将棋コラム


  後手一手損戦法 Date: 2003-08-28 (Thu) 
 なんだか最近将棋界を賑わしている戦法がこれである。
 いきなり序盤から、しかも後手番側が手損をするという画期的(笑)な戦法だ。

 手順はいろいろあるが、いちばん簡単な手順は▲2六歩△3四歩▲7六歩△3二金▲2五歩△8八角成▲同銀△2二銀(1図)である。

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 1図で▲2四歩は△同歩▲同飛△3五角があるので心配はいらない。よって、▲7七銀△3三銀▲7八金以下通常通りに進むが、後手は飛車先を突かずに駒組みができることになる。
 これが一手損戦法の効用なのだ。

 例えば受ける時、棒銀になった時に▲8四香△同飛▲6六角という手がある。右玉になった時に▲8四桂という手も生じる。8五まで伸びてしまった歩は空間(スキ)を作ってしまうのだ。

 例えば攻める時、8五に歩がいると△8五桂とできない。しかし歩が伸びていなければ△8五桂と指せる。
 2図を見てほしい。

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 先日の竜王戦本戦で現れた局面である。先手が谷川、後手が山崎5段。
 後手が一手損戦法を用いて、そのまま腰掛け銀定跡をなぞるとこの局面になる。ちなみに、通常の定跡形が3図。8四歩と8五歩の違いだけなのだが、実は、もう先手は次の指し手が難しいのだそうだ。
 実戦は、2図から▲4五歩△同歩▲3五歩△4四銀▲2四歩△同歩▲同飛△2三歩▲2八飛と通常の定跡と同じように展開したが、△8五桂▲8六銀△7三角(4図)とされて困っている。△8五桂が従来の定跡には発生しなかった手だ。

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 原理としては判らないではない。
 例えば、棒銀でいったん▲1五銀と出て△1四歩を突かせ、そのあと▲1五歩△同歩▲同銀と攻める手がある。歩はいったん突いてしまうと後ろには戻れないため、手損だとか手得だとかいうレベルとは別の次元の損得が発生するのだ。一手損定跡は、まさにその「別の次元」の得を求めたものである。

 この指し方がスタンダードになるかどうか、それは判らない。
 しかし、場合によっては居飛車(特に相掛かり系)の定跡を根本から変えてしまうことになるかもしれない。
 しばらくの間は、この展開の将棋は必見になる思う。

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