の本だったか忘れたが、「金無双は2八銀と守っていて端は固いから、端歩を受ける必要はない」と書いてあった。
 これは大嘘である。
端歩は絶対に受ける。
 これが相振り飛車での鉄則だ。
 ほとんどの相振り飛車の陣形は、7筋と3筋を基点に組み立てられる。角や桂が参加するのがその理由だろう。必然的に、中央で駒がぶつかることは少なくなる。
 つまり、それだけ端でぶつかる可能性が高くなるのだ。
 第89図のように、端歩を突き合っていれば受けられた端攻めが、端を詰められていることによって受けられなくなるというケースは多い。



 端歩は必ず受けるべきだし、逆に、突き越すチャンスがあったら他の手を後回しにしてでも突き越すべきだ。



 これらの心得は確実に理解してほしい。他の手筋や陣形やらは、全てこの心得を実現させるための手順・形である。
 対局中、呪文のようにこれらの言葉が浮かんできたらしめたものだ。
 間違いなく、あなたは相振り飛車党である。