将棋コラム


  第55回NHK杯佐藤康vs青野戦より 〜頑強な受けに対して〜 Date: 2005-11-27 (Sun) 
zu NHK杯佐藤−青野戦の落ち穂拾いを一つだけ。

 第1図は後手の青野が△8八銀と打ったところ。「本に載っている手」という典型的な手筋で、先手は詰ましにいったが詰まなかった。

 ここで▲7九銀と受ける手については、受けになっていないということを前コラムで示した。
 しかし、ここで▲7九金(第2図)と受ける手はないのだろうか?
zu 恥ずかしいことを告白すると、白砂のこの局面をはじめ丸一日考えた。「▲7九金も受けになっていない。よって先手は詰ましに行くしかなく……」と書きたいためだけにである(笑)。
 しかし、どう考えても先手玉が寄らないのである。

 わざわざコラムを分断して出したのもこのためで、簡単に結論が出るなら「▲7九金も受けになっていない。よって先手は詰ましに行くしかなく……」とすれば2部構成で済む。その部分が変わってしまう可能性があるために、後半部分だけはまだ公開するわけにはいかなかったのだ。

 結果的に週が変わるまで考え、それでようやく結論が出た。
 しかし、あまりにも変化が多いので項を設けて独立させた。
 以下は、白砂が一週間考え抜いた結論である。かなりはしょって説明している部分もあるが、ホントに入りきらないほどの変化なので勘弁して欲しい。
zu まず、第2図から△同銀成▲同玉△6七とというような軽い攻めでは、▲6三銀△同玉▲4五角△5四銀▲7五桂△7四玉▲6七角(第3図)くらいで難しい。

 この「▲4五角と打って6七の駒を抜く」という手は随所に出てくる。この切り札があるため、簡単に寄りそうな玉が全然寄らないのだ。

 第3図で△8八歩という攻めはあるものの、そこで▲6六歩(▲8三銀△8四玉▲8六香△8五歩合▲同香△同玉▲8六銀以下)と詰めろをかけられると、これが意外と攻防の一手で寄りがない。
 厳密には後手が有利なのかもしれないが、「……にて寄り」という展開ではないだろう。

zu 第2図で△7七銀成という手も考えられる。
 しかし、▲同桂と取られると意外なほど手がない。

 △8八飛は▲5九銀(第4図)と受けられてしまい、 どれも後手が大変な将棋だ。
zu △8八銀にもやはり▲6八銀と埋め、
zu どちらにしても後手が寄せ切れていない。
zu 第2図で△4八歩という手も考えた。
 ▲4五角は詰めろではないので、△4九歩成で勝ちという読みである。

 △4九歩成以下、先手も▲6三銀△5三玉▲5四銀不成△4四玉と6五に利かせてから受けてみるが、▲7八玉は△7九銀成▲同玉△7八金▲同玉△6九銀(第7図)で詰み。
zu ▲8八銀も△5九飛▲7八玉△6八金▲同金△同と▲同玉△5八飛成▲同飛△同角成▲同玉△4八飛▲5七玉△6八銀▲6六玉△6五金▲同銀△同歩(第8図)で詰みである。
 手順が長くて申し訳ないが、前者は捨駒を連発して△5九飛から尻金の形にして詰み、後者は最初に飛車を打っておくことだけ間違えなければ清算して詰みと、ゆっくり見ていけばさほど難しくない手順だ。
zu また、最初の▲4五角で▲8八銀△4九歩成▲7八玉と一目散に逃げ出す手も、△6七と▲同玉△6六銀(第9図)でやはり即詰み。これらの変化は長いが全て割り切れている。
zu この辺りの変化を潰すだけで、激指4と柿木8を駆使しても半日近くかかった。
 しかし、まだ△4八歩に▲同金(第10図)の変化が残っている。

 第10図で考えるのは3通り。 一つずつ見ていこう。
zu まず△4九同とは▲4八同飛(第11図)で先手が勝ちそうだ。
zu 
zu △7九銀成▲同玉△5九飛には、今度は▲6九香と打つしかない。第11図以下と違い5七にと金が生きているので、▲6九銀では△7八銀▲同玉△6七と▲8八玉△7七と▲同桂△8九金(第13図)で詰んでしまう。
zu しかし、▲6九香と受けられるとやはり攻めが難しい。
 △6七とはやはり▲6三銀△同玉▲4五角△5四歩▲7五桂△7二玉▲6七角(第14図)。これは角取りや▲6三銀や▲2四飛と先手に手が多い。
 △4八とはやはり▲同飛と払われていると、△5八飛成は▲同飛△同角成に▲5一飛で詰み。△5八角成は▲同飛△同飛成▲6三銀△同玉▲3六角で王手龍。
zu 最後に△3九飛。
 ▲4九香と受ける一手(▲5九合は△7九飛成▲同玉△5九飛成で後手勝ち)だが、こうやって右側を壁にさせてから△7七銀成▲同桂△8八銀(第15図)と打ってどうか?
zu この手は△7九銀成▲同玉△6八金以下の詰めろだが、金のない先手は妙に受けづらい。
 ▲5七金は△7九銀成▲同玉△4九飛成で詰みだし、▲6三銀△同玉▲2七角と4九に利かせても△3六銀(第16図)と逆先を取る手があって後手が勝つ。
zu 残るは▲6八銀と受ける手だが、△同と▲同玉△7七銀成▲同玉△6五桂(第17図)と進むと第6図との違いが判る。
zu 第6図では▲6八玉と引けたが、第17図では▲6八玉と引くと詰んでしまう。
 第17図では▲6六玉と上に逃げる一手だが、△5六金▲7五玉△7四銀▲8六玉△8五銀打▲9五玉△9四歩▲8四玉△2九飛成(第18図)で、後手玉は詰まず先手玉は必死で後手が勝ちとなる。

 整理すると、▲7九金には、△4八歩が急所。
 ▲同金以外の攻めでは後手にスピードで勝てず、▲4八同金の一手に△3九飛▲4九香△7七銀成▲同桂△8八銀で後手勝ち。
 以上の7手を読めば後手勝ちが判るが、この仕組みを見出すまではとても時間がかかった。単純に△7七銀成▲同桂△8八銀はダメで、一度右側を埋めてからという事前工作がまたなんとも読みにくい。
zu ついでに言うと、△3九飛▲4九香に△3八金(第19図)という手を深く読んでしまったため、そこで時間を随分浪費してしまった。

 興味のある方は調べてみて欲しい。例えば、第19図で▲4五角△5四歩▲8八銀という手順では、あとで△6六銀という捨駒があって後手が一手勝ちとなる。

 以上である。
 自虐的とも言える脳味噌の使い方をしてしまったが、なんだかんだ勉強にはなった。読んでくれた人が勉強になるかどうか判らないところが問題だが(笑)、ここまで考え抜いて出した結論を使わずに捨ててしまうというのはそれこそ自虐的なので許して欲しい。

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