総合 − 大局観


 週刊将棋の伝説シリーズ4 大覇道伝説
著者名週刊将棋/編

級位者☆☆☆☆
出版社名毎日コミニュケーションズ 初段〜3段☆☆☆☆☆
価格1000円 4段以上☆☆☆☆☆
感想

 定跡をなぞって進行している間は、将棋を指していてもある程度気が楽なものである。
 しかし、一度定跡を離れると、自分の大局観と読みが全てを決めることになる。これは楽しくもあるが、同時にとても怖いことだ。特に「腕力」に自信がない人にとっては、その恐怖感はより強いものになる。
 本書は、そういった定跡を外れた局面、漠然とした場面での指針を解説したものである。特定の戦形に限らず、序盤での差し手争い、中盤でのもみ合い、終盤での競り合い全てについて解説をしているので、非常に「お得感」が強い(笑)。
 大局観という形にしにくいものを表現することに挑戦し、そして成功した良書と思う。



 金言玉言新角言
著者名週刊将棋/編

級位者☆☆☆☆
出版社名毎日コミニュケーションズ 初段〜3段☆☆☆☆☆
価格1200円 4段以上☆☆☆☆☆
感想

『大覇道伝説』と同じく、大局観、局面の考え方について書かれた本。もう刊行されてから随分経つのだが、素材が定跡のように日々変わるわけではないだけに今でも十分通用する内容である。
 実戦から遠ざかっている社会人、OB達から「力弱い」と評されている現役生には必読である。
 試合の日、会場に向かう電車の中でよく読んでいた。なんかそれだけで力が出てきそうな本である。良書と思う。



 読みの技法
著者名島 朗/編著

級位者☆☆☆
出版社名河出書房新社 初段〜3段☆☆☆☆☆
価格1300円 4段以上☆☆☆☆☆
感想

 島八段が出題する局面について、羽生・佐藤・森内の三者が自分の「読み」を披露する。局面は漠然としたものが多く、次の一手のように厳然たる正解が存在するものではない。つまり、トッププロの三者が「実戦でどう読んでいるか」が正直に書かれているのである。
 実際にその局面に出会った時、どういう風に読みを展開していくのがいいのか。棋風の違いなども考慮しつつ読むと読み物としても楽しめる。

 このシリーズは全体的に有段者向けに書かれているので級位者には辛いかもしれないが、それでもできれば手に取ってほしい。
 もちろん、有段者は必携である。



 将棋の公式
著者名加藤 治郎/著

級位者☆☆☆☆☆
出版社名東京書店 初段〜3段☆☆☆☆☆
価格 4段以上☆☆☆
感想

 これを知っている人は相当古い人か、さもなくば「通」であると断言する。

『将棋は歩から』の加藤治郎名誉九段(確か死んでこうなったと記憶している)の、1981年の著書である。
 内容は『将棋は歩から』に劣らず高度なもので、将棋を指す上での基本的な考え方を講義している。こういう類の素材は時が経っても色褪せるものではなく、また、加藤名誉九段の将棋に対する姿勢も手伝ってか、現在でも立派に通用する名著である。

 将棋とは高等数学である。そして数学とは、公式を組み合わせて解いていくものである(というか、数学を判りやすくしているのが公式である)。プロが短時間の読みでも最善手を逃さないのは、この公式に基づいて考えているからであり、弱い人が長く考えても悪手を指すのはこの公式が理解できていないからである。だからこそ、定跡や寄せなどの「末端」の知識よりも、将棋の「本質」に直結する公式を理解するべきである……と、長くなったがこれが本書の基本姿勢である。
 目次を見ればそれが判るだろう。
 本書では公式を大中小に分け、大型公式と中型公式について解説している。内訳はそれぞれ、

  大型公式
    数の公式
    さばきの公式
    位取りの公式
    陽動の公式
    死角の公式
    焦土の公式
  中型公式
    成りの公式
    各個撃破の公式
    手得の公式
    駒得の公式
    良形と悪形の公式

 となっている。
 言葉だけでは意味が判りにくいものもいくつかあるが、有段者なら何を言わんとしているかは判る筈だ。これだけ重要な問題をまるまる一冊かけて丁寧に解説してくれるわけである。
 また、『将棋は歩から』もそうなのだが、棋書には珍しく二色刷り&横書きである。図面が本物の盤駒と同じ色というのも凄いし、横書きの棋書なんてこの本くらいだろう。これは想像だが、先に出た「将棋は高等数学」を意識してのことと思われる。
 これを見つけたのは、確か大和の古本屋だったと思う。古本屋での値段は400円だったが、その何十倍分もの知識をこの本からはもらった。おそらくほぼ間違いなく絶版だと思う。こんな良書を埋もれさせるとは、一人の愛棋家として本当に情けない限りだ。

付記:この『将棋の公式』は2000年に復刻された。一人の愛棋家として本当に嬉しく思う。



 イナズマ流逆転術
著者名森 鶏二/著

級位者☆☆☆
出版社名毎日コミュニケーションズ 初段〜3段☆☆☆☆
価格1200円 4段以上☆☆
感想

『終盤の魔術師』森9段が書いた「逆転術」の解説書。

 ……と聞くと面白そうなのだが、実戦での逆転劇を見せられても、それを体系化できんのかい、という疑問が残る。まぁ、本書はそこそこうまく分類整理している方だと思うので、読んでいて苦にはならない。

 立ち読みならいいけど、買うほどでもないなぁ……というのが本音である。申し訳ない。



 佐藤康光の戦いの絶対感覚
著者名佐藤 康光/著

級位者☆☆☆
出版社名河出書房新社 初段〜3段☆☆☆☆☆
価格1400円 4段以上☆☆☆☆☆
感想

 序盤中盤終盤の各局面での考え方について、佐藤康光の考え方を解説していくことによって習得しようという内容。『読みの技法』の佐藤先生特別レッスン版である。

 非常に高度な内容なので、有段者でないと理解できないかもしれない。懇切丁寧に解説しているようでいて、基本的な大局観などは「あるもの」として解説しているので、基本ができていない人が読んでもきっとチンプンカンプンだと思う。そういう意味では非常に読者を選ぶ本である。
 もっとも、佐藤の大局観を解説してもらっているわけなのだから、簡単なわけがない。仕方がないというものだろう。



 森内俊之の戦いの絶対感覚
著者名森内 俊之/著

級位者☆☆☆
出版社名河出書房新社 初段〜3段☆☆☆☆☆
価格1300円 4段以上☆☆☆☆☆
感想

『佐藤康光の戦いの絶対感覚』の森内バージョン。こうなると、藤井や丸山あたりのバージョンも欲しいところだ(笑)。

 佐藤のそれと同じく、非常に高度なことをやっている。ただし、個人的な印象なのだが、森内の方が若干「もみあい」の局面が多いので、読んでいて判りがいい。佐藤の方が、抽象的な局面が多かったように思う。それも棋風の違いなのだろうか。
 同様の内容なので、やはり級位者には辛い。2、3段クラスでないと理解はできないと思う。



 これで簡単形勢判断
著者名高野 秀行/著

級位者☆☆☆☆
出版社名毎日コミュニケーションズ 初段〜3段☆☆☆☆
価格1200円 4段以上☆☆☆
感想

「大局観」に関する著書は意外と少ないが、その最新刊になると思う。『これにてよし?』の続編といってもいい内容である。
 基本的なコンセプトは前回と変わらない。従来から言われている形勢判断の4つの要素……駒の損得、玉型、駒の働き、手番……を分析して、現在の局面の形勢判断をするというものである。初級者にとっては大事なことなので、本書を読んで勉強するのはいいと思う。

 ただ、題材がありきたりというかそんなにたいしたものではない(と白砂は感じた)ので、初段以上の人が改めて読むのはどうだろう、という気がした。いくつか面白い変化はあったので損はしないと思うが、かといって感銘を受けるほどではない。
 個人的に言わせてもらえば、本当にプロが本書のような形勢判断法をもって形勢判断を行っているのかどうかが気になる。なんかこの4つの要素というのは「使い古された感じ」がしてしまうのだ。
 例えば、「駒の働き」という項目。何をもって働いているかというのを判断するのが形勢判断の1つだと白砂は思うのだがどうだろう。「それが判りゃ苦労しねえんだよ」みたいな(笑)。非常に抽象的だと思う。
 逆にプロになればなるほどそういう部分は「感覚」で判るようになってくるので、それを文字にして伝えるのは難しいと思う。しかし、初級者の底上げのために本当に役立つのはそういう感覚の部分を数値化することだと白砂は考えている。その点、ちょっと本書は気になった。

 もちろん、それこそ「それができりゃ苦労しねえんだよ」というプロの声が聞こえてきそうな贅沢な要求なのだが(笑)。



 羽生善治の戦いの絶対感覚
著者名羽生 善治/著

級位者☆☆☆
出版社名河出書房新社 初段〜3段☆☆☆☆☆
発行年月/価格2001.11/1,400円 4段以上☆☆☆☆☆
感想

 絶対感覚シリーズ第3弾。シリーズ決定版ともいうべき羽生の登場である。

 しかし、正直に感想を言うと「物足りなかった」。
 今までの2冊(佐藤、森内)に比べて、キレがあまりない感じがするのだ。
 題材の選び方が白砂の肌に合わなかっただけかもしれないが、なんとなくよくある局面のよくある解説を聞かされている感じがした。
 それでも、大局観というものを考える上で有効な指針が数多く含まれていることは間違いない。このシリーズ、ここで打ち止めになっている感じがするが、できればもっと他の棋士のものも読みたかった。

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 実戦!!森内の次の一手 勝利の三段論法、優駿流ここでどう指す
著者名小暮 克洋/著

級位者☆☆☆
出版社名主婦と生活社 初段〜3段☆☆☆
発行年月/価格2000.9/950円 4段以上
感想

 森内優駿流(どうもこのネーミング好きになれないんだけどなぁ……)シリーズの一冊。現状を正しく認識し、それを踏まえてどうすべきか方針を立て、指し手を決定するという考え方の本である。
 一度読んでみるのはいいかもしれないが、そんなに凄い本でもないなぁ……というのが正直な感想。ただ、初段直前くらいの人で、「茫洋とした局面でどう指せばいいか判らない」と感じている人は一度手にとって見るといいかもしれない。なにか発見があるかもしれない。
 ……かも、だけど。

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 羽生の新格言集105
著者名羽生 善治/著 木屋 太二/著

級位者
出版社名日本将棋連盟 初段〜3段
発行年月/価格2001.4/1,300円 4段以上
感想

 

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 谷川浩司の戦いの絶対感覚
著者名谷川 浩司/著

級位者
出版社名河出書房新社 初段〜3段☆☆☆☆
発行年月/価格2003.4/1,400円 4段以上☆☆☆☆
感想

「戦いの絶対感覚」シリーズから、ついに待望の谷川版が出版。
 どんな内容なんだと期待して、立ち読みだけでは飽き足らず結局買ってしまいました(笑)。

 で、内容なのだが……。

ち ょ っ と 残 念

 谷川自身の実戦譜を元にしている、という部分もあるのかもしれない。しかし、それにしてもなんとなく解説に既視感がある。どこかで聞いたような解説ばかりなような気がするのだ。
 しばらく読み進めて、判った。
 観戦記を読んでいる時と、全く同じ空気なのだ。

 今までの「戦いの絶対感覚」シリーズは(特に最初の佐藤・森内のは)、まさに「感覚」の部分を解説してくれたように思う。ところが、前回の羽生版あたりからだと思うのだが、単に実戦譜を解説してるだけやん、みたいな感じに変化している気がする。
 特に谷川の場合、その鋭い攻めは谷川ならではという感が強いので、よりいっそう普遍的でない解説になっている。なので、どうしても「この呼吸を会得しよう」ではなく「おーすげー」となってしまって、これが自分の血肉になるのか疑わしくなってくる(笑)。

 読んで全くためにならない、とまでは言わない。
 ただ、これを読んだから強くなると断言できるか……というと、ちょっと疑問だ。
 ちょっと邪道な感はあるが、谷川の好プレー集として読むと楽しめると思う(笑)。

(2003.5.21 記)

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