将棋コラム


  玉を詰ますまで 加藤−石田戦より Date: 2002-07-18 (Thu) 
 またまた『新・対局日誌』から。せっかく読んだので、ネタは活かさないとね(笑)、てぇか、いいのかなぁこんなパクって……。
 ま、この項はパクるだけのことはあると思う。というのも、『新・対局日誌』にはこう書いてあるのだ。

 本気で強くなりたかったら、第10図からを盤に並べられるとよい。ここに、玉を詰まさなければ勝てないし、詰ますのは容易でない、との将棋の本質があらわれている。
 もし並べれば、プロに二枚落ちでなぜ勝てないかが判るだろう。必勝になりながら、やさしい寄せを逃して負ける。後で教えられればばかばかしくなるような手でも、実はその正着は、やさしく見えてやさしくないのである。天才・加藤がこんなにてこずるくらいだから。
 というわけで、並べて強くなろうじゃないか、という企画である。これなら文句は言われないだろう(<ホントか?)。

zu

 1図は後手(石田)が△4五歩と突いたところ。実はここまでもの凄い紆余曲折があったのだが、それをここに載せていると長くなるので省略した。面白いので、できれば読んでみて欲しい(<宣伝(笑))。
 このまま△4四玉、△3五玉と逃げられれば後手の勝ちである。それをどう防ぐかというのが第一のテーマだ。
 ここでは▲4七金という手があったらしい。『新・対局日誌』によると、発見者は先崎プロだそうだ。△4七同馬と取れば▲5三歩成△4四玉▲5四と△3五玉▲2六金まで。「△4四玉、△3五玉と逃げられれば後手の勝ち」という先入観があるからこれは盲点だっただろう。しかし、この時既に加藤は一分将棋。それで正着を指せというのが無理な話なのだ。

▲3五金△5四金▲同香△3五銀▲5三香成△同玉▲5四金△5二玉▲5三歩△4一玉▲4三金△4二金(2図)

 先手は▲3五金と打った。
 △3五同銀は▲5三歩成△4四玉▲5四とで詰みだからこれは取れない。よって△5四金とこっちの手がかりを外してから金を取る。今度は4四〜5五〜4六というルートが開けた。
 そこで>▲5三香成から▲5四金として脱出を封じる。なんだか詰将棋の「打ち換え」の手筋を見ているようだ。そして▲5三歩と王手。もう入玉は封じたので、あとは手が続けばそれでいい。とはいえ簡単ではないのだが。
 ▲5三歩に△4二玉だと▲4四歩から▲6二とがある。よって△4一玉はこの一手。▲4三金には△4二金と打って更に粘る。▲4四歩で簡単そうだが、△5一金打ちで千日手になりそうだ。清算してしまうと攻めが続かないように見えるし、自分が一分将棋だったらここで発狂しそうだ(笑)。

zu

▲4二同金△同玉▲4四歩△同銀▲4三歩△5三玉▲5四金△5二玉▲3二歩成△同歩▲4四金△5八飛(3図)

 ▲4二同金から▲4四歩、▲4三歩が「言われれば判るけど見えにくい」手。実際に並べていて、この手には本当に惚れた。こういう手を見てしまうと無性に将棋が指したくなる(笑)。
 以下は後手は言いなりになるしかなく一本道だが、▲3二歩成が実に微妙な一手。先手玉への攻めはないから△3二同歩と取るのだが、効果が見えにくい手だ。かえって玉を広くしてしまった気もするし、大丈夫なのだろうか?

zu

 3図の△5八飛は攻めよりは受けの手。アマチュアは飛車を渡すのを怖がるが、プロは違うらしい。飛車と攻め駒2枚を交換すれば受け切れるということなのだろう。
 そういうことだから、3図で▲5三銀と打ち込むのでは△同飛成▲同金△同玉▲5四飛△4三玉▲6三と(第4図)としても、△6一桂▲5二飛成△4四玉でアッと言うことになる。一番初めの「△4四玉、△3五玉と逃げられれば後手の勝ち」という形だ。

zu

▲3二香成△同飛▲5四歩△6一桂▲5三銀△同桂▲同歩成△同飛成▲同金△同玉▲5四飛△4三玉(第5図)

 ▲3二香成
 ここで一歩を補充して▲5四歩。先の▲3二歩成はこれを見越してのことだったのだ。しかし、一分将棋でよく読めるもんである。さすがプロ。さすが加藤一二三。
 この効果は第5図と第4図を比べれば一目瞭然だろう(先手番と後手番の違いはあるが)。第4図は持駒なし、第5図は持駒に桂。この違いが大きいのだ。

zu

▲5五桂△3三玉▲3四飛△4二玉▲4四飛△3一玉▲4三桂成△4一香▲3二成桂△同玉(第6図)

 ここまでくれば▲5五桂と打って簡単……ではない。
 △3三玉▲3四飛は当然として、ここで▲3二飛成ではさっきまでと同じである。飛車1枚持ったところで後手玉は寄らない。また、▲4四飛△3一玉に▲3四桂も△3三金くらいで飛車交換の形。これもダメだ。
 とすると▲4三桂成はこの一手である。△3六飛は▲3四飛△同飛▲同桂で寄り。なので△4一香しかないが、▲3二成桂△同玉でとうとう飛車2枚を手にできた。さすがにここまでくればあとは簡単だろうと思いきや、まだまだ山はある。やはり第6図では攻め駒は3枚(7三と含まず)。切れない攻めというわけにはいかないのである。
 例えば、▲6二飛は△4二銀。以下▲3四桂と跳んでも△3三玉(4四の飛車当たり)で逃げられてしまう。

zu

▲3五飛△3三歩▲4一飛成△同玉▲3三飛成△4二銀(第7図)

 この局面、控室で検討していた羽生は▲1二飛と打ったそうである。△2二合なら▲4一飛成(取れば▲2二飛成)〜▲4五龍でいい。しかし、郷田に△2一玉と指されたアッと言ったそうである。△2一玉の局面では、先手の攻めは切れている。
 加藤は間違えなかった。
 上から▲3五飛と打ち、▲4一飛成〜▲3三飛成と押さえつけるのが好手。第7図の局面では7三のと金が光っている。つまりこれを攻め駒と見込め、4枚で上から攻める体制が整ったのである。

 今度こそ後手玉をつかまえた。あとは収束である。

zu

▲4四香△3二金▲3四桂△6四馬▲4二桂成△同馬▲5三銀 まで

 判りやすく上から押さえつける。基本中の基本だが、それがなかなかできないものだ。この局面に来るまでにも何度も出てきたが、果たしてアマチュアの私達が簡単に指せるかどうか。
 △3二金には▲3四桂と跳ねて数の攻め。△3三金は▲4二桂成で詰みだから龍は取れない。△6四馬と受けた手に銀を取って▲5三銀とあくまで上から押さえつけて、最後は綺麗な必死がかかった。△6四馬で△5二金打などとしても全く同じ手順で必死になることを確認して欲しい。

 有段者にとっては当たり前の手順だったかもしれないが、図面も豊富に盛り込んで(『新・対局日誌』の倍はある)くどいくらいに解説してみた。解説というより自分が納得するためのものだったのだが(笑)、自分でもためになった。
 なんか、将棋指したいなぁ。

[前頁]  [目次]  [次頁]



- Press HTML -