第21回世界コンピュータ将棋選手権出場記

■はじまりから直前まで プログラムの話

 昨年度と同じような話になってしまうが、今年度も非常に仕事が忙しく(とはいっても皆さんよりはよっぽどラクなんでしょうけども……)、プログラミングをする精神的余裕はまったくなかった。少しだけ愚痴らせてもらうと、なんでも条例を作らないといけないとかで、今までリサイクルだなんだと電話応対をしていた人間が突然法制だの庁議だのといったぜんぜん違う類の仕事をさせられてしまうことになってしまい、それはもう大変だった。
 そんなこんなで、ホントにホント、全然プログラミングができる状態ではなく、ずっと懸案だったバグを取ったり、序盤の駒組について少し修正したり、ちょっとした出力表示を変更したりとしか、その程度のことしかできなかった。
 ちなみにバグというのは、昨年度のSTR戦で発生した▲6六飛のこと(棋譜はこちら)で、簡単に説明すると「駒組みを手順として持っていて、それを指す前に浅く読んでみて-300点以上だったら駒組手を指す」というものだったのだが、事前にもらった得が大きすぎて飛車をタダで捨ててもまだプラス評価という想定外の局面(笑)だったため飛車を献上してしまった、というバグである。これを、まずルート局面での評価を記憶しておき、その評価値と駒組手を指した後の浅読み評価値の差が-300点以上だったら駒組手を指す、というように変更した。
 正直、これは全敗もあるな、と本気で思っていた。

■はじまりから直前まで プログラム以外の話

 使用PCについては、以前買っていたPCが不調になっていたので新調した。
 どうせCPUとメモリの性能がよければ他はいいんだろ……と単純に考えて、画面の広さと重さと費用対効果で選んだのがACERのASPIRE 3820-A52C。Core i5-460M(2.53GHz)、メモリは2GBを8GBに(そんなにあったって使えないのだが)。画面は13.3インチで重さは1.8kg。これなら十分に持ち運びが可能だ。

 また、今年度は早稲田で開催であるが、一昨年に当日乗りをしてひどいことになったので、前日から泊まりで参加することだけは決めていた。
 宿泊先を調べてみると、大学近くはリーガロイヤルホテルしかなかった。あまり安い金額ともいえないが、ネット予約ならツインで15,000円ということだったのでここにした。何泊するかは一瞬だけ迷ったのだが、どうせ2次予選に進出できるとは思っていなかったので1泊のみとした。

 本当は5/2にも休みを取ってゴールデンウイーク中に少しでもプログラムを形にして本番に臨みたかったのだが、どうしても休みが取れず結局午後だけ休ませてもらった。九段下で乗り換えて早稲田で降り、少し歩くとホテルである。
 途中、コーヒー豆を売っている店「焙煎工場さかいち」でコーヒーが飲めるということだったので、接続テストのあとに寄ることにした。また、その近くの喫茶店「cafe de Sun歩みち」で焼きカレーを出しているということがわかったので、地雷を踏む覚悟で夕食はそこにすることにした。

 接続テストは問題なくできたが、テスト対局にもかかわらず読みを7手にしてしまっていたため、本気の勝負が始まってしまいなかなか決着がつかない。本当は1手20秒までしか考えないようになっているはずなのだが、どういうわけか20秒を過ぎてから数秒遅くしか指し手が返ってこない。なんか条件づけがおかしいのかなぁ……と悩んでいると、こんにちは……と、なのはさんが声をかけてきた。彼も接続テストに来ていたらしい。
 今年はこれを頑張ってきました、といいながら出てきたのがこれである。3Dで、開始のときにグルグルアングルが動くらしい。おまいというやつは……(笑)
 せっかくなので動いているところを見てみよう、と思ったので、サクっと終わるように読み手数を浅くして白砂将棋vsなのはで練習試合をすることにした。しかし残念なことにグリグリ動くのは「ソフトの立ち上げ時のみ」だとのことで、見ることができなかった。おまけに、3Dではタテヨコいろんなアングルからこの痛盤を見られるとのことだったのだが、どういうわけか前アングルの残像が若干残ってしまっていた。
「本番用プログラムはちゃんと動くはずなんですけど……。今夜は徹夜してでも修正します
 おまいというやつは……(笑)

 接続テストのあと、さっき探していた「焙煎工場さかいち」でアイスコーヒーを飲んだ。さすがに豆屋が出すだけあって当然ながらうまい。
 その後、コンビニで飲み物や酒やらを調達して(←プログラムする気はまったくない)、焼きカレーを食べに再び外出した。
 地雷かな……と思ったのだがとんでもない。実にうまかった。今まで食べた中では多分1・2を争うくらい好きなタイプのものだった。おいしい焼きカレーに出会いたくて浅草橋の「ストーン」がうまいというので食べに行ったのだが、あれはどっちかというと焼きカレーで、うまいにはうまかったがドロっとしすぎてカレーっぽすぎた。焼きカレーというからには焼きカレーであってほしいのだ(ちなみに白砂のイチオシはここ。昼過ぎに行って「焼きカレー大盛り」と言ったら「すいません出前で出払っちゃって皿がないんですよ」と言われた超個人経営の店である(笑))。この店の焼きカレーはその点で好みのド真ん中で、大盛りを食べたのだが量も含めて非常に満足だった。メニューを見ると他にもいろいろ旨そうなメニューがあったので、これはもう明日の昼はここだな、と夫婦二人でホクホクしながら帰途に着いた。
 せっかくなので、ホテル内の「グルメブティック メリッサ」に寄ってスイーツを買ってきた。白砂はフェアをやっていた抹茶と黒糖のロールケーキ、妻はオペラを買ったのだが、これまたどちらもとてもうまかった。
 なんだか当たりばっかりでいいのかねぇ……などと馬鹿なことを考えながらその日は眠りについた。

 試合当日、9時にホテルをチェックアウト。ついでに着替えなどの荷物も宅配便で自宅に送り返した。これで大会後はノートPCその他のリュック一つで帰ることができる(←この事実からもそもそも勝てると思っていないということがわかる)。
 朝食は2年前にも食べたモスバーガーで。長居してもしょうがないのですぐに出てきた。
 参加申込もさくっと済ませて自分の席へ。
 10時に開会式が始まり、黙祷、ルール説明、うさぴょんの10年表彰等の後、第一試合が始まった。

■1回戦 白砂将棋vs人生送りバント失敗

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 初戦の相手は人生送りバント失敗。お伺いしたところ、まったりゆうちゃんの分家(?)だとのこと。それで白砂の方で保存した棋譜の対局者名が「TCP_C/gakkari」になってるんだな(笑)。
 先手だったので7七桂戦法に進んだのだが、驚いたことに△3三銀も△6二銀も省略して△4二玉という手が定跡に入っていなかった。基本的に定跡は白砂の実戦譜から生成しているので、ということは対人間でそう進んだことはないということだ。現在ならありそうな手順だが、もう何年も実戦を指してないからなぁ……(遠い目)。
 また、地味なところながら、△8六歩▲同歩△5二金右に対して▲3八玉としている。これは前述のバグ関連の話と通じていて、-300点以上損をするようなら駒組手は指さないようにしているのだが、歩1枚が100点なので、御大尽にも歩を差し上げてしまった(厳密に言うと「損」ではないのだが)のだろう。

 第1図まで、ガッチガチに固める人生送りバント失敗に対して、大好きな5八銀型美濃を作ってホクホクしている白砂将棋だが、ここでなぜか指し手は▲3六歩。読み筋は▲3六歩△3二金▲3七桂△2四歩▲7五歩△5三銀▲9六歩、となっているが、なんで桂馬を跳ねるのがいい手なんだろうか? というか▲6五歩と突いたのだから、▲6九飛として▲6四歩を狙ってほしいものだが、そうはしないらしい。よくわからない。この辺りが解明できれば、白砂将棋はまだまだ強くなる気がする。

 ここから馬を作ったりなのに自分から端を攻めて傷を作ったりと、もちゃもちゃやっているうちに第2図に。△1四銀としばった手に▲1九香と受けた局面である。▲1九香ではまだしも▲3六玉と逃げ出していたら難しかったのだが、そんな手は白砂将棋には指せないのだろう。それはさておき第2図。一緒に観戦していたまったりゆうちゃんのお仲間さんに「あ、これは決め手があるね」と伝えたそのすぐあと、人生送りバントはかっこいいホームランを決める。

 △3五銀▲1六玉△7七角成▲2六歩△5九馬(第3図)

 王手で端に玉を追いやってから△7七角成と桂を取ったのが決め手。次に△2四桂の一手詰なのでこの馬を取っている余裕はない。▲2六歩と脱出口を開けたのは仕方ない手だが、痛いことに△7七角成は5九の飛車にも当たっている。加えて△5九馬と取った手がまた詰めろ。第3図ではド必敗である。
 ところが、89手目最後のお願いの▲5五馬に後手が間違える。△4四銀と引いてしまったため、2六に利きがなくなって詰めろが解けてしまったのだ。もちろん、白砂将棋から攻める手がまったくなく、負けであることに変わりはない。第4図では頼みの馬まで消されてしまって完全に終わっている。
 しかし、ここから奇蹟の手順が展開される。

△4九角▲3六玉△6七角成▲同銀△3五銀打▲2七玉△2六銀▲3六玉△3五銀左▲2七玉△2六銀▲3六玉△3五銀左▲2七玉△2六銀▲3六玉△3五銀左▲2七玉△2六銀まで、王手の千日手にて先手勝ち

 第4図では△2九龍で詰んでいる。また、本譜のように追っかけて、▲3六玉としたときに△3七銀左不成(2六の銀が不成で3七に行く手)で必死である。それ以前に、後手玉は鉄壁なのでほとんどなにをやっても勝ちである。
 ただ、千日手の判定を入れていなかったようで、千日手の判定を入れていなければ千日手の反則に気づきようもなく、唯一とも言える負け筋に入ってしまった。
 白砂は1回目の△3五銀打〜△2六銀のあたりで可能性に気づいて、「これ千日手になったりしてね」と冗談で話しかけたところ、そこで人生送りバント失敗に千日手判定ルーチンが入っていないことを聞かされた。で、「それやばいよ王手の千日手は反則負けだよ」と伝えたあたりで同一局面4回となった。
 ただ、実はK-Shogiはこれをなぜか「後手の勝ち」と表示していて、あれ、どうなってんだ? と作者が二人してサーバ担当者に訊きに行ってそこでやっと反則勝ちが確定したことを知るというなんとも情けない形となった。これ、K-Shogiのバグなのかなぁ……(以前にも、サーバがらみと思われる落ち方をしたことがある)。

 結果を先に言ってしまうと、人生送りバント失敗は8位で予選を通過している強いソフトである。本譜でもわかるとおりまともにやったら勝てなかったわけで、まぁ開発途中の若さに助けられた、というところだろうか。
 なんにしても、本気で全敗を心配していただけに(というか棋力に関して言えばその見立ては間違っていなかったようだが)、貴重な一勝だった。

■2回戦 scherzo vs 白砂将棋

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 2回戦はscherzo。うん、そう、scherzoね、scherzo。(←読めなかった……orz)。すけるつぉ、と読むそうです。というか会場ではそういう風にアナウンスしているように聞こえました(<調べろよ自分)。
 あうあう将棋の後継ということでしたが、昨年度まではあうあう将棋のほうが位置的にずっと上にいました。一応今年だけは白砂将棋のほうが表の上にいますが、これは去年の「千日手上等」の白砂将棋が3-2-2だったのに対しまじめに戦ったあうあう将棋が3-4だったためという結果で、ソルコフも白砂将棋が20.0だったのに対しあうあう将棋は25.5。単に当たりも白砂将棋が恵まれていただけだと(笑)。

 将棋は先手のscherzoが筋違い角を選択し、白砂将棋がそれを受けずに▲6三角成を許すというありえない展開であっという間に先手有利に。そして33手目、先手scherzoは力強く▲7六玉(爆)
 おいこら(笑)。
 作者さんに訊いてみると、どうもscherzoはこの形が好きらしい、とのこと。学習の結果とかそういうことなのかなぁ。
 しかし、この棒玉を白砂将棋はとがめることができない。端から食い破られ、成駒を量産された第5図はすでに必敗形である。
 ところが、ここから白砂将棋が力を見せる(多分偶然だけどorz)。

△9六歩▲8七玉△3五歩▲5五桂△4二金引▲7三桂成△3六歩▲4三歩△4一金▲4八飛△7九馬▲8八銀△3七歩成▲同桂△1三馬▲3四歩△同銀▲4四飛△3五銀▲4八飛△4六銀▲3八金△3六歩(第6図)

 △9六歩で玉を誘っておいてから一転飛車のコビンを攻める。そして手に乗って銀を進出させ先手の飛車を押さえ込んだ。実は△3五銀に▲6四飛と横に逃げられたらそれまでだったのだが見なかったことにしよう(作者さんも「なぜ飛車を成ろうとしない(笑)」と言っていた)。
 ここからscherzoに水平線気味の指し手が続き第7図。ここで△8四桂とでも指していれば綺麗に勝っていたと思う。それを逃し、逆にさきほどの狙い筋だった▲6四飛を実現されてしまい、ここでまた形勢の針が先手に触れた。

 ところがところが、白砂将棋はさきほど水平線効果でもらった歩を元手に怪しげな叩きを連発していく。客観的に見ればこれもまた水平線効果のような気もするが(笑)、玉に近いところだけに効果が高かったらしく、scherzoは致命的な悪手を指してしまった。それが第8図。▲6三桂成は大緩手で、白砂将棋にとって最大のチャンスボールである。

△3八角成(なぜ△9六銀と打たない)
▲5二銀(なぜさらに銀を渡す)
△同金(だからなぜ△9六銀と打たない)
▲3三銀(だからなぜさらに銀を渡す)
△同桂▲同歩成△同金▲9四飛
△8七銀(なぜ△9六歩と打たない)
▲9六歩
△7六銀成(なぜ△8八銀打で詰まさない)

 これだけ緩手を指していれば勝てないのは当然。
 結局、時間切れで白砂将棋の敗北となった。

 実は、1手20秒で指す、という時間制限を組み込んでいたはずなのだが、どういう理由かそれがうまく働かなかった。また、「(この時間のない局面で)1手7秒で指してるようじゃダメだ(時間切れ負けになる)な」と言われていたとおり、時間のない局面での1秒指しができていなかった。まぁできていたら勝ってたのかという問題は置いといて。
 心当たりはないわけではないのだが、対局に時間がかかっていたため次局が迫っていて修正する余裕はなさそうだった。

■3回戦 白砂将棋 vs Sunfish

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 3回戦はSunfish。これも結論を先に書いてしまうと、Sunfishは全勝で一次予選を通過したソフト。勝てるわけがないorz。
 角交換はできたものの△6二金で定跡を外れて中飛車に。第9図は▲2八玉に機敏に△6九角と打ち込んだところだが、ここで白砂将棋が力を見せる。

▲5九飛(泣)△7八角成▲同銀△6八金

 ▲5九飛と「定跡どおり」指して悪くない、と読んでいる。実は読み筋は▲5九飛に△4七角成▲3八銀△9二馬で、美濃囲いが作れているからよし、というもので、それもどうかと思うのだがまぁそれは仕方がない。しかし、角を切って自陣を荒らされたのは痛く、そのまま押し切られてしまった。
 特にコンピュータ将棋の場合、ムダに隙を作ってもいいことはない。これはもう定跡部分を考えた人間の白砂が悪い。

 ここで昼食となった。
 思いついたことがあったのでプログラムを修正。
 1手20秒の時間制御が利かなかったことについては、ループの脱出方法に問題があったんだろーなーというアタリはつけていたので、その周辺を再検討し、見つけた。また、終盤1秒指しをしなかった点についても、多分これだろうな……というところがあったのでやはり見つけて修正した。
 とりあえず1回だけでもチェック、ということで、K-Shogiと戦わせたところで昼食を食べに外へ出た。これが将棋処あたりを使っていれば連続対戦ができたのかなぁ。

 昼食は、前日にも行った「cafe de Sun歩みち」。今度は、妻はビーフシチュー、白砂は味噌焼豚丼。これもまた旨かった。B級万歳(笑)
 戻って対局結果を確かめる。時間制御はちゃんとできているようだった。うん、これなら問題ないな。根本的に弱いという点はさておいて。

■4回戦 白砂将棋 vs なり金将棋

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 4回戦はなり金将棋。過去に2回当たっているが、千日手、負けと一度も勝てていない。順位も常に白砂より上位のソフトです。

 今回も苦戦を覚悟してはいたのだが、ただ、昼休みの修正と昼飯の旨さで機嫌がよかったので(笑)、そこまで深刻にはなっていなかった。
 後手番だったが、▲2六歩だったため通常の定跡になった(とはいっても角交換はするのだが)。▲4六歩と突いてくれているにもかかわらず一向に△4七角と馬作りをしない白砂将棋ではあるが、うまいこと大駒を捌いて優勢を築き上げた。第10図はなり金将棋が▲5九金と受けたところで、あとは白砂将棋がどうするか、という局面だ。
 8筋が素通しになっているのが怖いので、がっちり受けるなら△8三歩。少しひねって△8二香として▲8四桂△同香▲同飛△8三歩と先手を取るか。攻めるなら▲4七角か▲2九飛か……。

△9五銀▲8五飛△9四歩▲8二歩△同金▲8三桂△同金(第11図)

 白砂将棋が選んだのは△9五銀から飛車を攻める手。しかし、それは▲8三桂とかあるしなぁ……と思っていたらその通りに進み、そこで白砂も気づいた。第11図で▲同飛成と取れないのだ。取れば△4七角で王手龍取りである。いや驚いた。
 なり金将棋は仕方なく▲3六角と受けたが、△8四香と催促して結局以下王手龍取りが実現。そのまま危なげなく勝ち切った。

 時間制御もきちんと20秒ずつになっていて、これならもう少し一手に時間をかけてもいいかな……とかいろいろ欲も出てきたが、これで2-2の五分。この時点でもう満足だった。

■5回戦 白砂将棋 vs さわにゃんRL

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 5回戦はさわにゃんRL。開始前に挨拶にいらして、「白砂さんのHPでコンピュータ将棋に興味を持って勉強をしました」と嬉しいことを言っていただきました。そこで「よぅし、かかってきなさい」と言えない弱いプログラムしか作れなかったヘタレです。うぅ……(泣)。
 先手のさわにゃんRLが初手▲6八玉だったため、あえなく定跡ファイルはくずと化し以下は自力の駒組。その結果が第12図。

なぜ飛車まで囲う

 どうも、△6二飛のあたりで、単純に美濃囲いにするよりもこっちのほうがいいと読んでしまっているようだ。
 その後もおかしな指し手を続け、決定的になったのが第13図。角取りと迫られた白砂将棋が暴走してしまう。

△7七角成▲同桂△3七銀▲5五角△7三桂▲3七角

 角を切って△3七銀と飛車取りに打つ。まぁこれが通ればまだわからなくもない指し手だが、さわにゃんRLは当然王手銀取りの▲5五角。角銀交換のあと銀損=角損となってしまった。
 思考ログを見てみると、直前まではちゃんと読んでいる。

retval: -1600,te:44角(22) 32全(23) 36歩打  21全(32) 37歩成(36)46角(57) 73桂(81)

 まぁ成ったと金も取られる手を読んでいるというのはアレなのだが、まともな読みではある。
 しかし、直前に最善手が変化している。

bestVal: -445,te:77角成(22)77王(88) 37銀打  29飛(28) 44歩打  53桂成(45)53銀(42)

 なんで▲5五角が全然見えていないんだろうorz。
 ここを境に一気に苦しくなった。

 ところが、ここから今度はさわにゃんRLが乱れる。
 57手目▲2二銀成と入ったのが波乱の幕開けで、この手自体は悪くはないものの、△3三桂と味よく逃げる手があった。後手に他に指し手がないために白砂将棋が△3三桂を選びやすい局面だったというのもさわにゃんRLにとっては不運だったろう。で、これがなんで波乱の幕開けかというと、桂を取ってしまったことにより△4五桂の両取りが生じてしまったから。駒割りも角を1枚取り返して瞬間的に香損まで盛り返した。客観的に見れば歩切れのため小技が利かず全然勝てない将棋なのだが、作者さんとソフトの読みを確認しあったりした感じではチャンスはあると感じた。
 そして、第14図でさわにゃんRLが敗着を指す。

▲3二飛△2三銀▲4二飛成△6九桂成

 ▲3二飛が痛恨の一手。
 さすがに△6九桂成とド急所の金をボロっと取られたのは痛すぎる。持駒に金がないこともあって、先手玉はほぼ受けなしである。実戦も以下数手で即詰となった。
 思考ログを見ると、下記のように最善手が途中で△5七桂成から△5七桂不成に替わっている。
retval: -3567,te:57桂(45) 
retval: -2881,te:57桂成(45)
retval: -3725,te:57桂(45) 62角成(26)
retval: -3504,te:57桂成(45)57金(58) 
retval: -4305,te:57桂成(45)62角成(26)62金(61) 
retval: -5131,te:57桂成(45)57金(58) 39角打  62角成(26)
retval: -5123,te:57桂成(45)57金(58) 33銀(22) 62角成(26)62金(61) 
retval: -5040,te:57桂成(45)62角成(26)58圭(57) 61馬(62) 61銀(72) 58飛(28) 
retval: -4775,te:57桂(45) 62角成(26)69桂成(57)61馬(62) 61銀(72) 22全(12) 
retval: -4946,te:57桂(45) 57金(58) 64角打  38飛(28) 19角成(64)32飛成(38)63金(52)
 どうせ▲同金と取られる一手だとしても、5八の金より6九の金に当てるほうがよい、と白砂将棋がちゃんと判断したということである。とても細かい部分なのだがこの判断が結果として逆転を呼んだわけで、そういう意味では白砂将棋もなかなかやるなぁ……と、今こうして原稿を書いているときになって感慨にふけっている(笑)。
 なんにしてもこれで貴重な3勝目。全敗もあると思っていたのに、出場者数の関係で、残り2局で1勝すればほぼ二次予選進出が確定、というとんでもない状況である。

■6回戦 白砂将棋 vs 隠岐

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 6回戦は隠岐。第19回大会の時に当たって、その時は7七桂戦法からのかなり乱暴な攻めが偶然(としか書けないのが悲しい。うぅ……orz)ヒットして快勝した。
 7七桂戦法を志向したのだが、隠岐の指し手はなんと△6四歩〜△5二玉。謎の中住まいに戸惑ったか、白砂将棋は中飛車に組み、またしても「馬を作られても1歩損しても美濃囲いを作っているから先手有利」病を発病してしまった。病気というか、評価関数の値設定がおかしいだけなのだがorz
 しかし堅陣というのは頼もしいもので、第15図のように▲6四歩のクサビが入っては公平に見て白砂将棋が逆転していると思う。

 このあと▲6九飛と引いていれば有利を確保できたと思う。次は▲7五歩△同銀▲6三歩成があるので△9三馬とするしかないが、▲9五歩△同歩▲同香△9四歩▲同香△同馬と強引に馬筋を変えて▲7五歩とすればやはりと金作りが防げない。4二玉型で6三にと金ができれば少々の駒損は関係ないだろう。後手の左翼の駒が遊んでいるのも痛い。
 しかし、白砂将棋にそんな高級なことができるはずもなく、なんと▲3六歩と自ら堅陣を崩してのほほんとしている。△1三桂に▲3四歩△4四銀▲2二角なんていうチャンスボールも見逃して暢気なものである。かと思えば△6七歩に強気に銀交換に行ったり(普通に▲同銀でいいじゃないか)、飛車を見捨ててと金を作ったり、妙に強気になったりもしている。
 それでもまだ優勢だったと思う。決定的に形勢を損ねたのは第16図の局面だろう。

 ▲7一銀△9二飛▲8二金

 コンピュータお得意の「僻地の駒取り攻撃」である。
 というかさ、飛車が大事だったら△5五銀に飛車逃げてくれよ(泣)。
 終局後、隠岐の作者さんからも真っ先にそのことを指摘されました。
 第16図では俗に▲5三金△3二玉▲4三角△2二玉と追ってから▲3四歩とするくらいで勝ちだったと思う。また、飛車が欲しければまだしも▲6四角と打ってほしかった。

 ここを逃してからは勝ちは多分ない。
 白砂将棋、3-3の五分に。

■7回戦 Haskell将棋 vs 白砂将棋

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 7回戦はHaskell将棋。Haskellという言語で書かれたプログラムということらしい。
 ここのところ3年間はずっとym将棋と当たっていて、実はこの時点での順位も白砂将棋が1枚下というほぼ同位置にいたので、てっきり当たるもんだと思っていた。思っていただけで黙っていればいのに、それをym将棋の作者さんに実際に言ってしまうのが白砂のイタいところで、あとで思い返すとym将棋の作者さんはけっこう引いてた気がします。ym将棋さんのブログに、
今まで3年連続で、7回戦は「白砂将棋」と当たってきていて、今年もこの時点で星が並んでいたので、もしやと思ったんですが、今年は組み合わせが少しずれました。
 とそのことが触れられているのは、多分そのせいです。すいません。

 将棋のほうは後手番だったので3二金戦法から中住まいに。Haskell将棋の手に乗って飛車交換を果たしたところまでは白砂将棋がよかったと思う。第17図は、そこから打ち込まれた飛車を取る取らない、というか詰んでた飛車をなぜか逃がしてしまったあとの局面。Haskell将棋の狙いは当然▲8五龍だ。

△3四金▲8五龍△9三桂▲8二龍△9二飛▲同龍△同香▲9一飛

 △3四金としてわざわざ狙いの▲8五龍を指させてしまうのはまずどうかと思う。△8二香なり△7二玉▲8五龍△8三歩とでもしておけばよかっただろう。しかし、決定的に形勢を損ねたのは△9三桂で、▲8二龍ともぐりこまれてしまってはもうまずい。慌てて△9二飛と受けたが、交換して▲9一飛とされてしまっては意味がなかった。
 思考ログをみると、白砂将棋は▲8二龍と入る手が見えていない(最善手のみのログなので、読みに入っていないのか刈ったのかはわからない)。▲9四龍と駒得をする、と読んでいる。で、読んでいなかった▲8二龍を指された時点で読み抜けに気づき、もうそこでは評価値が逆転して不利になっている。これでは勝てない。
bestVal: 6215,te:34金(23) 85龍(45) 93桂(81) 94龍(85) 13角(22) 93角成(66)93香(91) 
bestVal: 4613,te:93桂(81) 94龍(85) 64香打  88角(66) 18歩打  23歩打  11角(22) 
bestVal: -200,te:92飛打  81龍(82) 52王(61) 23歩打  64香打  22歩成(23)66香(64) 
 結局、駒損を回復され、玉の安定度と自陣のスキの差でボロボロになってしまい、そのまま負かされてしまった。

■おわりに

 以上のように、白砂将棋は3勝4敗で選手権を終了した。
 負けた将棋のどれか1つを勝っていれば4-3で、二次予選進出のボーダーが3-3-1だったことを考えればおそらく初の二次予選進出だったということになる。しかし、元々はじめに書いたとおり大したことをやっていないプログラムなので、ヘンにここでいい思いをしない方がよかったと思う。それが因果応報というものだ(<違う)。
 因果応報といえば、帰るときには天気は大雨になっていて、ズブ濡れで帰ることになってしまった。うさぴょんさんやなのはさんに二次予選進出のお祝いの言葉もかけずにとっとと会場をあとにするという社交性のなさが招いたことだろう。本当に遅くなりましたが、特になのはさん、兄弟弟子として(←同じれさぴょん使い)うれしい限りです。おめでとうございました。あと10年は戦えるとのことなので、その頃にはホログラムで立体表示とかしてください(笑)。

 今後の白砂将棋についてだが、今回の敗戦はいろいろ考える契機にはなった。ツクリのどこがおかしいのかもなんとなくわかっているので、そこを直しながら、今度は1から作ってみたいと思う。
 また、今、白砂が持っている携帯(スマートフォン)が、なつかしのWindowsMobile機T-01Bなので、ひょっとすると次はこれで出場、なんてこともあるかもしれない。いや、半分は冗談なのだが、実は最近までT-01Bで動作する棋譜閲覧ソフト「KifuReader」の存在を知らなかったので、選手権が終わったら棋譜閲覧ソフトを自作する気でいたのだ。

 年齢とともに責任も増していくせいか全然仕事はラクにならず、プログラミングをする精神力もどんどんなくなっていってはいる。
 どうしたもんかなぁ……と思ってはいるのだが、しかし、好きでやっていることだからこそ、いつでもやめられるんだからという気楽さで続けていきたい。


初版公開:2011年5月10日
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