第17回世界コンピュータ将棋選手権出場記

■1回戦 デーモン将棋vsかめぴょん

 棋譜はこちら

 1回戦はついさっきネットワークのことでお世話になったデーモン将棋。第12回から参加されているソフトである。
 白砂にとってはこれが正真正銘のデビュー戦。さすがに緊張した。

 将棋は▲7八金!△8四歩▲7六歩△3二金▲4八玉△8五歩▲7七桂!△8六歩▲同歩△同飛▲6五桂!△5二金右▲7五歩△6四歩と、いきなりの乱戦模様となった。早くから定跡から外れているものの、かめぴょんはきちんと飛車先を交換し、さらには△6四歩と桂を殺している。自分が対局していてもこう指すだろうという指し回しで、これは観戦していて感動した。苦労して作ったプログラムが意図したとおりに動くというのはやはりいいものだ(ほとんどれさぴょんだろというツッコミはなしの方向で(笑))
 このあともかめぴょんは快調で、第1図から△7三龍▲9一桂成△8二龍▲8一成桂△同龍(第2図)と先手の攻めを丹念に受ける。駒割りは角香交換、互いの飛車の働きの差を考えると、かめぴょんがハッキリよくなった。

zu zu

 ところが、第2図から▲6四桂△6二金▲7六香△8二銀▲7三歩△7八歩成▲7二歩成△6八と▲8一と△7九と▲8二と(第3図)と進むとすでにかめぴょんが勝てない形になっている。
zu
 △7八歩成では△7三同銀▲同香成△同金と清算しておけばなんでもなかった。しかしこれはまだいい。決定的な悪手は▲7二歩成に対する△6八とである。ここは△9二龍と龍を逃げておけばまだ有利だった。以下▲6二と△同玉▲7二香成は△6三玉で逃げられる。この展開は先手の駒が足りない。

 第3図は、▲8一飛△6一金打▲7二とという、駒得しながら玉に寄っていくコンピュータにとって実に判りやすそうな(笑)手がある。これはかめぴょんの負けだ。
実際、△5五角(ここで△4二玉とか△3四歩とかできるプログラムではない)▲8一飛△6一金打と進み、負けを覚悟した。
zu  しかし、デーモン将棋の指し手は▲5二銀。
 続けて、△4二玉▲6一銀成(第4図)

 死線を乗り越えた瞬間である。
 ▲5二銀では当然▲7二とだったろうし、▲6一銀成でも▲6一龍があった。△同金は▲4一金の一手詰みなのでこの龍は取れない。以下△3四歩▲6二龍の展開はかめぴょんが勝てないだろう。

 しかし、第4図ならチャンスはある。

 おそらく逆転可能な唯一の指し手。隣のデーモン将棋の中の人と観戦しながら(今考えるとフレンドリーにすぎたかもしれません(笑)。ホント申し訳ない)、こう指してくれればまだなんとかなるだけどね……などと軽く言いつつ、しかし心の中では祈るような気持ちだった。時間が本当に長く感じた。
 手元の棋譜では41秒となっている。41秒の長考の末、かめぴょんは次の一手を指した。

zu
 △3四歩(第5図)

「やった!!」
 おそらくこれが唯一の逆転の可能性だと思う。というか、ここで逃げ道を開けておかないと簡単につかまってしまう。△6四角▲6二成銀△3四歩と手順前後する手も利くが、とにかく△3四歩という手が急所である。
 もちろん、これでもまだ圧倒的に不利ではある。しかし、これで流れは変わると思った。さっきまでのような、駒得しながらじょじょに玉を追い詰めて……という形にはならないからだ。

 案の定、とあえて言わせていただこう、流れは変わって泥仕合となった。決め手はあるのだが、どういうわけか初手から1秒指しを続けているデーモン将棋には発見できないまま局面は進む。
 そうして迎えたのが第6図。

zu
 かめぴょんは、というかれさぴょんには「終盤度」という概念が導入されていて、その数値で序中終盤を判断している。その計り方は自陣の金銀と敵陣の成駒の数、といった感じのかなりおおざっぱなもので、しかも自身の終盤度が相手よりも低いとこちらが有利、といった簡単な計算法を用いている。
 そのため、敵陣に成駒をいっぱい作る→相手の終盤度が上がる→こっちが有利でウマー、という思考に陥り、第6図のようにムダな成駒を量産してしまうのだ。「玉から遠いところの成駒は終盤度の判定には無関係」とかしておけば若干違ったのだろうが、それを導入するヒマがなかった。

 また、ここではすでにこちらの残り時間が4分を切っており、かめぴょんは切れ負け回避のために3手読みモードに入っていた。そのため、第6図から△5八成桂▲同金△同と、と、と金を残して桂を捨てるという不可解な手順を選んでしまった。

 思考ログを調べてみたところ、△5八との場合は▲3八金と逃げる手が最善、と考えたようだ。で、その場合は△4八とと取り返して銀とと金の交換となる(静止探索を導入しているため、△4八とに対して1200点のと金を取る、という手は○手読みという手数の中に勘定せず読める)。しかし△5八成桂と入った場合には、後手の成桂+先手に持駒の桂が入るということで▲同金と取る手が先手側の最善手になる。その辺りの計算が微妙に関係して、「△5八とだと取ってくれないから得点は高くならないが、△5八成桂だと取ってくれるから△5八成桂のほうが有利」と判断したらしい。

zu
 なんか釈然としないが(笑)、桂を渡してしまってはピンチである。相変わらず1秒指しのデーモン将棋だか、このチャンスボールは逃さなかった。

 △5八と▲3一金△同角▲5八金△同成桂▲2五桂△2二玉(第7図)

 第6図では△3三玉が妙に捕まえづらい形で、桂がなければ攻めるのは難しい、ところがよりによってその桂を渡してしまったものだから、▲2五桂△2二玉と下段に落とされてしまった。これはさすがに痛すぎる。第7図は明快に先手勝ちの図だ。

 ところが。
 デーモン将棋の指し手は▲4三成銀。

 純粋に将棋の話だけをすると、おそらくここからデーモン将棋に勝ちはない。

 ここでは▲4一銀と引っ掛けて勝ちだった。ひょっとすると▲4四金△同歩▲4三銀くらいでもいいかもしれない。とにかく3二の金に働きかければよかったはずだ。▲2五桂と先着しているためにかめぴょんから△3八金と攻めても▲1七玉でまず詰まない(△2五桂と打てないから。ものすごいたくさん駒があれば△2六銀▲同玉(▲同歩は△2七金〜△3五桂)△3五銀▲1七玉△2六銀打以下詰むかもしれない)。これが大きい。

 本譜の▲4三成銀は、△同金と取ってなんでもない。以下、かなりもたついたものの、入玉の展開となり、中盤に作っていたムダなと金が役に立って(笑)かめぴょんの勝ちとなった。

zu
 第8図が投了図。デーモン将棋の▲2六歩に詰みを読み切って(これ以前にも詰みはあるのだが、かめぴょんは7手詰みまでしか読めないのでそれは見えない)ノータイムになった瞬間は、大げさではなく一生忘れることはないだろう。

 総思考時間23分39秒。時間による思考ルーチンの制御もしっかり利いて、最後は即詰み。将棋を指したぁ!! という感じのしっかりした将棋だった。
 初出場ではじめての1勝。この1勝は本当に大きかった。今、これを書いていても当時の興奮は蘇ってくる。



■2回戦 かめぴょんvsTSP

 棋譜はこちら

 興奮冷めやらぬままの2回戦。相手は同じく初出場のTSPである。
 先手だったので、躊躇なく7七桂戦法へ。▲7六歩△3四歩▲2二角成。相手にしてみれば早々に定跡から外れ、こちらは何千手という定跡を持っているという実に嫌らしい(笑)戦法である。

 ところが。
 いつまでたってもTSPから手が返ってこない。
 きっかり1分後、△2二同飛という手が返ってきた。
 これは▲6五角で▲4三角成と▲8三角成が防げずに先手有利となる。実際、定跡通りノータイムで▲6五角と打ち、これは2連勝確定かと白砂はほくほくしていた(笑)。
 しかし不可思議なのはTSPの指し手で、どういうわけか長考が目立つ。向こうにしてみれば定跡から外れた展開でしかも不利だから考え込むのもわかるのだが、それにしても不思議である。この調子ではあっという間に持ち時間が切迫してしまう。
 他人事ながらそんな心配をしていると、それが顔に出たのだろうか、前の席に座っているTSPの中の人たちが話し掛けてくれた。
「なんかおかしいっす」
「はい?」
「時間制御がうまく動かないみたいで、必ず1分間考えちゃいます」
 ええっ!?
 詳しく話を聞いてみると、こういうことらしい。

 TSPは時間と手数による思考制限を行っている。制限時間は1分間、制限手数深さは7手(だったと思う)。なので、1分間過ぎたら思考を中断して指すし、7手先まですべて読んだら1分たっていなくても手を指す。
 しかし、どういうバグかはわからないが、7手先まですべて読んでも手を返してこずに、止まったまま律儀に1分まで待って手数を返してきてしまう……というのである。
「それじゃ持ち時間がなくなりそうになっても早く指さないってことですか」
「はい。持ち時間は25分だから、25手こっちが指したら持ち時間なくなりますorz」
 ということは、50手までに詰まなければこちらが時間切れ勝ちということか。

 もう、将棋を見る空気ではなくなっていた。
 50手まで「もてば」、自動的にこちらが勝ちになるのだ。すでに馬ができ、逆に相手は陣形もまともに組めないというこの状況では、いくらかめぴょんとはいえ負けるとはとうてい思えない。
 すごいぢゃん2連勝ぢゃ〜ん(嬉)

 TSPの中の人たちもこの将棋がどうこうという雰囲気ではなくなっていて、次以降にどうするかという話し合いをしていた。ここでバグをつぶせるかどうかというのはギャンブルだから、ヘタにソースはいじらない方がいい。それよりは、1分間という制限時間だけをいじって、とりあえず時間切れ負けを避ければ将棋にはなるんじゃないか……。
 30秒にするか15秒にするか、いっそのこと10秒くらいで行くか。
zu
 そういった話を尻目に、しかし、白砂は白砂で焦っていた。
 第9図を見てほしい。

 先手のかめぴょんが、地味におかしい手を指している。
 ▲1八香と▲5八金左である。
 明らかに陣形にスキを作っている。しかも、そのスキマに角を打たれたら駒当たりになるという手ばかりだ。

 そう。前日さんざん悩んでいた角打ちルーチンがおかしいようなのだ。

 プラスとマイナスをなにか勘違いしているのか、どこかおかしい。白砂はBCCDevを立ち上げてソースを読んだ。
 どうもよくわからない。
 そのとき

………………!!!

 突然、対局中のかめぴょんの動きが止まった

 立ち上げていたBCCDevは普通に動く。接続用のK-Shogiもきちんと持ち時間を計測している。しかし、デバッグ画面として出していたDOS窓のログがピクリとも動いていない。かめぴょんだけ止まってしまったらしい。
「……こっちも止まりましたぁ……orz!」
 突然の言葉にTSPさんも驚いたと思う。自分たちのソフトがバグっているときに、相手のソフトがバグったと言ってきたのだから(笑)。
 現状をよく見てみると、K-ShogiはTSPの指し手を受け取り、かめぴょんの指し手を待っている状態である。とすると、かめぴょんがその指し手を受け取っていないということか。ちょうど受け取りのタイミングでウィンドウをいじったかなにかして優先順位が変わるとかどうたらで受け取りに失敗したということかもしれない。状況を調査できないのでもちろん妄想話ではあるのだが。
 なんということか。確実に勝てると思っていた将棋が、一転してこちらが時間切れ負けのピンチである。

 対局が進まないのを不思議がってか、運営委員が見にきた。半ばヤケッパチで事情を説明し、とりあえずいろいろいじってみますから、25分間置いといて、時間が切れたらそこで負けということにしてくださいとお願いした。バグっているのであればとっとと負け申請をしたほうが運営上もスピーディーなのだろうが、そのときはそこまで考える余裕はなかった。いろいろいじってみるとはいっても、現在動作しているプログラムを止めた瞬間に回線切れの反則負けである。なにをどうしようもない。
 こちらの心情を斟酌してくれたのかどっちでもいいよそんなのと思ったのか(笑)、わかりましたそれじゃあと言ってその人は帰っていった。
 しばらくはどうしていいかわからず、ボーっとしていた。これは明らかに白砂自身の不注意である。かめぴょんは悪くない(笑)。対局中はきちんと対局に専念させないとダメだということだ。
 気を取り直して例のバグ探しをしようと思ったのだが、そんなことができる精神状態ではなかった。
 未練がましくかめぴょんの画面を出し、K-Shogiのプロパティを見たりDOS窓をクリックしたりしてみる。もちろんそんなことで動くはずもない。
 せっかく2連勝だと思ったのになぁ……。やっぱ、そういう棚ボタを喜ぶような下衆な精神じゃいかんということだな。そんなことも本気で考えていた。いや、ホントにショックだったのよ。
 そんなことを考えながら、マウスをいじくり回して、いろんなところをクリックしたり右クリックしたりしてみる。

あ……動いた!!!

 叫んじゃったかもしれない(笑)。よく覚えてない。
 かめぴょんのログが勢いよく表示されだしたのだ。
 わかってみればなんでもないことだが、DOS窓はクリックすると一時停止し、右クリックすると再始動するらしい。そんなこと知らねえって……。

 かめぴょん13分38秒の長考の正体はこれだった。

 この将棋の見所? はここまで。
 あとは粛々と指し手が進行し、52手目、TSPは時間切れ負けとなった。
 かなり後味がよくないものの、とにかくこれで2連勝。信じられない立ち上がりである。
 昼飯は妻がコンビニで買ってきたオニギリだったが(この施設の中の店はとにかく高いので、こういうことをしていた)、とてもうまかった。



■3回戦 かめぴょんvsみさき

 棋譜はこちら

 3回戦はみさき。前回大会から参加されているソフトである。前回は最下位だったようだが、今回はここまで1-1。しかも、結果を先に言っちゃうとみさきは2次予選に進出し総合順位23位。こりゃ強いわ。

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 先手番だったので、躊躇なく7七桂戦法へ。14手目の△3二金で定跡からは外れたが、勝手読み定跡が作動して駒組みは問題なく進んだ。
 将棋が動いたのは20手目。みさきが△4五角(第10図)と打ってきた。

 この4五角戦法は白砂も難物に感じている戦法で、7七桂戦法は7八の金が実は要駒なので、これがなくなると先手陣は極端に薄くなる。通常の7七桂戦法のように「ガチガチに囲って大捌きで先手必勝」みたいにはならないのだ。とてもかめぴょんに指しこなせるとは思えない。  案の定、第10図から▲3八玉△7八角成▲同銀△8八金(第11図)に▲2八玉としてしまい、△7八金とタダで銀を取られてしまった。

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 白砂ならここは▲6九角といったん耐えて、▲2八玉▲3八銀まで囲ってから捌いて勝負、といきたい。
 図太く指すなら▲6七銀という手もあるかもしれない。△8七金なら▲6四歩△同歩▲同飛と捌いた手が6一の金取りになり、それを受けると▲8三歩(△同飛は▲6五角の両取り)がある。
 △8七金で先に△5二銀などと受ける手には▲7四歩とちょっかいを出していく。取れば▲4六角があるから取りにくいし、△8三飛とか△7二金には▲7六飛と形よく指せる。

 ではなぜかめぴょんが▲2八玉と指したかというと、これが実は勝手読み定跡の手なのだ。
 角と金銀の2枚替えをさほど損と感じなかったらしい。持駒はややポイントを高くしているので、角は1920点、金銀は2250点。この程度の損害なら定跡通り指しちゃえ、となってしまった。

 ここから先はもうボロボロ。△7八金は7七の桂取りにもなっていてちゃんと働いている。一方、こちらの持ち角は打つ場所がない。
 そのままあっという間に寄せられてしまった。
 みさきは5分ほどしか考えていない。完敗である。

 この対局の前後、綾香の中の人があいさつにいらした。綾香は同じれさぴょんライブラリを使用しているプログラムである。プログラミングの話をしてみると、やっぱり開発過程もなんとなく似ているようだった。
 ただ、かめぴょんが思考を手数深さ打ち切りとしているのに対し、綾香は思考時間で切っているらしい。その方がやっぱり自然な形ではあるよなぁ……。いや、そうしようと思ったんだけどやり方が判んなくてね……と正直に言うと、
「いや、僕もわかんなかったんでうさぴょんの育ての親さんに聞きました。ソースつきで教えてくれたんで……」
 くそぅ俺も訊いときゃよかった……orz。



■4回戦 遠見vsかめぴょん

 棋譜はこちら

 4回戦は遠見。3回戦のみさきが「ここまで1-1」と書いたが、その1敗は遠見に負けたものである。しかも3回戦ではあの棚瀬将棋をあわやというところまで追い詰めたソフト。これはもう勝てるはずがない。

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 こちらが後手なので、定跡としてはおとなしく進む。
 ▲7六歩△3四歩▲2六歩△5四歩▲2五歩。ゴキゲン中飛車の立ち上がりだ。
 そしてかめぴょん、△9二香(第12図)。
しまった、忘れてた。

 3回戦ののち、そのまま後手番コンパイルをして始めてしまった。かめぴょんは定跡ファイル名をソースにそのまま書いておくというれさぴょんそのままの原始的な方式なので、対戦が決まったときにファイル名だけ書き換えてそのままコンパイルしてしまったのだ。そりゃ同じ病気が出るに決まってんじゃねーかよ……orz。
 しかも、ネタバレになるが、次の5回戦でもそのままの状態で戦っている。いっそのことこのルーチンを素直に外せばいいのに、どういうわけかそのまま戦わせているのである。

 このときの心理状態というか頭の中がいまだに理解できない。というか、その日の夜にホテルの部屋で呑んだくれながら(<お前は次の日にギネスを浴びるほど呑むんじゃないのか)後悔してたことは覚えているので、やっぱりなんか変だったんだろう。オリジナルの部分(その程度でかよ、というツッコミはナシの方向でひとつ)のソースを捨てるのは忍びなかったんだろうか。

zu
 それでも、力強く金を前線に繰り出し、第13図の局面ではまだ「不利」ていどの形勢だったと思う。

 ここからかめぴょんはなにを血迷ったのか△2四歩

 当然のように▲2四同歩△同銀▲2三歩となり、銀損と飛車先突破が確定。そのまま寄せられた。

 ログを見ると、かめぴょんは▲2三歩までの手順をキッチリ読んでいた。
 ただ、終盤度が低くまだ序盤ということで、読みの深さを4手にしていた。そのため△2四歩▲同歩△同銀▲2三歩までで読みをストップ。そしてその局面を飛銀両取りではなくタダの銀取りと判断して(というか駒の当たりをそんなに厳密に考慮していなかった)、たいしたマイナスではない考えていたようだ。
 これはもうこういうプログラムを組んでしまったこちらの責任である。かめぴょんは悪くない(笑)。

 なんにしても、これで2勝2敗。序盤のリードは吹っ飛んでしまった。
 しかもまずいことに(<まずいんかい)、綾香が星を伸ばし同じ2-2に。

 なにがまずいって、スイス式なので、星が近いと同門対決がある

 要するに純粋にプログラミングの腕が問われるわけである。そうなれば恥をかくのは目に見えている(爆)。  綾香の中の人と楽しく談笑しながら、実は白砂は恐怖に怯えていた(笑)。

 4回戦の途中、奈良将棋の中の人があいさつにいらした。「かめぴょん2連勝だよって言ったら喜んでましたよ」。うさぴょんの育ての親さんに連絡をしていただいたらしい。うーん、今はもう2-2なんだけどね……orz



■5回戦 かめぴょんvs神乎棋技

 棋譜はこちら

 5回戦は神乎棋技。みさき同様前回から参加されているソフトで、今大会では、オープン戦でK-Shogiをボコボコにしたあのあやまり将棋を倒している。強いソフトだ。
 しかし、それ以上に言いたいことがある。

なんて読むの……?

 恥ずかしくて最後まで聞けませんでしたorz。

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 先手になったので7七桂戦法を志向したのだが、唯一7七桂戦法にならない▲7六歩△8四歩▲7八金△8五歩の手順になり、通常の将棋へ。しかも、▲7七角に機敏に△8四飛と浮かれ、7六の歩を狙われた。実を言うと、この手順は白砂の実戦でも経験したことがない初手順。人間の感覚ではこういう手はあまりいい手ではないので指されない。もし実戦で指されたら、▲6六歩と穏やかに指すか▲6六角△7四飛▲7七金と激しく指すかするのだろうか。▲2六歩からの居飛車はなんか選択したくない。

 そして恒例となった▲3八銀▲1八香の角打ちコンボ。もう……orz。

 それでも、なんとなく玉を囲いそうな感じの第14図。▲6六歩と角筋を止めたのだが、ここから神乎棋技の攻撃が始まる。

zu
 △6五歩▲同歩△8六歩▲7五歩△同飛▲6四歩△8七歩成▲同銀△6七歩▲5九角△8八歩(第15図)

 金銀の逆形に注目して△8八歩が狙いである。
 △6五歩の突き捨てから一貫した指し手で、これはまともに指したとしてもかめぴょんの勝てる相手ではないな。

zu
 第15図からは▲6三歩成の首をさし出し、△8九歩成▲7六銀△7七角成▲同角△7六飛▲7八玉△7五桂(第16図)と進んだ。

 △7五桂で先手玉は必死、後手には王手すらかけられない状況(笑)で、後手の勝ちは確定的。

 ここでかめぴょんは詰みを読み切り、自信を持って▲7九金と指した。
……ってをい! なんだその金は!!

 実は、綾香の中の人かられさぴょんのバグについて話を聞いていた。詰みハッシュには手番が入っていないので、詰みの「局面」を認識すると手番を考慮せずにその手を指そうとするのでバグるというのだ。2回戦SPEARvs綾香もこのバグによる反則負けらしい。おそらくこの局面もまさにそれだろう。
 まぁ、綾香と違い、こちらはどっちにしても負けだったというのが救いではあるが(<救いにならねって……orz)。

 これで2勝3敗。2次予選進出の目はほぼ絶望的である。



■6回戦 かめぴょんvsなり金将棋

 棋譜はこちら

 6回戦はなり金将棋。第11回から参加されているソフトだ。どれくらいの古さかというと、うさぴょんと同期である。今大会では123局と連続で千日手引き分けという椿事を引き起こし話題になった。

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 先手番なので7七桂戦法へ。なり金将棋もTSPと同じく、▲2二角成に△同飛を選択してきた。▲6五角という手はソフトには読めないのだろうか?

 有利になったと思ったのだが、▲4八銀でそれはフッ飛んだ。△3三角(第17図)が機敏で、なんと9九の香取りが受からない。

 ログを見ると、△3三角という手が枝刈りで落ちている。理由はザッと見た限りでは判らない。根が深いのか、単純なバグなのか……。とにかく、これで駒損が確定し馬を作っているメリットもなくなった。

 実はこのとき、すでに白砂は盤側にはいなかった。対局が始まったのを確認してから、ネットを見に行っていたのだ。なり金将棋の千日手の謎を知りたくて(笑)。
 棋譜を見た限りでは、狙ったわけではなくそうなってしまった感じだった。さては強いソフト相手に千日手で0.5勝を稼ぎに行く作戦かと思ったのだが(笑)、違ったようだ。

 で、戻ってきたときの局面が第18図

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かめぴょんの王様はどこ!?

 もうなにがなにやら(笑)。本気で玉を探してしまった。
 詳しくは全体棋譜を見てほしいが、要するになり金将棋の攻めそこないである。ちょっとだけポジティブなことを言えば、かめぴょんの「終盤度を上げるための成駒作成攻撃」が効を奏したとも考えられる。▲8四歩から▲8三歩成のと金作りは、結果論だが値千金だった。

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 第18図で▲8七銀とガッチリ打つなど「どうしたんだかめぴょん!?」と思うほどの堅実な指し回しで、第19図では成駒の大編隊ができあがっている。▲1五桂のムダ死には痛いが、大勢に影響はない。桂馬が使える局面ではないのだ。
 そして第19図から、かめぴょんが華麗に決める。

 ▲8三成桂△7四馬▲7三成桂△8四馬▲8三成桂△7四馬▲7三成桂△8四馬▲8三成桂△7四馬▲7三成桂△8四馬▲8三成桂まで

千日手


なにしてるかめぴょんorz

 まぁ、冷静に第19図を見てみれば、難しい形勢だとは思う。ここで▲5九銀から▲9八飛という手を指せるかめびょんじゃないし。しかし、いったん▲6三香成とするくらいでもよさそうだし、△7四馬には▲7五歩で、△8五馬にも▲8五歩で馬が死んでそうなんだけどなぁ。

 ログを見て理由が判明。
 手数が40手以内のため、序盤扱いで読み深さが4手だった。また、▲8三成桂には△9五馬を最善と判断していて、千日手にはならないとずっと考えていたらしい。
 これでは千日手になってしまうのも仕方がない。勝てた将棋だったとは思うのだが……orz。

 引き分けは痛いが、それよりも角打ちルーチンを外したおかげでちゃんとした将棋になったのは大きかった。今までの対局がそれで勝てたかというとそんなことはないが、これくらいちゃんと指してくれれば見ていてストレスは溜まらない。最終戦が楽しみになった。



■7回戦 Shallow Thoughtsvsかめぴょん

 棋譜はこちら

 7回戦はShallow Thoughts。初出場のソフトである。
 対局前、中の人が挨拶にいらした。

「あの、そちらが負けることは絶対にありませんから」
 随分と謙虚な人だなと思いつつ、いやそんなことないでしょうと言うと、
「いや、あの、バグがあってですね、相手玉の詰みを読み切ると手が止まっちゃうんです」
 え、じゃあ……
「はい。勝ちになっても絶対に勝ちません
 おいおいおいおい。
 対局前から99%かめぴょんの勝ちは決定である。しかし、2回戦みたいなこともあるしなぁ……(泣)。
「いやでも、そういうバグだったらそこそこ簡単に直せるんじゃないんですか? こう、詰み周りをちゃっちゃーと見て……」
僕プログラマーじゃないんです……」
「えっ?」
「プログラマーが来られないんで、代理で操作してるだけなんです……」
「そ、そうですか……」
 それではバグを直しようもない。
 しかし、とひとつ疑問が浮かんだ。かめぴょんは一応2勝しているソフトである。バグで必ず負けるソフトとスイス式で当たるのだろうか?
 対局表に目をやると、なんとここまで2勝しているではないか。
 あれ、じゃあ絶対勝てないなんてことはないんじゃあ……?
相手が切れ負けだったんです
「そ、そうですか……」
 バグがあることが判っていて、でも手を出せず、かといって棄権するわけにもいかずただ見ていることしかできない。それって……
「すっごく精神的にキツくない?」
「はい。すごい辛いです……」
 Shallow Thoughtsの中の人、無神経な発言ばっかでホント申し訳ありませんでした。

zu
 かめぴょんは後手なので普通の将棋へ。
 Shallow Thoughtsが▲7七玉と強情な手を指したため、△3四歩として若干有利になった。なんといっても先手の形が悪すぎる。
 そのあと△3三桂〜△4五桂としたので得はかなり減ってしまったが、それでも、第20図のように△8六歩△9五歩と守りの銀を攻めたのがうまく、飛車先を破ることができた。

 ▲4六桂に角を逃げなかったり▲4五桂に相手をしなかったりとなんかスピード感覚がおかしいが、かめぴょんは堅実に飛車先から攻め込んでいく。

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 そして第21図。▲9六歩は「指す手がありません」と認めたような手で、ここではかめぴょんの勝ちになっている。△4一銀打▲3一馬の交換を入れているところも見てほしい。なんともしっかりしているではないか。
 うさぴょんの育ての親さんもちょうど会場に到着した頃で、綾香、Shallow Thoughtsの中の人たちも交えて楽しく談笑していた。つーか綾香さん、自分の将棋はどうしたんだ(笑)。

zu
 そんなさなか、かめぴょんが華麗に決めてくれた。
 △5五桂▲6八金引△6七香▲7八金寄△4七桂左成▲同飛△6九香成(第22図)

 △4七桂左成といったん捨てて△6九香成とするのが明快な寄せ。単に△6九香成▲4九玉△4七桂右成でも勝ちだが、本譜も筋がいい。第22図は先手の飛車が無力化している。
 恥ずかしい話だが、白砂は第22図での△5九角成の詰めろが盲点に入っていたので、直前まで「大丈夫かかめぴょん、まさか△4七同桂成▲同玉とかでもう一山あるんじゃないだろうな」などと言っていた。「わたしなら見えなくてもいいけどあなたがそれはまずいでしょー(笑)」とはうさぴょんの育ての親さんの言だが、まったくそのとおり。情けない限りである。

 ちなみに、かめぴょんは△6七香を1分3秒で、△4七桂左成、△6九香成を50秒でそれぞれ指している。きっちり読みを入れて指しているあたり、ちゃんとしたソフトだと改めて感じた。やっぱりかめぴょんは悪くない(笑)。
 第22図はわかりやすい必死。Shallow Thoughtsは最後に▲7四桂と王手をかけたあと、▲6九玉と首を差し出した。

 かめぴょん快勝。



■対局終了後

 かめぴょんは3勝3敗1分1次予選12位の成績で終了した。

 あとひとつ勝っていれば2次進出できたかもしれないし、極端なことを言えば、6位の神乎棋技までが4-3の成績だったので、vsなり金将棋の引き分けが勝ちに変わっていただけでもどうなっていたかはわからない。しかしまぁ、そんな仮定の話をしても意味がないだろう。むしろ、実は全敗の覚悟もしていたので、3つ勝てたという方がとても嬉しい。相手のトラブルに恵まれた展開ではあるが、それもまた結果である。
 またこの辺りの星が微妙な感じなんだろうと思う。もう少しで2次予選進出ができる。そう考えたらどうしたって次も出たくなる。こうやって深みに嵌まっていくんだな(笑)。
 まぁ、次も出たいけどね。

 綾香の中の人も書いてたけど、白砂も次は独自プログラムで出場してみたい。

 実際にれさぴょんのソースを読み自分で動かしてみると、あぁなんで毎回ループして探さにゃいかんのかとか、このデータは持っておいたほうがいいんじゃないのとか、いろいろと考えることが出てくるのだ。データ構造から見直すことになって、そうなるとプログラムもだいぶ手を入れないといけない。そこまで手を入れたとしたら、それはもう自分で一から作った方がよさそうだ。
 定跡データも自分独自の方法で持ってみたい。できたら、手を木構造で持つのではなく、局面を木構造で持つような形で。そうすれば、中盤の部分だけ形の定跡を増やすとか、そういうドーピングができるかもしれない。7七桂戦法も3二金戦法も「組みあがった形は一緒だけどそこまでの分岐が多数」という戦法なんで、特に有効だと思う。
 思考部分にもいろいろ手を入れたいところがある。れさぴょんは脳みそのまったく入っていない赤ちゃんプログラムなので、それを成長させる楽しみもあってよかったが、結局時間もなく技術もなかったので幼稚園入園以前のレベルのまま選手権出場となってしまった。現在はBonanza式の全幅検索が流行しているが、白砂は「自分をシミュレートする」方法でプログラムを強くしていきたい。

 あ、そうか。そのときは名前どうしよう。
 やっぱここは『白砂青松の「今夜もうさちゃんピース♥」』で……(ウソですごめんなさい)。

 マジメな話を最後にひとつ。
 れさぴょんを読んで『コンピュータ将棋のアルゴリズム』を読んで思ったのは、やっぱこの本は難しい、ということだった。れさぴょんのソースをきっちり読みこなせる人でないとこの本は読めない。ポイントの手がかりらしきものはあるんだけど、それはあまりにも少なすぎる手がかりだ。もちろん、この本のスタンスはそういうものなのだからそれで問題はないんだけど、本当に「プログラム自体あんまりやったことがないけどこれからプログラムを作って選手権に参加したい人」がれさぴょんを使いこなすにはかなりの努力を要する。
 そこで、というわけじゃないんだけど、せっかくれさぴょんをさんざん読み込んだことだし、れさぴょんの内部を解説したものをなんか残そうかなぁ……と思っている。Readmeにあるような、このクラスはこういう機能があってね、だけじゃなくて、このクラスのこの部分にはなにを入れてね、そうするとこういう値が返ってくるの。で、この関数はどういう仕組みかというと、こういう流れで動いててね……みたいな、実際にれさぴょんを使いたい人のマニュアル的なものを書いてみたい。
 そうなると開発の時間がなくなって……みたいなことになっちゃうのかな(笑)。


 最後に。
 本来は、もっと早く原稿をあげるはずだったんです。

こんなことがなければorz

 


初版公開:2007年5月31日
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