第26回世界コンピュータ将棋選手権出場記

■はじまりから直前まで プログラムの話

 普通、白砂のような仕事をしていると3年に1度は異動があるものなのだが、どういうわけか白砂は現在の部署に8年も居る。技術職とか電気職を除くと約40人の職場の中で白砂が一番長いので、誰かは必ず一番にはなるのだがそれにしても長い。というか、考えてみればそれ以前の部署も7年・7年と長期間居座っていて、まぁよく言えば重宝がられているってことかな(悪く言えば別の部署では使えないってことかな)。
 で……という接続詞を使うのはどうかと思うのだが、今年度もまた新たな事業が白砂の与り知らぬところで立ち上がり、そんな立ち位置にいる白砂が当然のように担当にされ、予算の獲得やら理事者への説明やら、秋口からこっち(というか事業は今でも進行中)ずーーーーっとエラいペースで仕事をさせられていた。

 それでも、2月の理事者説明が終わって人心地ついたし、細々と続けてきた開発もやっと本腰を入れられるかなーと思っていた3月末。異動が発表になった。

 白砂はたまたま休暇を取って家にいたのだが、課長から電話があった。
「異動が出たんで連絡したよ」
「あ、わざわざありがとうございます」
「うん。係長になったんで来年からよろしくな」

……は?

 というわけで、4月から管理職になった。

 ご存知の方もいらっしゃると思いますが一応説明すると、管理職というのは本当に本当に「自分の仕事」をほとんどしない。例えば条例を作ったりアプリを作ったり上記にあったような業務をする場合、当然係長も出席はするが基本的にはヒラが仕事を行う。それを管理するのが(まぁ当然っちゃあ当然なんですが)管理職というものである。
 そして、これまたご存知の方もいらっしゃると思いますがやっぱり一応説明すると、これって、仕事としての感覚が今までと全然違うのだ。コマのように仕事をするのとも当然違うし、その事業の先頭に立って行うこととも微妙に違う。まだわずか1ヶ月しか経っていないので「違う」ことしか分かっていないのだが(笑)、これは参った。

 というわけで、ライブラリとしてなのはを使わせていただいて、「手でパラメータ調整する」という昔ながらの手法で白砂将棋を強くしたかった(というか、少しずつはやってた)のだが、追い込み時期のはずのラスト1ヶ月は本当に何もできなかった。

■はじまりから直前まで プログラム以外の話

 去年と全く同じことを書くが今年はもう準備を整えるとかそういう状態ではなかったので、PCは去年のまま。SVS1512AJという機種で、15インチ、Core i7-3632QM(2.20GHz。最大3.20GHz)、メモリ12Gである。

 また、今年度の開催地である川崎は、白砂の自宅からは約1時間で行ける。なので宿泊などはせずに当日朝に電車で出かけることにした。8時20分の電車に乗って間に合うというのはとても楽だ(地方から参加される方ごめんなさい)。

 ところがまずい部分もあって、仕事のシフトは白砂が作れるのだが、逆に自分に都合のいいシフトというものが組めず、結局5/4に出勤になってしまった。なので、仮になにかがまかり間違ったとしても二次予選は辞退するしかない。これも含めてモチベーションはダダ下がりである。

 前日も少しだけソースやパラメータをいじったりしたものの、過去最高にやる気がなく、結局12時前にはベッドに入り、とはいえなんだか寝苦しくて全然寝付けなくてうとうとしたのが朝の4時ころだったか。開催地が近くて助かった。
 会場に着いたのは9時20分頃。参加申込を済ませて自分の席へ。準備もノートPCなのであっという間に終わり、始まるまでは目をつぶって半分寝ていた。あ、なのはの中の人があいさつに来てくれたか。というかなんで初日からいる(笑)。

 10時を少し回って開会式が始まり、ルール説明、10年表彰等のあと、第一試合が始まった。

1回戦 vs たぬきのもり

zu  棋譜はこちら
 1回戦の相手はたぬきのもり。aperyをベースに、3台のPCをつないで(うち2台はリモート)探索を行うソフトだそうです。なんだかいっぱい機械があって思わずいろいろ質問しちゃいました。
 その手法というのもユニークなもので、少しだけ聞きかじったところでは、それぞれの探索同士で進行状況を報告しあい、自分が他者より浅い手数で探索をしている場合には探索深さを深く設定しなおして再探索する、というものです。通常のYBWCよりは有利な探索になるだろう、なるはずだと考えてのことらしいですが、確かに面白い手法ですね。

 先手を取ったので7七桂戦法へ。そこそこ順調に組み上げて第1図を迎える。
 
 ここで▲4七銀というのがまずよくわからない。
 思考ログを見てみると、最初はごく常識的な▲6七銀というを読んだあと、▲6四歩△同歩▲6五歩と継歩で攻める手や▲7六飛と回る手を読み、最後の最後で▲4二銀としている。正直80秒も考える局面ではないし、その結果ババを引いた気がしなくもない。

Searching: ln4gnl/1r2g2k1/p1pps2s1/1p2p1ppp/2PP5/5R2P/PPN1P1PP1/2GS2SK1/L4G1NL b BPbp
infinite: 0 ponder: 0 time: 514000 increment: 10000 moves to go: 0
 1   -0.20   00:00     476  44歩打   
 8   -1.40   00:00   84358  67銀(68)  33桂(21)  64歩(65)  64歩(63)  65歩打   65歩(64)  65桂(77)  42銀(53)  74歩(75)  74歩(73)  
10   -1.54   00:00  232392  36歩(37)  55角打   37角打   33桂(21)  47飛(46)  44歩打   55角(37)  55歩(54)  71角打   72飛(82)  
19   -1.45   00:10  33184K  64歩(65)  64歩(63)  65歩打   33桂(21)  64歩(65)  64銀(53)  67銀(68)  55銀(64)  76飛(46)  32金(31)  
56歩(57)  48歩打   48金(49)  46銀(55)  74歩(75)  47歩打   49金(48)  48歩成(47) 48金(49)  74歩(73)   74飛(76)  
21   -1.56   00:43 156832K  76飛(46)  32金(31)  67銀(68)  33桂(21)  74歩(75)  74歩(73)  74飛(76)  73歩打   76飛(74)  85歩(84)  
26歩(27)  42金(52)  27銀(38)  86歩(85)  86歩(87)  88歩打   88金(78)  79角打   78金(88)  57角成(79)  58銀(67)  35馬(57)  38金(49)  
22   -1.45   01:18 288899K  47銀(38)  42金(52)  67銀(68)  33桂(21)  38金(49)  32金(31)  76飛(46)  45歩打   74歩(75)  74歩(73)  
74飛(76)  73歩打   76飛(74)  35歩(34)  58銀(67)  94歩(93)  46歩打   46歩(45)  46銀(47)  34銀(23)  74歩打   74歩(73)  74飛(76)  
73歩打   76飛(74)  23金(32)  

Nodes: 288899770
Nodes/second: 3683019
Best move: 47銀(38) 
Ponder move: 42金(52) 

 で、さんざん考えて出た銀をもう一度引いたりよくわからないことをしたものの、とにかく飛車交換には成功して第2図。
 ここからの指し手は7七桂戦法側、というか振り飛車党としてはイヤなものだった。

第2図からの指し手
△3六歩▲8二飛△2五桂▲6一角△4二銀▲8一飛成△5五角(第3図)

 △3六歩からコビンを集中攻撃。振り飛車党としてはイヤなものである。というか白砂将棋がノンビリしすぎていて、第3図はもうどうしようもない感じだ。読み筋は△5五角に▲4六歩△3七歩成▲同桂△4六歩▲5六歩△9九角成というもので、▲3七同桂に△同桂成とされた局面でさえ、ギリキリまで▲3七同銀△4六歩と読んでいて、最後の最後で△2五桂という手に気づいている。なんでそこで△3六歩という手が見えないのか(泣)。
 こうなってしまうと手の施しようがない。いかいくばくもなく投了となった。評価関数が2駒だからということもあるとは思うのだが、それを差し引いても玉の危険度に対する認識が薄すぎる。

 将棋自体はたぬきのもりの圧勝だったが、たぬきのもりの中の人達は別のことで頭を抱えていて、どうも、3台つながっているうちの1台の挙動がおかしいらしい。画面を拝見させていただいたが確かに1台だけ評価値が200くらい低い。リモートでビルドし直すとかなんとか相談していて、なんだかとても大変そうだった。
 なんにしても、残念なスタートである。

2回戦 vs nozomi

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 2回戦の相手はnozomi。PCの横にヲタヲタしい女の子が飾られていて、「これなに?」と訊いたところ「ラブライブののぞみちゃんです」とのこと。そ、そうか……。
「ラブライバーなのか……」
「ついこないだ初めて観ました」はぁ!?
 詳しく聞いてみると、元々は新幹線ののぞみからつけられた名前だとのことで、そのあとで「ラブライブののぞみ」というものの存在を知って持ってきたらしい。なるほどねぇ新幹線ってことは探索スピードの速さとかそういうことで……というとそういうことではなく、単にそれっぽい名前を探していて、じゃあ新幹線ののぞみをローマ字にしたらカッコいいから決めた、とかいうレベルらしい。をい。

 とかいう馬鹿話をしているスキに(<スキじゃない)対局が始まっていて、相穴熊へ。プロの棋譜から作った定跡の方に相穴熊が入っているからなのだろうが、まさか白砂将棋が相穴熊を指すとは思わなかった。

 第4図は▲5五歩と突いてきたところ。以下、△6三銀と引いて、あとはお互いにガチガチに固め合って……などと思っていたら白砂将棋は元気よく△6五銀。これはどうなんだ。

 しかし、0秒で指しているということは定跡=プロの実戦例があるということだ。家に帰ってからこれを書くに当たって調べ直してみたところ、2004年の順位戦で指されていたらしい。本譜も順位戦も、第4図以下△6五銀に▲同銀△同歩▲2四歩△同歩▲5四歩△同歩▲3三角成△同桂(第5図)と進んでいた。

 ここで順位戦の将棋は▲2四飛と走り、△4六歩▲2一飛成△4七歩成▲7五角△5五角……と殴り合いの末、後手が66手という短手数で押し切っている。
 一方、nozomiはここで▲8八角。この角のラインを制圧しておけばナナメからの攻めは来ない。とすると飛車とと金で横から攻めるしかないが、そうなれば2枚vs3枚という穴熊の違いで先手優勢、ということなのだろう。とても感覚のいい一手だと思う。
 これに対して白砂将棋は△6六歩▲同角△3二金。できれば△5五銀とでもして先手を取ってほしいところだが、ログを見てみるとそれもちゃんと考えた上で△3二金を選択している。……にしてもなぁ……(未練)。

19   -1.96   00:13  35492K  55銀打   75角(66)  64歩打   24飛(28)  46歩(45)  21飛成(24) 47歩成(46) 11龍(21)  74歩(73)  86角(75)  
 28歩打   13龍(11)  57と(47)  57金(68)  48飛成(42) 33龍(13)  57龍(48)  95桂打   73角打   63銀打    67龍(57)  
20 -2.17 01:17 206114K 32金(41)  24飛(28)  23銀打   28飛(24)  46歩(45)  44銀打   55歩(54)  55角(66)  47歩成(46) 43歩打   62飛(42)  33銀(44)  65飛(62)  88角(55)  39角打   27飛(28)  57と(47)  32銀成(33) 68と(57)  68銀(79)  32銀(23) 

 更にひどかったのが第6図で、ここで白砂将棋は△2七銀。これはないわ。▲4六飛△4五歩▲6六飛△同銀で駒損は回復できるが、こんなそっぽに銀を打って幸せになった人はいない。駒損回復を考えるにしてもせめて△4五銀▲1六飛△1四歩とか、もっとやりようはあったと思うのだが。
 ここから先は「少しの駒損だが陣形が大差」という白砂将棋には認識しづらい局面が続き、気がつくとジリ貧という最悪の展開でそのまま押し切られた。

 これで2連敗。相手が相手なだけに仕方がないが、苦しいスタートである。

3回戦 vs 悲劇的 with Zero

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 3回戦の相手は悲劇的 with Zero。元々はWarsenal Zeroという名前のソフトで、昔当たったことがあります。れさびょんだった頃で、こちらは7手読みくらいだったのには19手とか読んでいて、あっという間に吹っ飛ばされてました。

 今回はなのはベースなので白砂将棋もそこそこ手を読んでくれるから、そんなにひどくはならないだろうという心算はあったが、初手▲6八玉という展開に少しイヤな予感がした(笑)。
 ところが、悲劇的 with Zero側もなんだか陣形がおかしい。中の人に話を伺うと、学習の問題かこういう展開を好んでしまうらしい。1回戦の習甦戦でもこんな感じに組んで、棒銀風味に来られて吹っ飛ばされとのことだった。
 白砂将棋にはそんなことはできないので、単純に飛車先を交換して第7図。悲劇的 with Zeroが突っ張って▲9六歩と突いたところだ。確かに△4六飛なら▲8二歩があるから大丈夫か。

第7図からの指し手
△7四歩▲9七角△9六飛▲3六歩△7三桂▲5八金△9七飛成▲同香△8五桂▲9二歩△同香▲8二飛△9七桂不成▲同桂△6四角(第8図)

 長手数で申し訳ないが、白砂将棋の一連の捌きを見てほしい。桂を跳ね、飛車を叩き切り、第8図では飛桂の両取りがかかった。やはり長手数読めるというのはそれだけで武器なんだなぁと思わされる。れさびょんの頃には絶対にできなかった(泣)。

 第8図で▲8七飛成としておけば、△8六香に▲9六龍という余地があるので簡単ではなかったと思うのだが、本譜は▲8八飛成としてしまったために△8六香が致命傷になってしまった。以下自然と駒得ができる形になり、時間はかかったもののそのまま押し切ることができた。

 中の人とはいろいろ話をさせていただいたが、前回対局した際は速いと思っていたBonanzaライブラリが現在ではNPSで大幅に差をつけられている。時代の流れというか、コンピュータ将棋の進歩の速さを肌で感じた気がした。
 とにもかくにも初日が出て、ここで気分よく昼食へ。しばらく休憩して4回戦となった。

4回戦 vsメカ女子将棋

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 4回戦の相手はメカ女子将棋。何度か当たったことがあり、勝ったり負けたりだった記憶があります。中の人に伺うと、Bonanzaベースで、aperyはライブラリ申請はしたものの使っていないとのことでした。

 挨拶をしていると対戦が始まっていて、相穴熊になっていた。これは2回戦と同じ展開かと思ったら第9図。▲6六歩と突いた手に白砂将棋が鋭く(?)△5五銀と反応し、▲6五歩以下ごちゃごちゃやっているうちに△4六歩から棒銀風味の攻めが炸裂してしまった。通常、後手側から△5五銀という手はないと思うので、そういう意味では▲6六歩がまずかったのか、むしろ▲5八金右とでもしておいて△6六銀と食わせてあとで▲7七角から狙い撃ちするとか、そういった構想の方がよかったのかもしれない。

 その後も少しずつだが駒得を重ね、穴熊の強みを存分に発揮しつつ先手玉に迫り、最後は1手詰を見逃してくれたためあっけない終局となった。

 気づくと2連勝で2-2の五分。ちょっとビックリである。

5回戦 vs shogi686

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 5回戦の相手はshogi686。初対局になるのかな。BLOGはいつも拝見させていただいていて、見てますと伝えたら「最近はtwitterをよく更新してます」と言ってたので「おっさんはtwitterの読み方すらわかんないんだよ(血涙)」と言っておきました。
 観戦しながらいろいろ伺ったんですが、やはり学習がまだ不完全なようで、大量の棋譜を時間をかけて処理する必要があるが、そもそもその大量の棋譜をどうやって入手すればいいのか……みたいなことを言ってました。その時には先程対局した悲劇的 with Zeroの中の人もいらしていて、自己対戦によりある程度は棋譜は確保できるが、例えば5万局の棋譜を使うと、2手読みでイテレーションを回すのに約15時間かかる。それを150回回すとなると……と、学習の難しさについてコメントしてくれました。1日2イテレーションとして150回回すと75日。1学習2ヶ月半は無理ゲーすぎますよねぇ。2手読みを減らすか探索速度を上げるかいっぱいPCを用意して並列化するか……どう転んでも大変な話ではありますね。人力でパラメータ調整している白砂はそれはそれで大変なんですが、機械学習も大変なことではあります。

 将棋の方は、先手を取ったので7七桂戦法へ。早い△7四歩だったので定跡形からは外れたが、チューニングがうまいこといったのかちゃんと組み上げていく。この辺りは見ていて頼もしかった。
 そして第10図。5四歩をかすめ取ろうとした白砂将棋に対し△4四歩と追っ払おうとしたshogi686だが、5二玉の形が悪いことに目を付けたか、それとも単に駒得に目がくらんだか、白砂将棋は強気に返す。

第10図以下の指し手
▲5四銀△7二角▲3八銀△4二桂▲6三銀不成△同角▲6四歩△7二角▲7五歩△5四銀▲7四歩(第11図)

 ▲5四銀と取ったのが強気な対応。対して単に△4二桂なら▲6三銀不成△同銀▲6四歩△5四銀▲6三角とぶちこんで攻めが続く。△7二角としてから△4二桂としたのはそれを看過してのことだと思われるが、それでも本譜のように攻めがつながった。第11図では、玉と角と飛車を一緒に攻められてしまっている。
 そして、ここからの数手で形勢に決定的な差がついた。

第11図からの指し手
△8五歩▲3九玉△1二香▲2八玉△8四飛▲4六桂(第12図)

 △8五歩△8四飛として7四歩を払いに行ったのは仕方がないのかもしれないが、間に△1二香を挟んだのが痛かった。大きい大きい▲2八玉という一手が入り、第11図と第12図では玉の安全度が全然違っている。
 ここからも白砂将棋は一方的に攻め続け、快勝となった。

 なお、あとで中の人が教えてくれたのですが、shogi686は▲6四歩の局面では全く危機感を感じず、▲7四歩の局面でもそんなにひどくはないと考えていて、そのあと実際に読みを進めてやっと劣勢に気付いたとのこと。この辺の玉の危険度・安全度の判定は難しいです。白砂将棋だって1回戦みたいにのんきなこと考えてますし。

 なんにせよ、これで勝ち越しの3-2。期待はまったくしていなかったので素直に嬉しかった。というか次局が鬼勝負ってことになっている。

6回戦 vs きふわらべ

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 6回戦の相手は。きふわらべ。
 席にお伺いしたところ、見てはいけないような(<ウソです)二次元の女の子が。
「触れないわけにもいかないだろうから一応訊くけど、なんだこれは?」
「同人作品の女の子です。同人では有名ですよ」
 そ、そうか……。
 二次作品ならともかく、同人のオリキャラもグッズ化してんのか……。しかし、そういえばそんなことどこかで聞いたような気がするなぁ。
「GALLERIA Loungeの向かいの店で売ってました」と、ノートPCを見せながら言う。そうだ、そういえばそれも訊こうと思ってたんだ。
「配布パンフには使用CPUせろりんって書いてあったけど……」
 さすがにCeleronで参加って思い切ったなぁ……と思ってたんです。
「そのつもりだったんですけど、そのPC壊れちゃって。それでコレ買ったんです」
 そうだったのか。でついてにこの同人キャラのグッズも買ったのか(笑)。
「速度が3倍になりました」

くそぅせろりんPC壊れなければよかったのに

 先手を引いたので7七桂戦法へ。対してきふわらべは素早く飛車先の歩を交換してきて第13図となったが、ここで不思議な応酬が見られた。

第13図からの指し手
▲3八玉△3二玉▲8八銀

 飛車先をそのままに▲3八玉。△8九飛成は▲8八銀で大丈夫ということなんだろうか。しかし△8七歩▲7九金△8八歩成▲8九金△同歩成も怖いけどなぁ……。まぁ、ひねり飛車の飛車殺しといっしょ、ということなんだろう。で、きふわらべも同様に考えたのか△3二玉と寄り、今度△8九飛成は後手玉が安定しているからってことで(<たぶん)飛車先を受けて▲8八銀。

 しかし、これは危険な一手で、▲8七歩と収めるべきだった。きふわらべに△4五角と打たれてしまい、角金交換から一方的に攻められてしまったのだ。もともと△4五角型は難敵と感じていて対応の必要性を感じてはいたのだが、難敵でもありなかなかうまいこといかなかったのである。それがモロに出てしまった。

 逆にきふわらべ側としては理想的な展開で、中の人曰く、
「改良がなんか失敗してるのか、17秒くらい読まないと読みが安定しない」
「なので、勝ちパターンとしては、序盤で優勢な局面を作ってその貯金で逃げ切るしかないと考えた」
「そこで、序盤に時間をつぎ込み、有利な局面を作りやすいよう時間管理をした」
「今は後手が+700くらいなんで、このまま進めば大丈夫だ思う」
 と、事前の構想が見事にハマった形となった。

 持時間がなくなってからも、ponderがヒットして10秒の貯金ができるなどの結果ほぼ20秒の思考時間が確保できて、きふわらべ優勢のまま将棋終わった。
 事前に穴を埋めなかった白砂将棋と、しっかり勝ちパターンを考えてバクチ覚悟で調整したきふわらべとの差が出てしまった感じである。

 これで3-3。鬼勝負は負けてしまったが、そこはもともと期待していなかったのでまぁよしとしよう。
 それよりも最終局。ここで勝ち越しをかけることとなった。

7回戦 vs Claire

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 7回戦の相手はClaire。
 うん。なんて読むか訊いとけばよかったなorz

 ご挨拶に行ったらすでに将棋が始まっていて、第14図になっていた。

 なんだ角交換できなくてもちゃんと石田流には組めんじゃんと思ってたらよく見たらひねり飛車で、さらによく見てみたら白砂将棋が後手だった。こんな薄い形、白砂将棋に指しこなせるわけがないじゃないか(泣)。

 第14図からはとにもかくにも△1四歩とか△3三角とかして角を働かせてほしいと白砂などは思ってしまう。しかし実戦はいきなり△7二飛としてしまい、以下角を働かせることもしないままどんどん金銀が玉から離れていく。やっぱひねり飛車の後手は指せないよなぁ……。

 それでも「チャンスでは?」と思ったのが第15図。△4八歩と打った辺りから中の人相手に話はしていたのだが、白砂将棋が勝負をかける。

第15図からの指し手
△7五銀▲9六飛△3六歩▲4八金△8六歩▲7六歩△8七歩成(第16図)

 △7五銀と出てから△8六歩として飛車を詰ましに行ったのが勝負手。正直、飛車を取っても有利かというとそういうことはないのだが、勝負形にはなる。実は▲7六歩の切り返しがあるので本当は△6六歩としてほしかったのだが、△5六歩という角筋を通す味のいい手が消えてしまうので良し悪しなのだろう。まぁ第16図まで進んでは、とりあえず勝負にはなったかと感じていた。
 しかし今度はClaireが力を見せる。

第16図からの指し手
▲5三歩△同金上▲7五歩△7八と▲6二銀△4二金打▲7四歩△同銀▲7三銀成△7七と▲7四成銀(第17図)

 ▲5三歩以下、角筋を生かした攻めが厳しかった。
 白砂の棋力では△5三同金寄と取った場合の攻め筋がわからなかったので家に帰ってきてからaperyに訊いてみたが、やっぱりそれで互角っぽい。というか、さっきから勝負手だのなんだのと言っていたが、第16図はaperyから見ると-20くらいの超接戦なんだそうだ。ホントかよ……。
 それはさておいても▲6二銀が厳しい手であることに変わりはない。また、▲7四歩として銀を浮かせてから▲7三銀成としたのも当然の手ではあるが細かいポイントで、第17図まで進むと純粋な銀損になっている。

 第17図で△8一飛と回ったらまだまだ勝負だったかもしれないが、ここで白砂将棋が指した駒損回復狙いの△3四桂が決定的な悪手。喜んで▲5三角成と切られてしまい、Claireが優勢になった。
 その後、Claireに▲3七金打という盤石の一手が出てハッキリ優位に立ち第18図。終局間近である。

 少し前に▲2四歩△同歩と突き捨てておいた手を生かして▲2三角と打ち込んだところ。もちろんタダだが、もちろん△2三同玉は▲2四銀から▲2五歩で押していけば詰みそう。けれども……。
「△2二玉の時はどうするんだろう?」
「わかんないです」
「▲3二金は△2三玉と角の方を取るしなぁ」
 観戦している白砂の読み筋通りに局面は進んでいき、以下▲2四銀△3二玉▲2三銀成とカラ捨て。ここで白砂にも意図がわかった。

「なるほど。▲3五桂(第19図)を打とうってんだな」
「?」
「▲3五桂△3二玉には▲4三とから清算して、△4三同玉に▲4四銀としてまた清算して、飛角金持ってるから詰み、ってことじゃないかな」
 実は▲4四銀は△3二玉と落ちてギリギリ詰まないようなのだが(△4四同角から清算する手は詰む)、というか第19図で▲2二玉と落ちる単純な手を白砂は見落としていて、▲2三角から数えて何手になるんだよこんなの人間じゃ読めねぇよーなどと言っていて、そのまま両者1秒指しでバタバタっと終局まで行った時も、てっきり読み筋通りのまま詰ましたんだと思っていた。ただ、思い描いていた局面と現表示が違う(前述のとおり、白砂は清算して左に追って詰ますとばかり思っていた)ので、詰手順と終局形を見ようとよく見てみると……。
「……反則って出てる」
「えっ!?」
「打歩詰だこれ……」
「ええっ!?」
 Claireの中の人もエラそうに語る白砂の読み筋を信じていたと思うので、白砂の言葉の意味が分からなかったんだと思う。
「清算する筋じゃなくて、いったん△2二玉と落ちる筋で詰まされに行って、最後▲3二金△2四玉に▲2五歩って打って打歩詰め」
 将棋があまり得意じゃないって人にこんな符号で説明してもわかるはずもないのだが、白砂も動転していてそこまで気が回っていなかった。帰宅中に中継ブログを見たら打歩詰めの局面の写真がアップされていて、白砂の認識が間違っていなかったことは確認できたが、あそこまで駒を捨てて詰み逃しだということはあの時まったく考えていなかったので素直に驚いた。

 整理すると、▲2三角△2二玉の局面では詰みはなく、冷静に▲4一角成としておけばClaireの勝ちだった。また、本譜のように進んで最後の最後、▲4三と△同飛の局面でも、▲同桂成△同玉▲3四銀成△同玉▲3四銀と上部を開拓しながら攻めればまだ勝負はわからなかったと思う。
 ただ、Claireには打歩詰判定がなかったっぽい(中の人の口ぶりでは)ので、そのため単純に即詰みと判断して指し進めたということだろう。白砂の読みもアテにならない……orz。

 とにかく、なんだかウソみたいな結末ではあるが、一応、4-3の勝ち越しで白砂の今年の選手権は終幕した。


 Claireの中の人にも言ったのだが、確か白砂は打歩詰めで4回くらい勝っているはずだ。いっぺん1年に2回勝ったこともあったくらいで(笑)、とにかく自分では反則勝ちが多いイメージがあった。
 で、いい機会なので調べてみたのが以下の表。

相手内容
172TSP必ず1手1分考えるというバグのため時間切れ勝ち
184Tohu自ら王手にかかる手を指した
211人生送りバント失敗王手の千日手
223なり金将棋打歩詰め
225さわにゃんRL打歩詰め

 打歩詰は今回で4回だったか。王手にかかりにいく反則という珍しいものも体験している。

 白砂は今年10年表彰を受けて、その際、過去9年の成績が63戦23勝36敗4分だと紹介された。23勝のうち実に5勝が反則勝ちだったということになる。実質的には18勝しかしていないわけで、改めて見てみるとムチャクチャひどい数字である。

■おわりに

 そんなこんなで選手権は終了した。
 前日ほとんど寝ていないことと、翌5/4は仕事だということもあり、実は閉会を待たずに失礼させていただいた。2次予選進出の方々に拍手を送ることもできずに申し訳ない。
 前述した通り、白砂の取り巻く環境も大きく変わり、今後はいつも以上に開発に時間が割けなくなると思われる。正直なところ、来年以降、参加できるかどうかは(例年以上に)未知数だと思う。キリよく10年頑張ったし、これで卒業(←モー娘。ヲタやってるとこういう言葉がサラっと出てくる)かなぁ……と、これを書いている現在は考えているところだ。

 なんだか景気の悪い話で申し訳ないが、しれっと来年も顔を出しているかもしれないので(笑)、まぁ軽く聞き流していただきたい。


初版公開:2016年5月5日
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