第19回世界コンピュータ将棋選手権出場記

■はじまりから直前まで プログラムの話

 昨年度はぜんぜん開発できなかった白砂だが、情けないことに今年度もなにもできなかった。
 前年の出場記にあるとおり白砂は職場異動があった。これがまた大変で、単なる異動であればよかったのだが、平成21年4月に大事業があり、その担当をやらされることになってしまったのである。おかげで3月から4月にかけてはほとんどヒマなし。4月に入ってからはバイトさんも5人雇ったりしてその面倒もみなきゃいけなかったりと本当に大変だった。

 正直なことを言うと、まともに開発に取り掛かれたのは2月に入ってからくらい、スパートがかけられたのは実に4月に入ってからだったと思う。仕事に慣れてもいない状態でこれというのはキツかった。

 結局、やったことというのは以下のような感じ。
NullMove枝刈りを実装
ざくざく刈れるということなのでやってみた。
PVSを実装
同じく刈れるということなのでやってみた。
大駒の自由度や質駒があるかなどを評価
動けるマス目の数に応じて得点を加減。また、利きに金銀があるか、底歩で止められていないかを評価。
悪形・良形のチェック
飛角を端に行く手、香を1つ上がる手などをマイナスに。
玉の囲いを認識
単純に、玉金銀の位置により加点。玉が▲2八▲8八▲3八▲7八のときに加点する。銀冠>矢倉>高美濃>美濃>片矢倉>金銀といった感じ。
定跡を先手後手で変える
細かい話だが、これで毎回コンパイルする必要がなくなった。どうせ7七桂戦法と3二金戦法しか指さないので、定跡ファイルは毎試合固定である。
序盤では相手の陣形を見ずに指す
勝手読み定跡に似ているもの。
 手を入れた中では、NullMoveとPVSが一番大きいところだと思う。
 ただ、効果のほどがどうもはっきりしない。
あり
結論:24歩(25) 時間:195.46899 leaf(末端): 4982332 node(局面): 574170
結論:24歩(25) 時間:194.09300 leaf(末端): 4982332 node(局面): 574170
結論:24歩(25) 時間:203.61000 leaf(末端): 4982332 node(局面): 574170
結論:24歩(25) 時間:225.14101 leaf(末端): 4982332 node(局面): 574170
結論:24歩(25) 時間:185.11000 leaf(末端): 4982332 node(局面): 574170

なし
結論:24歩(25) 時間:228.92200 leaf(末端): 5614027 node(局面): 650602
結論:24歩(25) 時間:220.21899 leaf(末端): 5614027 node(局面): 650602
結論:24歩(25) 時間:224.57899 leaf(末端): 5614027 node(局面): 650602
結論:24歩(25) 時間:232.09399 leaf(末端): 5614027 node(局面): 650602
結論:24歩(25) 時間:219.15601 leaf(末端): 5614027 node(局面): 650602
 というように確かに効果はないわけではないのだが、それにしてももっとざっくざく刈られてそうな気がするのだが……。

 また、くだらない間違いも犯していた。
 最初NullMoveを導入したとき、やたらと時間がかかって全然終わる気配がなかった。なんでだと思ってログを取ってみると、なんと終局近くまで読みが進んでいる。
 実は、末端判定が

  // 末端なので評価して終了
  if (depth==depthMax) {
    処理
  }

 となっていて、NullMoveでdepthMaxを2減らしてDepthを1増やして実行しているため、Depth=5 depthMax=4とかになってしまって、==ではないから末端ではないと判断されてずーっと読みを進めてしまっていたようだ。

  // 末端なので評価して終了
  if (depth>=depthMax) {
    処理
  }

 こんな風に修正したところ、ちゃんと時間内に手を返してくるようになった。

 玉の囲いについては、人間のイメージをそのまま反映した感じにしてみた。
 金銀3枚の囲いが固くて得点も高くなっている。銀冠を矢倉より上にしてるところなんかで振り飛車党の雰囲気を出してみた(笑)。
 穴熊についてはあえて外してある。ヘタに穴熊を固いとしてしまうと目指してしまいそうで怖いので入れなかった(7七桂戦法は穴熊とは合わない)。結果論として対穴熊戦がなかったため表面化しなかったのだが、やはりまずかったかもしれない。

 開発に取れた時間は少なかったが、NullMoveやPVSを入れられたことで少しは探索速度も上がったと思っていた。思っていた、のだが……。

■はじまりから直前まで プログラムの以外の話

 今年は早稲田でやるということなので、例年のような「お泊まりプラン」ではなく、朝自宅を出る「通いプラン」とした。
 電車でもよかったのだが、ひょっとしたら並列化ができちゃったりなんかしちゃったりなんかして! とか愚かな夢を直前まで抱いていたので、そうするとデスクトップは電車で運べないし……ということで昨年と同じく車で行くことにした。ただ、車を持っていないということからもわかるとおり白砂は東京の道路にはとんと疎いので、下見を兼ねて前日の接続チェックにも顔を出すことにした。

 おおざっぱなタイムスケジュールはこんな感じ。
 前日の15:30頃に家を出て、17:00からの接続チェックに顔を出して接続チェック。で、帰りにどっかで夕飯を食べて帰宅、夜はぐっすり寝る。次の日は朝7:30頃に車で出発して、9:00からの受付に間に合わせる。1次予選を戦い、そのまま車で帰宅。
 宿泊費がないので、だいぶ経済的にはラクができそうだった。

 PCは、新しく開発用に購入したHPの2230s。小さいのでいいかなーと思って、8月頃に買ったものである。並列化はできなかったのでこのノートPCでも十分だろうと判断した。CPUもT7100からT8300へとちょっとだけグレードアップしている。
 その他、LANケーブルなども用意して、準備は万端。というか、実際問題、ほとんど準備らしい準備はしなかった。やはり自宅から近いというメリットは大きいということだろう。

■選手権開始直前まで

 今年はカレンダーが非常に都合よくできていて、休暇を取る必要がなかった。5/2の土曜日に予定通り車で出発。一路早稲田大学を目指した。
 246自体はよく利用していたのでさほどの混乱もなく、渋谷駅横で多少戸惑ったくらいで、ほぼノンストップで早稲田に到着した。GW渋滞を覚悟していたのだが、そんなに車両は多くなかった。これは嬉しい誤算である。なんとなく、今年はいい感じに行けるんではないかと楽観的な雰囲気になっていた。

 コインパーキングも調べていたところにあったのでそのまま駐車し、ノートPCをリュックに入れて会場に向かった。
 18:00頃だったのだがそこそこ人が多く、というかもう皆さんテストを済ませている体で、むしろ出遅れた感すらあった。
 サーバ通信テスト、ということで、例年通りまずは自分同士の対局をやってみる。今年はちゃんとログインをしてからサーバ担当者のところへ行き、申請した。
「すいません。白砂将棋なんですけど、通信テストの対局マッチメイクをお願いします」
「ん? テスト? 山田さぁん、テストだってさー」
 声をかけたのは違う人だったらしいorz。

 自分同士の対局ではあるが、今年は定跡ファイルを先手後手で分けたため、それっぽい戦いが始まった。しかし、やたらと時間がかかる。序盤のどうでもいい7手読みをなぜか長々と読んでいる。テストなのでいいや! ということで強制終了させた。
 今年もそのまま帰ろうとしたのだが、今年もサーバ担当者さんの「他の人と対局してみたらどうですか?」という薦めもあったので、せくしいあいちゃんとテスト対局をしてもらった。

 白砂将棋の後手番で始まったのだが、定跡から外れたとたん白砂将棋の指し手がやたらと遅くなった。
 1手に数分考えることは当たり前で、せくしいあいちゃんが1秒でポンポン指しているのとは対照的である。おまけに、しばらくすると7手読みのところでピタっと止まってしまい、なんとそのまま時間切れになってしまった。
「とりあえず当たり前の指し手のときにバカみたいに考えるのをなんとかしないとダメだなこれは」
 今夜はぐっすり眠るはずだったのだが……。

 長考の理由はなんとなくわかっていて、もともとれさぴょんに入っている水平線対策である「2手延長」がなんか影響しているのだと思われた。
 今考えると、だったらそっちを修正するなりなんなりすればよかったのだが、このときは「序盤の当然のところで考えるのをなんとかしたい」とばかり考えていたので、そちらのプログラムは修正せず、新しい序盤定跡を導入することにした。
 今まで使っていた勝手読み定跡は一本道だったので、状況をif文で場合分けして、その状況に応じた指し手の中で指せるものを返す、という単純なものである。ちなみに、「状況」というのはそんな大げさなものではなく、例えば「飛車をすでに6筋に振っていたら7七桂戦法とみなして指し手を進める。振っていなければ▲7八金▲6七銀▲7七桂の形を作ってから中飛車に振る」といったような「状況」である。分岐は先手で4つ、後手で2つしかない。また、後手の指し手は3二金戦法を中心とすると分岐が多くなってしまうので、相手に関係なく組める中住まいを中心とした。中住まいは新3二金戦法でもある形なので、定跡に戻りやすいというメリットもある。

 この辺りの新しいものを入れて、K-Shogiとスパーリングで確認したりしているうち、時間は朝の4:00。
 次の日は白砂が車を運転する。事故が怖いので(もう十分まずい状況なのだが)少しでも寝ておこうと思い、ここまでで終了させて布団に入った。
 時間制御については、以前なのはさんに情報をもらっていたので、早稲田に着いてから導入しようと考えた。



 当日は6:30に起きた。
 朝食は早稲田周辺で摂るつもりだったので、7:00ちょっとすぎにはもう出発していた。
 前日までの疲れと睡眠不足のせいか、ものすごく体がだるかった。それでも、運転するということ自体が適度な緊張だったせいもあってか、ひどい睡魔に襲われることもなく早稲田に辿り着いた。道路も空いていて、到着は8:40くらいだっただろうか。
 前日に停めたパーキングよりももっと近くに別のパーキングがあることを確認していたので、そちらに車を回してみた。さすがに誰も停まっていなかったのでおいしく駐車。これでかなり荷物の運搬はラクになった。プログラムの修正も頑張ったし、道路も空いてたし駐車場も確保できたし、なかなか順調である。今日は結構行けるのではないかと、少しだけ期待していた。

 というか、正直それどころではなかった。
眠くて。

 4:00まで起きていたせいで空腹もすごく、とにかくなんか食べようということで近くのモスで朝食を済ませた。照り焼きバーガーとホットドッグを瞬殺したが、しかし、その間もずっと首が垂れたままだった。運転が終わった安心感でか、今までのツケがどっと出てきていた。
 そのあと、コンビニで飲み物やら栄養ドリンクやらをいろいろ買い込み、受付を済ませた時には半分死にかけだった。横になれれば一番よかったのだが、そうでなくてもとにかく寝たかった。

 会場に入ると、かなりたくさんの人がいた。白砂もそれに混じってリュックを下ろし、とりあえずカッコだけでも整えようとノートPCを出すだけだしておいた。もうプログラムをいじる気力なんてなかった。
「あれ、白砂さんですよねー」
 声をかけてくれたのはなのはさんである。
「おーぅ、おはよー」
「なんか窶れてますねー。別人みたいですよ」
 仕事も大変だったし、昨日も大変だったからねー。うん。すまん。寝る。



 開会式は定刻通りに始まった。なんだか1チームまだ来ていなくて、一応時間まで待とう、という配慮らしい。
「場合によっては初戦来ますよ」
 ななめ後ろに座っていたなのはさんが教えてくれた。
「ん? なにが?」
「対戦。チーム数の関係で、ここ(件のチームは白砂の隣の席の予定だった)の人達が来れば別ですけど、来ないと白砂-なのは戦です
「う゛そ゛」
「ほら、出場数。ここで折り返しですから」
 パンフレットを見せてくれた。
 本大会の1戦目は、順位1位とビリ、2位とビリ2……という具合に対戦が組まれる。出場チーム数が決まれば自動的に対戦相手がわかるのである。
 で、順位的にドンピシャだったと。
 現在来ない1チーム。これが来るか来ないかで、同門対決になるかならないかが決まる
 おいおい、開始前に大一番かよー。

 結局、彼らは来ることはなく、そのまま大会は始まった。
 初戦、同門対決確定である。上記のとおりの開発状況なので、それがうまくハマればいけるとは思っていたが、テスト対局のときのようなことになるとまずい……というのがそのときの予想だった。

 将棋連盟からは中川7段が来られていて、開会式で挨拶された。
 去年の棚瀬将棋の話を引き合いに出しながらの軽妙洒脱なスピーチだったこともあってか、今年は昨年大会のようなひどい状況にはならなかった。

たぶん、去年以上に黒くなっていた中川7段に畏怖したに違いない(ウソです)

 そんなこんなで開会式はつつがなく終了。ルール説明などがあった後、いよいよ大会が開始された。

■1回戦 白砂将棋 vs なのは

 棋譜はこちら

 なんと今年は初手からクライマックス(by電王)である。
いつかは当たると思っていたが、もう少しきちんとプログラムができたところで当たりたかった。もっとも、それはなのはさんも同じだったようで、
「今年一番頑張ったのはこれです」
 といって見せられたのがこれである。

 白砂が先手を取って試合開始。
 と、突如流れるヲタヲタしいBGM

「なのは、行きまーーーーーすっっっっ(アニメ声)」

 おいこら。

 先手だったので7七桂戦法へ。
 途中までは順調だったのだが、10手目の△6二金で定跡ファイルから離れた。
 ここで今までだったら勝手読み定跡が作動して7七桂戦法に行くのだが、昨日入れた序盤定跡の方が優先的に作動するようになっていたため、飛車を振っていない状態とみなされて中飛車に組んでしまった。
 それでもうまいことそれが作動して綺麗な美濃囲いを作ることには成功した。これなら多少不利になっても玉形でなんとかなるかもしれない。なので、29手目▲5六角と手放したときも、さほどの落胆はなかった。むしろ戦いになればなんとか……とばかり考えていた。
 しかし51手目▲7八角がまずかった。さすがにこのチャンスボールは逃すはずもなく、△8八歩▲同飛△7九角とされて不利になった。▲3四角まで必死に捌きに出る白砂将棋だが、駒損は痛い。
 ところが今度はなのはが誤る。62手目△8七金がどうだったか。
 この局面、白砂将棋に▲7二銀△8二飛▲5二角成△同玉▲8三金の勝負手が生じている。ド駒損の攻めなのだが、玉形が違いすぎるので十分に成立していたと思う。そして、白砂の読み筋の通りに白砂将棋は▲7二銀。なのはは△8二飛。胸が高鳴った。逆転か。
▲7一銀不成
 終わった……。
 以下、駒損の無理攻めを重ねてそのまま敗勢へ。

 しかしまだまだドラマはあった。
 125手目。▲7一角の思い出王手になのははなぜか△9二玉。73玉ならそのまま終わっていたと思う。もちろん△9二玉とされても手駒がないためどうしようもないのだが、「駒が入れば逆転」という可能性を残したことが大きい。
 そして133手目。△7八飛の王手に、▲9三歩△同桂▲4九銀と駒を使わずに受ける。ヘタな攻め方で駒が入れば……。

 と、またも突如流れるヲタヲタしいBGM
「あ、詰みましたね」
「ぇ?」
「df-pnで1000手くらいの詰みなら読みます
 1000手て……。
 そ、それにしてもこのBGMとアニメ声は……。
 白砂将棋、1局に何回も負けた気分(爆)

■2回戦 WILDCAT vs 白砂将棋


 棋譜はこちら

 2回戦はWILDCAT。まぁ冷静に考えて勝てるはずはない。
 しかし、この将棋はひどすぎた。飛車の働きをせばめ、歩越し飛車を志向している。プログラムしていた悪形チェックがまったく働いていない。どころか、むしろ逆効果になっている。
 対局中に気づいたのだが、後手の場合の悪形チェックの加減点の符号を逆にしていた。この悪形チェックはギリギリになって入れたものだったせいもあってチェックがおろそかになっていたようだ。結局、端から無理攻めをする形となり、そこで渡した桂で飛車を攻められてしまった。
 そしてここから、白砂将棋の長考病が発症する。
62 同 金(72) ( 2:07/00:02:48)
64 6一飛打 ( 3:08/00:05:56)
66 9八歩打 ( 8:30/00:14:26)
68 7五歩(74) ( 9:38/00:24:04)
 たった4手分でほぼ時間を使い果たしてしまった。これでは勝てるものも勝てるわけがない。
 辛い2連敗となった。

 昼食は近くの蕎麦屋で済ませたのだが、食欲は全くなく、半分寝ながら食べていた。
 体調は最悪、将棋は2連敗と、ひどい状態である。

■3回戦 GA将!!! vs 白砂将棋


 棋譜はこちら

 3回戦はGA将!!!。対局前に挨拶にいらした。ブログを見てもいろいろやられているようで、白砂将棋とはそもそもの実力が違う感じだ。
 後手番なので3三角戦法に誘導し、その流れで7七桂戦法と同じ形になった。
 しかし、▲9五歩に取らないというのは痛かった。これは実は序盤定跡がジャマをした形で、少しの損だったら形を優先するというプログラムが効いてしまっている。
 そして26手目。歩交換をしてきた先手GA将!!!。ただ△2三歩と受ければいいだけなのだが、なぜか白砂将棋はこんこんと読み耽ってしまう。9筋がいつでも精算可能な形になっていて、それが水平線対策の2手延長とからんだりしてややこしいことになっているのだと思う(ホントのところは詳細ログを出していないのでなんとも言えない)。
 時間については初期局面でしか見ていないので、1手指し終わるまでは持ち時間のことは一切考えない。逆に言うと、ここで手を指してさえくれれば次の手は持ち時間に応じた指し方ができる。

 しかし。
 白砂将棋はそのまま長考を続け、そのまま時間切れ負けとなった。
 痛すぎる3連敗である。

 単なる長考であればまだいいが、時間切れは相手にも失礼だ。事ここに至って白砂は決心した。

 通常7手読みで固定していたものを、5手読みに変更した。
 ついでに、挙動の怪しげなNullMoveとPVSも取っ払った

 明らかに弱くなるが、失礼な対局を続けるよりは弱い指し手を続けた方がまだよいという判断である。なんだかんだ長いことかけて作ったNullMoveとPVSを外してしまうということは「今年の積み上げ分はほぼムダになった」ことも意味するが、これもまた、失礼に当たるよりはよかろう、自分が泣けばよいという判断で行った。
 正直、全敗を覚悟した瞬間でもあった。

■4回戦 白砂将棋 vs HIT将棋


 棋譜はこちら

 4回戦はHIT将棋。全敗対決である。
 昔、一番はじめのコンピュータ将棋オープン戦のとき、人間の白砂が指した記憶があった。失礼ながらそのときは圧勝だったので(確か3分くらいでばばばばばーっと指して終わった気がする)、現在の白砂将棋でもなんとかなるかもしれないという思いはあった。

 先手は取って7七桂戦法には進んだのだが、さすがに▲7六歩△3四歩▲2二角成△同銀▲7七桂△9五角という手は定跡に入れていない。飛車を振っていないので7七桂戦法にはできず、中飛車となった。
 組みあがってさて……というところでHIT将棋の陣形にスキができ、そのスキを衝いているうちに将棋は終わってしまった。
 消費時間は白砂将棋は2分、HIT将棋は3分。なんだかあっけない勝ち方である。
 なんにしても、貴重な、本当に貴重な1勝を挙げることができた。

■5回戦 デーモン将棋 vs 白砂将棋


 棋譜はこちら

 5回戦はデーモン将棋。思えば、白砂がコンピュータ将棋選手権に出場したはじめての相手がこのデーモン将棋さんだった。そしてまた、初勝利を挙げたのもこのデーモン将棋。いわゆる「縁起のいい相手」である。中の人と軽く挨拶をして将棋は始まった。
 後手だったので3二金戦法崩れの中住まい。相手を見ないで囲って、さてと相手を見たら14手目でこれである。なんだか縁台将棋を見ているようだ。

 将棋自体は、デーモン将棋が▲8六歩という無理な手を指したため白砂将棋が有利になった。また、▲6六角△7八とに▲8四角としなかったのも痛く、△8九飛成とできて完全に優勢となった。
 ここから華麗に決められればカッコいいのだが、白砂将棋にそれはムリ。しかし、こんなバカみたいにと金を量産しに行くとは思わなかった。例の終盤度の問題があるためだろう(敵陣に駒があると相手の終盤度が上がり、終盤度の差が開くと形勢がよいと判断する。そのため、終盤度の差を広げるためムダな成駒を量産してしまう)。
 いったいいつになったら攻めに行くんだ、と思っていたら、もう成駒を作る場所がありませーん、という段になるまでなにもしなかった
 この将棋、デーモン将棋の中の人と観戦していたのだが、向かいの席に座っていたWILDCATさんが非常に気を使っていただいて、何くれとなく話しかけてくださったのが印象深い。

 友達をなくす指し方をしながらも白砂将棋は2勝目。望外の成果である。

 対局後、妻とコンビニへ行った。
 2連勝で心理的に気が楽になったため外へ出る余裕が出たのだろう。
「10秒チャージ」で体力を蓄え、とはいっても眠気は相変わらずで、プログラムをいじる余裕はなかった。

■6回戦 白砂将棋 vs 隠岐


 棋譜はこちら

 6回戦は隠岐。クライアントのCSA将棋の生みの親でもある。
 先手なので7七桂戦法に。△5四角を打ってくれる定跡に飛び込んでくれたので、手なりで美濃囲いを作ることができた。自然な仕掛けで有利をつかみ、ちょっと(かなり)乱暴だが▲4四飛△同歩▲6三歩成とと金を作ったところでは、玉形の差を考えると先手が有利だと思う。
 そのあと、△6六桂に▲6八金としなかったりと乱暴な指し手は続くのだが、逆に△4九飛成、△1七金など不可解な隠岐の指し手が連発したため、白砂将棋が優勢となった。
 優勢になってからは相変わらずそっぽの香を取りに行ったりしているが、玉の囲いを高得点にしているため、受けだけはしっかりしている。83手目と91手目の金打ちは、ともに「囲いが完成しているから良し」という手だ。
 このあとも友達をなくす勢いでポイントを重ね、そのまま勝ち切った。

 終わってみればなんと3-3である。場合によっては2次予選進出なんてことになっちゃったりして、というくらいとんでもない躍進だ。
 逆に言うとつまらないプログラムミスが悔やまれるが、それは日々の問題が結果として出ただけで悔やんでも仕方がない。というか序盤に勝っていたら「裏街道」には来られないわけで、もしそうなっていたらここまでの勝星はなかったと思う。

■7回戦 白砂将棋 vs ym将棋


 棋譜はこちら

 7回戦はym将棋。前回も最終戦で当たった相手である。中の人と雑談をしながら開始を待った。
 先手を取ったので7七桂戦法にしたが、崩れて中飛車へ。
 うまく組んでくれるのは非常に嬉しいのだが、そこから先の攻め筋を知らないためムダに歩損をしてしまう。組んだ後の攻めと損をしない堅実さ。この辺が次回の課題となりそうだ。
 また、どうも読みの手順が過激に過ぎる。例えば手目。▲8九金打に△同龍や△8八龍と精算する手を本線に読んでいる。5手読みのためなのか評価関数の問題かはわからないが、というか両方のような気がするがorz、この辺りの読みの精度がそのまま勝敗を分けた。

 勝ったym将棋はなんと二次予選に進出。白砂も一応ソルコフとSBでは3つ分の貢献をしたわけで、そういう意味ではym将棋の血肉にはなったことになるのだろうか(笑)。

■おわりに


 以上のように、白砂将棋は3勝4敗で選手権を終了した。
 ヘボいプログラムのせいで下手な将棋を指してしまい、大変申し訳なく思っている。時間切れ負けは論外だし、勝った将棋もひどいものだった。デーモン将棋の中の人にはその場で首を絞められても文句は言えなかったと思う(いやホントに)。

 もう次回の話をするというのもアレなのだが、3つ勝ってモチベーションが多少なりとも上がっているうちに書いておく。
 まずはバグのない普通のプログラムを……orz。
 NullMoveやPVSもちゃんとしたいし、東大将棋やTACOSで行っている「指し手の逐次生成」も行ってみたい(実はやったのだがうまくいかずに諦めた)。
 次に、やや穏やかな評価関数を。どうも白砂将棋は大駒を大事にしない傾向にある。単純に駒のポイントを上げれば済む話なのか、もっと内部的なものなのかはわからないが、結構根本的な話のような気もするのでじっくりやっていきたい。
 最後にponder(相手の手番で考える)と並列化の実装。将棋所を使えばある程度は簡単に実装できるのだろうが、CSA式に慣れてしまっているのでそこから変更するのがまず大変そうだ。ただ、将棋所は連続対戦もできるみたいだから、使ってみるのはいいはずなんだよね。
 気の早い話ではあるが、日々の生活改善も含めて、来年に照準を合わせてじっくりとやっていきたい。

 ちなみに、ヘロヘロになった白砂だが、なんとか車を運転しきって家まで辿り着いた。カーナビの言うことを素直に聞いて帰ればラクだよねと思ったのが悪手で、新宿のド真ん中を突っ切ることになってしまいえらい目に遭った。車で早稲田に行くなんてこともうないと思うが、あったとしても二度とカーナビは信用しない。
 それから、そんな感じでヘロヘロだったもので、会場のド真ん中の席にいたにもかかわらず机に突っ伏してグースカ寝てしまっていました。せっかくの大会なのになんて奴だと不快に感じた方もいらしたと思います。来年はしっかり体調を整え、前日乗りする予定なのでもうこんな失態はしないと思います。すいませんでした。
 それからそれから、そんなヘロヘロの白砂に気軽に話しかけて下さったみなさん。ノリが悪く無愛想な奴と思われたかもしれません。こんな状況でしたので、申し訳ありませんでした。ご理解いただければと思います。
 それからそれからそれから、そんな状況でしたので、可愛らしい女の方が(おそらくブログ用だと思うのだが)「写真をお願いします」と話しかけてきた際に「……パスで」とものすごいそっけなく断ってしまいました。まぁ写真はもともと好きではないので元気であってもきっとお断りしたとは思うんですが、ひどい奴だと憤慨したかもしれません。申し訳ありませんでした。
 それからそれからそれからそれから、そんな白砂にお世辞のひとつも言おうと思ったんでしょうか、どなたかがトイレで白砂に話しかけてきました。
「娘さんとご一緒なんですね」
 お世辞だとは思います。思うんですが、念のため訂正しておきます。
あれは妻です。
 最後に、今年は豚インフルエンザだなんだと大変な騒ぎでした。こんな中、しっかりと大会を運営してくださった事務局のみなさんに感謝します。ありがとうございました。


初版公開:2009年5月7日
copyright © S.Hakusa